32 蒼志:仕事に誇りなんて持たない(改)
簡単すぎ。
黒雪が大元をみつけだすのも、締め上げるのも簡単すぎる。
黒雪が白髪交じりの長髪男の腕を掴み、汚染を取っている。
急激に汚染を吸われたから、男が意識がもうろうとしているらしい。
振り上げたもう一方の手も弱弱しく、黒雪が相手の腕から御大層な篭手を簡単に剥ぎ取った。
どす黒く汚染された手が現われる。
生きているのもしんどいぐらいだろう。耐えていることには称賛を送ってもいい。
黒い手の上に白くかびたようにうかびでる印。
周りが悲鳴を上げる。
男は自分の腕自体に呪いをつけたらしい。
あほだな。
あれじゃどうにもならないだろう。冷静に見ながら思う。
それともどうにかするつもりがないのか。決死の覚悟というやつなのかもしれない。自分にはそんなものはない。
それにしても黒雪も馬鹿でお人好しだな。
こんなのを利益のためではなく助けたいなんて。自分にはできないし、したいとも思わない。
黒雪を見ながら思う。
黒雪が掴んでいる腕の篭手もはぎ取る。
男は意識がなく、だらりと頭をかしげ、黒雪に引きずられるようになっていて抵抗するどころではない。
黒雪がもう一方をはぎ取れば、今度は指がなかった。そしてこちらも黒ずんでいる。
死んだも同然じゃないか。
黒雪が既に汚染を吸い始めているのを確認して、教会へむかった。
教会は城から直接行く道はない。
ないけど堀伝いに屋根伝いにいけなくはない。
この段差の激しい城の作りだと、どこかしら行けてしまうの見直したほうがいい。塀から飛び降りると、聖堂の屋根に降りる。おかしい。
何も変わってない。
嫌な予感がして、教会の地下道に入り教会員のところに行く。
「蒼志さーん」
自分を見つけるなり叫ぶ女は聖堂の強制解除のため祝詞をあげていた。はずだった。
女は祝詞の書かれた譜面を手でしわくちゃにしながら、半泣きで騒いでいる
聖堂にはあまり変わりがない。
「なんで進んでない?」
「だって」
女が涙をいきなり滝のように流した。
「は?」
「わかりませんー」
譜面をみるとふりがなが降ってあるが字が汚い。
しかも間違ってる。
これではうまくいかないのも当たり前だ。
日頃やってないのが丸わかりだ。
「バカ。」
祝詞を唱えることで弁を開けられるからこの女に託したというのに使えない。
「だったら蒼志さんがやればいいじゃないですか。」
「俺は諸事情があってできないんだよ。さっさと読み上げろ。」
あー、えおーといいながらミネリがよむ。
進行がすごく遅い。
これじゃ時間がかかりすぎる。
絶望的な顔をして教会員を見つめると、教会員が涙交じりに言い訳しだした。
「だって、祝詞唱えなくていいっていうからここにきたんです。古語は読めません」
「はあ?!」
ったくそういうことか。
こいつがなんでこんな貧乏くじ引く国に来たかっていうと、古語が読めない名ばかりの教会員なんだ。
「俺がふりがなふってやるからそれよめ。」
「ええーん。助かります。」
こいつが書いたであろうふりがなに続けてペンをとりかきだす。
祝詞は苦手だ。
こいつとは違った理由で。
「ほれよめ。」
祝詞は短いが繰り返し読めばなんとかなる。
脈に流れる汚染と清浄の量を増やすための内容だ。
力技だが量を増やすことで内側からねじ開ける。そうこれは決して唱えてはならないという祝詞。
赤い聖堂が唸り声をあげる。
「まずそうですけどいいんですか?」
不安そうな顔で言う。
「これであってる。さっさとやれ死ぬぞ。」
女が泣きそうになりながらとにかく唱える。
意味がわからなくても記号のように動く。
聖堂に対して人ができることは少なく、まだまだ未解析なのだ。
どのくらいたったか、
祝詞がある程度進んで、ようやく聖堂の赤が増した。
地鳴りがしだした。赤の向こう何かが見えた気がした。
あれか。
あれが黒雪のいっていた聖堂に巣くう何かだろう。
地鳴りがますます大きくなり、立っているのも覚えつかなくなる。
「おい、もういい」
「え?」
きょとんとした女を担ぎ走り出す。
狭い瓦礫の隙間に女を押し込むと後ろからケツを蹴って滑り込む。
外から聖堂奥へと吸い込まれるように風が流れる。
地面に転がる女を担ぎ走り出す。痛いと叫ぶが気にしない。
教会を飛び出すと、城の外にある路地に出る。
そのまま更に迂回しながら城へ向かう。
ひくく唸るような音が聞こえ、下から突き上げるような大きな揺れが起こる。
「きた。」
「なんですか、これ?!」
「ここから走って遠くに逃げろ。」
城のほうを見上げながら言う。
地鳴りはさらにひどくなり、大きな音を立てて、地面が下から突き上げられるような大きな揺れに見舞われる。
教会の向こう側にふきあげる白い輝きと黒いよどみ。
そして何か物体が吹き上げられた。
「あれなんですかー!」
女が叫ぶ。
彼女も見えたのだろう。
明らかに人ではない、どちらかというとカエルのような平たい体に手足が数本映えていた。
あれが黒雪が見たという汚染だろう。超巨大な化け物だ。
教会からあれが出てきたと、これだけ派手にやられると、教会が悪といわれかねない。
…あいつ、このこと考えてるか?。
ふと気が付く。
押し出すというのはいいが、そのあとどうするがなかった。
まあ、いいか。
気づいていなかったのか。
それとも自分のことを悟ってあえて言わなかったのか。
地面が揺れ続ける中、女に言う。
「ここをさっさと離れろ」
声をかけると、城壁を飛び越えるべく、教会の周りにある木を掴み、反動をつけてさらに上へととびうつる。
城壁に飛乗るとその揺れでバランスを崩しそうになりながらも全貌が見えた。
聖堂のあった城の海側が城壁を含めて崩れ落ちている。
土砂が海へと雪崩れだしていた。
地面がえぐれ、崖となってもなお、地面の揺れが続いてる。
そして風が海から突き上げるように、城の後ろにある山々へと吹き上げていた。
強風にあおられながら、清浄と汚染がえぐれた地面から噴出し、空へと突き上げるように上っていく。極度に濃度の濃い汚染と清浄のただなかに放り込まれている。
あんまり気分がよくない。清浄が濃すぎる。自分の体を見ながら思う。
皮膚がちりちりと焼ける感じがする。
今までたまりにたまったエネルギーの渦の中で、押し出された黒い物体がもだえるように手足をばたつかせている。
ぴきいい
細く高い声にならぬ声の叫びが聞こえる。
この手の音は嫌いなんだよ。ちょっとイライラする。
自分は普通の人とは少し違い、汚染に触れても全く問題はない。でも逆に清浄に触れるのは多少問題がある。過剰な清浄の中にはいられないし、触れていたいとも思わない。だけれど、少なすぎても問題がある。
そこそこをキープする、意外とこれが大変なのだが、このバランスが崩れた状態で長く居続けると終わった時に支障が出る。
だから今回もそんなに長くバランスを崩したくないのだが、無理かもしれない。
しょうがないとあきらめてもいる。だからこの噴き出した脈の中もしょうがないと割り切っているし、多少不本意をしてもしょうがないと思っている。
一応、黒雪には多少の恩義を感じている。
今までの長い付き合いのお礼というところだ。
黒い物体は脈の流れの中で、体がはぎ取られるようにぼろぼろと崩れ、崩れた部位が風に乗るように巻き上げられていく。
このままほっといても大丈夫か。
黒い物体がもだえて動いた際に、その先に王がいるのが見えた。
そのそばに倒れた黒雪が見える。
おいおいどういうことだ。…まさか負けたか。
背筋がひやりとする。
確認しないと、しかも王をあそこにいさせるのもまずい。
あの王はなんであんなあぶなっかしい場所にいるのか。




