二十二話 どうして
「奥様、大変お綺麗ですわ」
「ありがとう、あなた達のおかげよ」
「お、奥様〜……! きっと、旦那様も奥様の美しさに驚かれることでしょうね!」
「う〜ん、それは……どうかしらね?」
今日は、リュシアン様との結婚式。純白なウェディングドレスを纏った私を見て、楽しそうにはしゃぐ侍女達とは対照的に、私の心は凪いでいた。
別に悪い意味ではない。ただ、私自身は二回目の結婚式だし、あくまで契約結婚だし……。それに、唯一の問題だった誓いのキスは、ちゃんとフリで誤魔化してくれるって約束してくれたもの。
心配することなんて、何もないわ。
鏡を見ると、首元を飾るダイヤモンドがキラキラと光を反射して輝いている。うん、綺麗ね。私には本当に……勿体ないくらい。
____コンコン、とノックの音が響く。
「ミレイユ、入ってもよろしいですか」
「もちろんですわ、リュシアン様」
リュシアン様がカチャ……とゆっくり扉を開けて、控え室に入ってくる。
その姿に……思わず、私は見惚れてしまった。
美しい氷色の髪に青い瞳が、真っ白なウェディングスーツとよく似合っている。化粧をしていないはずなのに肌は陶器のようだし……本当に、どうしてこんなに美しい人と結婚することになったのかしらね。
ぼーっとリュシアン様の顔を見つめていると、向こうも私を見て固まっていることにふと気付いた。
「あの、リュシアン様……?」
「……すみません、ちょっと考え事を」
「ならよかったです。私に変なところでもあるのかと……」
「いえ。その………………良いと、思います」
「ありがとうございます。リュシアン様はいつも美しいですけれど、今日はとびきり素敵ですわ」
私がそう褒めると、リュシアン様は少しだけ目線を横に逸らしてから「ありがとうございます」と呟く。……女性に興味がないと公言している方に、容姿を褒めるのは良くなかったかしら……?
なんだか、頬も少し赤くなっているし……怒っていらっしゃったらどうしましょう……。
「僭越ながら……。旦那様、そろそろお時間です」
「あぁ、わかった。ではミレイユ、今日はよろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそ」
そう言って、旦那様は控え室から退出された。
……この後は、久々に父と会うのね。いくら二回目の結婚だからといって、控え室にも来ないような家族に会うのは、気が進まないけれど……。まぁ、エスコート役が父だから、仕方ないわ。エヴァンローズ公爵家の結婚式に泥を塗るような真似はしないでしょうし。
「奥様も、そろそろ参りましょう」
「……そうね」
アンナに連れられて、私は教会の大きな扉の前まで移動する。
そこにはまぁ、予想通り父が仏頂面をしながら立っていて、私の姿を見るなり「二度も結婚式を挙げるなど……ロザリーの方がこの場に相応しいだろうにな」と吐き捨てた。
私はその言葉に「そうですね」とだけ返事をして、父と嫌々腕を組んでから入場する。
オルガンによる演奏が鳴り響く中、教会のガラスから太陽光が差し込んでいて……とても神秘的。
____なんだか、この景色も懐かしいわね。三年前はもっと、希望に満ち溢れていたっけ。
……なんてことを考えながら歩いていると、あっという間にリュシアン様の側まで到着した。私は父から解放されてすぐ、リュシアン様に腕を絡める。
そうして祭壇の前まで二人で歩くと、神父がゴホン、と咳払いをしてから口を開いた。
「リュシアン・エヴァンローズ。あなたはミレイユ・フローレンスを妻とし、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、生涯変わらぬ誠意をもってこれを愛し、敬い、守り抜くことを誓いますか」
「誓います」
「ミレイユ・フローレンス。あなたはリュシアン・エヴァンローズを夫とし、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、生涯変わらぬ誠意をもってこれを愛し、敬い、支え続けることを誓いますか」
「えぇ、誓います」
誓いの言葉を宣誓して、指輪の交換。ここまでは打ち合わせ通りスムーズに進んで、あとはキスのフリをするだけ。
「……それでは、誓いの口付けを」
神父の言葉を聞いたリュシアン様が、私のベールをゆっくりとあげる。それから、少しだけ熱に浮かされたような……そんな見たこともない表情で私の唇に近付いてきて……。
……ふにゅ、という柔らかな感触が、私の唇を刺激した。




