五話 契約結婚
「………………え?」
「ですから、私と結婚していただけませんか」
「……何を仰っているのか、わからないのですが……」
「そのままの意味です。エヴァンローズ公爵家に嫁ぎませんか、と申し上げています」
____理解が追いつかない。この方は、本当に何を仰っているの?
大した用じゃないって言ってたわよね?
その用が、これだっていうの……!?
「…………一つ、伺っても?」
「はい、なんでしょう」
「なぜ、私なのですか? あなたのことを慕っている未婚のご令嬢は、たくさんいらっしゃるじゃりませんか」
「だからですよ。レディ、あなたは私に興味がないでしょう」
「……」
ますます意味がわからない。確かに私は、エヴァンローズ公爵閣下のことを慕っているわけではないけれど……。
それが、どう関係しているというの?
「私は女性に興味がありませんが、立場上未婚のままではいられませんから。貴族に結婚は付き物です。それはあなただってそうでしょう。だから、一人でこんな夜会にいらっしゃる」
「……それは、そうですが」
「ですが、あなたは私に興味がない。そして、私は女性に興味がない。でも、お互いに結婚しなければならない……。ならば、私達が結婚してしまえばいいと思いませんか」
「…………私が今、貴族の間で何と言われているかご存知ないのですか?」
「存じ上げていますよ。ですが、私と結婚すればその様々な噂も上書きされるでしょう。エヴァンローズに物を言える人間など、王族くらいのものです」
……正直、公爵閣下のご提案は……私にとっては渡りに船だ。
なんとしてでもフローレンス伯爵家から逃げ出したい私にとって、これ以上魅力的な提案はない。
それに、公爵閣下の仰っていることもわかる。女性に興味がない彼にとって、下手に自分を慕っている女性と結婚なんてしてしまったら、面倒なのでしょう。
けれど、公爵閣下は本当にそれでよろしいのかしら。私は……『作物が実らない畑』なんて言われているのよ?
……まぁ、彼自身も不能と噂されていたくらいだもの。そこは、お互い様か……。
どちらにせよ、この様子だと私の家に書状が送られるはずだ。そうすれば、私に拒否権はない。
公爵家との繋がるチャンスを、あの両親が逃すわけないもの。
ならば、腹を括るしかない。
「…………わかりました。私、あなたと結婚いたします。ですが、一つだけ約束していただけませんか」
「はい、なんでしょう」
「何があっても絶対に、私のことを愛さないでください。その代わり、私もあなたを絶対に愛さないと……約束いたします」
私がそう告げると、エヴァンローズ公爵閣下は驚いたように目を見開いた。
この人も、こんな顔をするのね。
「……いいでしょう。契約結婚ということですね」
「えぇ、お互いにとって利がありますでしょう?」
「そうですね。こちらとしても願ったり叶ったりです。では……これから夫婦として、よろしくお願いいたします」
そう言って公爵閣下は……私に右手を差し出してきた。どうやら、握手を求めているらしい。
……どう考えても、プロポーズ後の行動ではないけれど……でも、契約結婚だもの。それくらいが丁度良いわ。
「えぇ、こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」
____こうして私は、彼と『愛のない契約結婚』をすることになったのである。




