十五話 意識
「奥様、おはようございます。朝のお支度に参りました」
「おはよう、アンナ」
結局昨日は悶々としてしまって、よく眠ることができなかった。別に生娘じゃあるまいし、あれだけでリュシアン様を意識してしまうわけではないけれど……。契約結婚のはずの私たちが、なぜこんな、普通の夫婦みたいなデートを……なんて考え込んでいたら、なんだか無性に目が冴えてしまって。
いや、デートじゃないわ、これは! 監視、監視なのよ。私ったら、しっかりしなくっちゃ。
……そもそも私はもう、恋や愛なんてどうでもいいんだから……。
「? 奥様、どうかいたしましたか? 難しい顔をされて……なんだか顔色もよくありませんし」
「……ごめんなさい、なんでもないの。今日は顔色がよく見えるような化粧をお願いしてもいい? あと、午前中は仕事をしないといけないから、髪はまとめてくれると助かるのだけれど……」
「かしこまりました。ですが、無理はされないようお願いいたします。髪はアップにいたしますが、仕事が終わったら新たに着替えとヘアセットをいたしましょう。せっかくのお出かけですから」
「…………そう、ね」
そう言ってアンナは髪をテキパキとまとめて、仕事に相応しいようシンプルなドレスを持ってきてくれたのだった。
***
領地経営補佐の仕事の説明は案外すぐに終わってしまったから、残りの時間はリュシアン様が判を押すための書類整理を手伝って、午前中は終了した。
……仕事が片付いた、ということは、この後は問題の買い物が待っているわけで。
「お疲れ様でした。では、準備が終わったらお声がけください。私はその間に馬車の手配をいたしますので」
「はい、リュシアン様もお疲れ様です。失礼いたします」
仕事に集中しすぎたせいか、なんだかふらふらする頭を押さえながら自室に戻ると、そこには既にアンナが待機していた。
着替えとヘアセットの準備も完璧に整えられていて、流石の手際の良さね。
「奥様、お仕事お疲れ様です。午後はどのようなお召し物にいたしますか?」
「そうね……リュシアン様は青い瞳に水色の髪が印象的だから、並んで違和感のないコーディネートをお願いできる?」
「もちろんでございます。奥様はブロンドヘア―ですので、どんなドレスでもお似合いになりますよ。そうですね……こちらのドレスなどはいかがでしょう?」
「素敵ね、空みたいな色でとても綺麗だわ。流石アンナね」
「恐縮です。髪は、せっかくですし少し巻きましょう。化粧もお直ししてよろしいですか?」
「えぇ、お願いするわ。……ねぇ、アンナに聞きたいことがあるのだけれど」
「? なんでしょう」
私が恐る恐る問いかけると、アンナは不思議そうに首を傾げる。
「一般的に、結婚している男女が二人だけで出かける行為に、深い意味はない……わよね? 友人でもおかしくないわよね?」
「いえ、それは一般的にデートと呼ぶと思いますよ」
「…………やっぱりそう思う?」
「少なくとも、旦那様が女性をお誘いになったのは奥様が初めてです」
「そ、そうなの……?」
「はい」
____聞くんじゃなかった。リュシアン様との間に、変な意識は持ち込みたくなかったのに。
なんだか、嫌でも意識してしまう。そして、思い出してしまうのよね。
……アルフレッド様と、初めてデートをした時のことを。




