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40 お姉ちゃんによるエピローグ(改)

ぎゃあぎゃあとわめく妹の話をむりやり切ると、ようやく肩の荷が下りた気がする。

窓に映る自分の姿と、その先にある開けた展望。

中央教会の塔の上部にある自室から、外を見ていた。

豊かな赤毛というと聞こえはいいけれど、量が多くてまとまりづらい赤みがかった髪の毛から、自分は焔と呼ばれるようになり、その名前で何年も生きている。

そう何百年も。

「ちゅーっす。姉ちゃんと話できた?」

間の抜けた明るい声がすると思ったら、むっちむちの筋肉男が部屋に入ってきていた。

音もなく、巨体に似合わず、機敏に動くこの男は末の弟だ。

「まあね」

「怒ってたでしょ」

「まあ、あれを怒っているというのかどうか…」

どちらかというとまんざらでもないのではないかと思う。

「姉ちゃんさ、そういうものの経験なさそうじゃない? あの王様やり手っぽいから、あっさり転がされちゃうんじゃないのぉー」

きゃっやだ、と身をねじくらせながら、弟がいう。

「お前、本当に人生楽しんでるな」

「楽しんだもの勝ちじゃーん。だってそうじゃなきゃ、なんでこの二度目の人生に踏み切るのさ」

にやにやする目の奥が冷たく鋭くこちらを見ている。

こいつもゲームに関わっている。

そうこの教会の私たち兄弟は、ゲームに関係がある者たちばかりだ。

自分もそれに漏れない。

「俺はさ、すごく不思議だったんだよね。」

「何が?」

「姉ちゃんが、なんで黒雪ねえちゃんを生かそうと思ったのか」

朴訥っぽい顔をしながら、いやらしいことを聞いてくる。

自分が黒雪を助けない人生を選ぶとでも思ったのだろう。

「姉ちゃんは選べる立場だからさ、好きとか嫌いとか、そういう個人的な感情をあまり挟まない方だと思ったし、それが姉ちゃんのいいところなのにさ、珍しい。打算で出来事を選ぶってあまりしないのに、なんで今回はそんな人らしいことしたの?」

責めるわけでもないが、弟は口元をほころばせたまま、いやらしいことを聞いてくる。

こいつはこういうところがある。

嘘つきで、腹黒くて、いやらしいところが。

私たち、兄弟はそんなやつばかりだ。だからこそ、黒雪は普通で、普通だからこそ…。

「情が湧いた」

珍しいと自分でも思う。

弟も驚いたような顔をしている。

「あいつは普通だったからね。普通で、大真面目で、手が抜けなくて、一生懸命やる人間だった。私たちとすごく違った。でも、あいつは違うことを知りながら、違うことで差別もしなかった。自分が劣っていても、それを逆手にとって、わめくこともしなかった。」

だから情が湧いた。

根を上げそうなきつい指示でも必死でやって、それを怒るけれど、いじけてやらないとかそういう面倒なことは言わなかった。

それを見ていたら、気になってしまった。

何度も、何度も繰り返す人生の中で、言われても言われても文句を言わずやる。

そして何度も繰り返す人生でだいたい同じ人に出会うのだ、不思議なことに。

でも何度もとん挫してきた。

毎回、自分が許せないと言って、汚染がたまりドローになった。

でも仕事に関してはこの私情を持ち込まずやっていた。

だから。

「自分の感情と仕事をわけて、けなげにやってるのを見るとちょっとかわいいじゃないか」

「わりに指示が意地悪だったけどね。知らない土地にいきなり行けとか、嫁になれとかさ。」

「今回のことを言ってるのか。こんなの可愛いもんだろう」

あいつが受けてきたことに比べれば。

あの氷の世界で逃げて血にまみれ呪い続けてきたことに比べれば。

「それは姉ちゃんの過去のこと?」

「お前は知らないだろう」

「焔姉ちゃんは知ってるんだ」

弟が笑う。

こいつは本当にいやらしい。どこまで知ってるかわからない。

「私の特性を知ってて言うんだろう」

「いやー、知ってるかなぐらいだよ」

にやにやしながら、弟が続ける。

「焔姉ちゃんのゲームのご褒美は有名じゃんか。それを使えば、黒雪姉ちゃんのこともよく見えるじゃん。」

ゲームのご褒美。

言い方が悪い。

黒雪は結果としてなかった。

それすらも投じて、ゲームの勝つことに使われてしまったから、あれだけ異様に美しく、人を惑わすようにおかしな方向へ行ってしまった。

自分はゲームの後に神からもらった。

「不変の不死。影響を受けない不死。まさかこんなことでも使えるなんてね」

「ぺらぺらしゃべるな、男のくせにうるさいぞ」

自分のことを他人から話されるほど不愉快なことはない。

「いやー、相手のそんな特異なことはきちんと覚えておかないとね。」

しらじらしい。

でもこいつの言ってることは合っている。

黒雪はお世辞にも特別じゃなかった。

普通だったし、能力も突飛抜けてるわけじゃない。

ただ、あったのはどうしようもないほどの怒りだった。

あの性格も相まって、彼女はただ神があいつを生かしたいという思いをふりきれなかっただけだ。

それだけで何度も何度も人生を繰り返した。そしてあの異様な耐性を得て、私はあいつに情が湧いた。それだけだ。

影響を受けない私の不死は、彼女のループする転生にも巻き込まれず記憶を保ち続け、ただひたすら繰り返す彼女の人生を一緒にみて、最後の最後まで一緒に粘った。

彼女の能力を伸ばせるだけ伸ばして、ここの世界じゃないところに送り込むよう神に懸けあったのは私だ。

彼女の怒りがあまりに深すぎて、あまりに話がすすまないから。

でも、と思わずにいられなかった。

やはり彼女には生きてほしかった。

「ゲームに負けても残るじゃん」

弟がふっと死んだような目でいう。

時々、こいつはこんな目になる。

これがこの男の本質の一つ。ゲームに関わった故かもしれない。

「お前は負けたいのか」

さあと肩をすくめて見せる。

「俺が負けてもろくなものにならない」

「ろくな聖遺物、だろう」

確かに毒を吐きまくりそうだ。

机の引き出しから手紙を一つ出す。

何も書かれていないが六つ羽の竜が浮き上がっている。

竜は妬みと嫉みの証である蛇のもう一つの姿ともいわれている。

汚染にまみれ、人の妬みと嫉みを洗う教会にはぴったりだ。

その中でも六つ羽とは、本来存在しない私たち、このゲームに関わる一部の教会員を指すのにぴったりだと思う。六つ羽の竜なんて存在しないのだ。四つ羽はめったに見ないことから、神格化されている。これを選んだのは、教会の一部の人間のエゴだろう。

存在しない六つ羽が私たちの象徴というのは、私たちはこのゲームに勝っても負けても、本来ここには存在すべきではない力や能力をもらうからだろう。

死ねば神によって大地に影響を与える道具、聖遺物になる。

そして神の思うような配置で、ひたすら脈をコントロールし続ける存在になる。

勝てば人ならざるものになる。それはそれで、神にいいように使われている気がしてならない。

「この世に触れられなくなった神の、せめてもの悪あがき。ひねくれたこの世界とひねくれた神の会話だな」

手紙に自分の名前を書き込むと、蒼に渡す。

「黒雪向けだ。新しい人生を思うままに生きろというはなむけだよ」

弟ははーいと返事一つで出ていく。

彼女はきっと新しい人生を生きる。

今まで何度繰り返しても同じ結末を迎えていたが、今度は違う方向へと向かうだろう。

苦労は多くとも、人は変われることを示しながら。

キリのいい数字で終わってよかった。

ここまで読んでくださった皆様に感謝です。

特に最初にいいねくださった方。

本当にありがとうございました。

あれがなかったらこのうすっぺらいメンタルはきっと折れてしまっていたに違いありません。

そしてブックマークをしてくださった方々にも多大なる感謝を!

本当に励みになります。

この短い間だけで、何度投稿をやめればよかったのかと思ったことか。

とても感謝しております!


もし時間があって、良かったらもう一度読んでみてください。

噛めば噛むほど、みたいな小説になるよう色々仕込んでいます。


皆様にたくさんの幸福がありますように。

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