昔世話になっていた隠れ里の姫様が逃げてきて再会してなんやかんやな感じのファンタジー ①
※2014年頃に書いていた文章です。
プロローグ
ーーーー熱い。背中からジリジリと灼けつくような熱さが伝わる。
私の背後には炎が迫っていた。
背後だけではない、周囲の景色のほとんどが炎に包まれていた。
私は炎の中を必死に駆け抜ける。
今駆け抜けているこの場所はこの国で一番賑わいのある市場があった所だ。
夜まで人が集まりがやがやと賑わっていたこの場所にそんな面影なんてどこにも無い。
たくさんの果物を並べた彩り豊かなあの店も、匂いを嗅いだだけで涎が垂れてしまいそうな肉を焼いていたあの屋台も。どれもこれも破壊されてしまった。きっとその市場の人々も。
ここまで来るのにたくさんの人が死んでいるのを見た。
壁にもたれかかるようにして動かない男性、何かを庇うように蹲っている女性…彼女の腕に抱かれていた子供はピクリとも動なかった。血塗れで横たわる人もいた。
きっと生き残った人などほとんどいないであろう、それほどの惨事が起きている。
その惨事で私も家族を失ってしまった、私を庇って死んでしまった。
怪我は負ったがそれでも痛みで立ち止まる訳にはいかなかった。
私は生きねばならない、私を守り死んでいった家族の為にも。
きっと追手も来ている、少しでも立ち止まったら私は死ぬだろう。
ずっと走っていたから、息が苦しい。この炎の中だ、酸素も薄い。
息苦しさと今まで走り続けたせいで体力も限界だ、私は膝から崩れ落ちそうになるのを壁に手をついてなんとか堪える。
「はぁ…はぁっ…!だめ…立ち止まってる暇ないのに…!」
一刻も早くこの外に出るんだ。早くしないと…。
ーーーーカツッ。
その時後ろの方で足音がした、それも結構近い所で。
しまった、もう敵に追いつかれてしまったのだろうか…。
相手が1人ならなんとか切り抜けられそうもあるが複数人だったら…まずい。
思うように動かない足を引きずり目的の場所へ向かう。
(あそこなら…あの人達も存在を知らない筈…。なんとしてでもそこへ行かなきゃ…)
この国は岩で囲まれてできている為、出入り口は限られている。
その出入り口はもう敵の手で塞がれてしまっているだろう、そんなところへのこのこ現れる訳にはいかない。
だけど一部の人間しか知らない秘密の場所がある。
本来は緊急時に開放する為のものだが、そんな間もなくこんなことになってしまった。
以前から警戒していたのだが、敵の力は予想以上だったということだろうか…。
とにかく急がなければ、足を無理矢理にでも動かして進まなければ。
先ほど聞こえた足音も少しづつ近づいて来ている。
秘密の場所まであともう少し、ここを無事に出られたら彼の所へ…。
黒髪で紅い瞳をした少年の姿を思い出す。
1年前、理由も言わずに護衛役を解雇してしまったから、もし会っても助けてはくれないかもしれない。むしろ恨まれているかもしれない。
それでも頼れるのは彼だけだ。
解雇した後もこっそり暗躍部隊に彼の近況を調べさせていたので居場所は分かる。
その暗躍部隊も壊滅してしまったが…。
「そぉんなにのんびり逃げててぇ~、もしかしてぇ捕まえて欲しいのかなぁ?それともぉ…殺して欲しいのかなぁ?」
後ろからこの場に相応しくない明るい声が聞こえてきた。
振り向いた先には…にこにこと笑顔を浮かべ露出の高い服に身を包んだツインテールの少女がいた。
「あ~、暑い暑い。ちょっと気合入れて火をつけすぎちゃったなぁ…喉渇いたなー」
パタパタと手を扇ぎこの暑さにげんなりしているようだ。
発言からしてこの少女がこの国に火をつけた張本人のようだが。
「もうあなたのお父様も死んじゃったわけだしぃ…そろそろ鬼ごっこなんて止めにしなぁい?」
「ふ、ふざけないで!アンタが父様を殺したクセにっ!」
「あっれー?そうだっけぇー?忘れちゃったー、ウフフ!」
ペロッと下を出してイタズラっぽく笑う少女の手には小柄な体型には似つかわしくない、ゴツゴツした巨大なハンマーが握られていた。
ハンマーには僅かに血痕らしきものが付いている。
ここまで逃げてこられたのは、この少女の襲撃から身を挺して庇ってくれた父のおかげだった。その場にいた兄も同じように…。
「まあまあ、とりあえずぅ~、鬼ごっこはぁ…もう…」
少女はハンマーを構え私をにこにこ笑顔のままじーっと見つめる。
私も警戒し構える。
「おっしまーーーいっ!」
にこにこ笑顔から悪魔のような笑顔に一変し、言い終えるや否や少女は地面を蹴り凄いスピードで迫って来た。
巨大なハンマーを持っているとは思えないそのスピードに唖然として迎撃の体制を整えられていない私の目の前まで迫っていた。
「ごめんねぇ、その可愛いお顔…グチャグチャにしちゃうねぇぇっ!」
少女はハンマーを振り上げ私に向かって振り下ろそうとする。
気付いた時には遅かった、避けようにも間に合わない。
振り下ろされるハンマーに死を覚悟する。
「ーーーーさせないっ!」
ガキィィィィンッ!金属が何かにぶつかる音が響く。
私の前には見慣れた青髪の青年がいた。
その手には少女のハンマーと見劣りしない程の大剣が握られている。
青年が攻撃を大剣で防いでくれたようだ。
「ルディ兄様っ!!!」
私を庇い死んでしまったと思っていた兄が目の前にいた。
「あっれー?この顔はちょっと見覚えあるような気がするなぁ、君は確かにぐちゃっと潰したと思ったんだけどなぁ」
「…完全に防げた訳ではないが…一応僕も魔術は使えるんでね、咄嗟に防御術を唱えたのさ」
「へぇー!やるじゃあん、それでもあたしの攻撃を受けて立ってられるなんてぇ…惚れちゃいそー!」
ポッと表情を赤らめるものの少女の力は変わらず、攻撃を受け止めた兄の大剣を押し戻そうとする。
兄の頭から血が一筋流れる。
「に、兄様!血がっ…」
「ただの擦り傷だ!それより早くっ!」
「でも兄様が…!」
「心配ない!…いいから早く逃げるんだっ!」
頭から流れる血はダラダラと流れていて、擦り傷程度と思えないほどの怪我をしているのは一目瞭然だった。
そんな兄を置いて行けるわけも無く、私は立ち尽くしてしまう。
「…っうおおおおおおお!」
雄叫びと共に少女のハンマーを弾き返す兄。その表情は鬼気迫っていた。
兄はおもむろに胸のペンダントを引きちぎるように外すとそれを私の方へ放り投げる。
「僕が行くまでそれを持っていてくれ!」
受け取ったのは母から譲り受けたという碧と紅色が混ざったような不思議な色をした大粒の石のペンダントだった。
「僕がそれを大事にしていたのは知っているだろう!必ず返してもらいに行くから早く逃げろ!!」
「に、兄様…!」
「あたしが逃がすと思うのぉ~?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら少女は軽々とハンマーを頭の上でくるくる回していた。
「僕が逃がしてやるさっ!さあ、行くんだコノリ!!」
目頭が熱くなりジワジワと涙が溢れてきそうな感覚がする…兄は覚悟を決めていた。
兄にその場を託すことを決めて、私は再び走り出した。
先ほどまで足があがりそうもなかったのに…兄の覚悟が私に力をくれる。
「兄様…ありがとうっ!!」
私は兄の耳に届くように大きな声で叫んだ。
兄は振り返らなかった。
私も振り返らずにただひたすら走った。
ぎゅっと兄のペンダントを握りしめて、ただひたすら走った。
「妹を頼んだぞ…ペング」
私の耳に兄の呟きが聞こえたような気がした。
そして、一際大きな音が鳴り響いた。




