十七話 最悪
____カラン、とベルの音が鳴る。
「ようこそお越しくださいました、エヴァンローズ公爵閣下」
「久しいな」
「……おや、そちらの素敵な女性は?」
店主と思しき老紳士が、リュシアン様と慣れた様子で会話をしている。リュシアン様も、彼に心を許しているように見えるわ。
「こちらは私の妻だ。先日結婚した」
「お初にお目にかかります、ミレイユ・エヴァンローズと申します」
「なんと! それはそれは、おめでとうございます。では、本日は奥様のジュエリーをお探しですか?」
「近いうちに挙式があるから、その時のためのジュエリーを見繕ってほしい」
「かしこまりました。では、奥のVIPルームへどうぞ」
***
「わぁ、素敵……!」
華やかなVIPルームのソファに腰掛けること数分。店員が目の前のテーブルにジュエリーを並べ終わった。
私はジュエリーにも疎いけれど、そんな私でもわかるくらいに美しく、上質なジュエリーばかりだわ。
「何か気に入る品はありましたか」
「どれも素敵で、中々選べそうにないです。リュシアン様が選んでいただけますか?」
私がそう問いかけると、リュシアン様は迷いなく「わかりました」と言って、ダイヤモンドが豪華にあしらわれたネックレスを手に取った。
「おや、流石お目が高いですな。そちらは当店自慢の品となっておりまして、奥様にもよくお似合いになると思います」
「……ミレイユ、つけても良いですか」
「はい、もちろん」
リュシアン様の指とネックレスが、首にそろりと触れる。「できましたよ」と言われてリュシアン様の顔を見ると、リュシアン様は無表情のまま「とても良くお似合いです」と褒めてくださった。
「ミレイユは気に入りましたか」
「えぇ、なんだか私には勿体ないくらいに素敵です」
「では、こちらを購入しましょう。あなたに相応しいジュエリーです」
リュシアン様が小切手を店主に差し出す。店主はそれを受け取りながら、「他にお求めの品はございますか?」と私に問いかけた。
「え? えっと……」
私はズラリと並んだジュエリーを見る。その中で、一際輝く小さな紫の石で作られた、ペンダントが目に入った。選ぶとしたら、私は____
「……その、私は…………大丈夫ですわ」
「…………」
「かしこまりました。では、外までお見送りいたします」
_____けれど、とてもじゃないけどこれ以上買っていただくのは気が引けて。私は笑顔で店主の申し出を断ったのだった。
店を出る直前、リュシアン様が「私は店主と少し話があるので、先に外に出ていていただけますか」と言ってきた。
「もちろんです。では、店の前でお待ちしてますね」
「はい。すぐ済ませますので」
私は一人で店を出て、ジュエリーショップのショーウィンドウを徐に眺める。すると、そこに大粒のルビーのネックレスが飾られているのが目に入って……。私は思わず、思い出してしまった。アルフレッド様との初デートを。
脳裏に、嬉しそうに笑う赤色の瞳が浮かんでくる。確かに幸せだった頃の記憶。
「……早く、忘れたい」
ぽつりと、そう呟いた時だった。
「………………ミレイユか?」
____嫌でも忘れられない声で、何度も聞いた私の名前を呼ばれたのである。




