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二十話 夢か現か

 ***


「…………ここは……」


 ____気が付くと、私はエヴァンローズ公爵邸の執務室に一人、ぽつんと立っていた。


 足元が覚束ない。歩こうとしても、足が重くて前に進めないのだ。


 どうしたものかと思っていると、突然目の前にリュシアン様が現れた。

 驚く私に、リュシアン様は____あの日のアルフレッド様のように、とても申し訳なさそうな声色でこう告げてきた。


「ミレイユ、私と離縁してください」

「……一体、何を仰って……」

「子供が出来たのです。聖女様との間に」


 その瞬間、頭が真っ白になる。


 どうして、契約結婚なのに、あなたも私を裏切るの?


 まだ私たち、結婚したばかりじゃない。こんなのっておかしい、どういうこと?


 でも、一つだけ、ハッキリ言えることがある。それは____


 ***


「……まだあなたを、あいしてなくて、よかった……」


 ____そうぽつりと呟いた、自分の声で……私は目を覚ました。


 目に映るのは、公爵邸の執務室……ではなく、私の部屋の天井。

 それから……私を覗き込んでいる、リュシアン様の顔だった。


「目が覚めましたか」

「……リュシアン様……」

「魘されていましたよ。まだ熱があるようなので、休んでいてください。今侍女を呼んできます」

「……私、眠っていたんですね」


 じゃあ、さっきの光景は、夢ってこと……?

 私、一体なんて夢を……。


 私が呆然としてる間、リュシアン様はアンナを呼びに部屋を出ていってしまった。





 ……それから少し経った頃。バタバタという足音の後に、ガチャ!と勢いよく扉が開く音が響いた。


「失礼いたします! 奥様、目を覚まされたのですね!?」

「アンナ……。私、馬車に乗ってからの記憶がないのだけれど、私の身に一体何が起きたの?」

「奥様は馬車で倒れられて、丸一日お眠りになっていたんですよ。すごい熱で……専属医の話では、寝不足とストレスとのことでしたが……」

「寝不足……ストレス……そうね」


 アンナは心配そうにそう言ったあと、「でも……」と嬉しそうに話を続けた。


「奥様が眠っている間、旦那様はお仕事を調整してまで、ずっと看病されていたんですよ。愛されているのですね」

「え……? リュシアン様が?」

「はい。何度も額のタオルを交換したり、部屋の換気をしたり……あんな心配そうにしている旦那様、初めて見ました」


 ニコニコと話すアンナとは対照的に、私は驚きを隠せなかった。


 …………私とリュシアン様は、愛のない契約結婚なのに……どうしてそこまでしてくれるの?


 ペンダントのプレゼントだってそうだけど、初対面で契約結婚したばかりの妻に対する態度では、ないような気がする……。


「……気のせい、よね……」


 私がぽつりと呟くと、アンナが不思議そうに首を傾げた。


「どうかされましたか?」

「…………いいえ、なんでもないわ」





 リュシアン様が私に少しでも好意を持っているだなんて……そんなわけ、ないもの。

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