29 ミネリ:パワハラのない上司
黒雪の真剣さに対し、半ば半信半疑で付き合っていたが、まさか本当に地下があんなことになっているとは思わなかった。
それに驚いていると、なんだか上から音がした。
嫌な予感がする。
急いで地下からはい出てみる。地下の通路を抜け、扉を開けると、教会の講堂にすぐ出てしまう
「あ」
「あ」
ほぼ同時に声が出たが、相手は司祭様だった。
やばい。
この人が相手というだけで嫌な予感がする。
「何をしているんです、ミネリ」
「久しぶりに地下道を掃除しようかと思って」
ふうーんと値踏みされるようにこちらを見てくる。なんでだろうと思ってみれば、隙間をはい出たりしていたから、体が土まみれだった。
体からすっと体温が引く気がした。
「こんな朝から?」
講堂の上にある採光用の小さな窓から輝くような日差しが差し込んでいる。
朝だったのか。
「朝からです」
はっきり言いきってみる。
ふーんとまた司祭様が値踏みするようにこちらを見てくる。
「まあ、いいでしょう。珍しく用事があってきました。」
「珍しくって言うな」
「え?」
「え?」
心の声が駄々洩れだったらしい。
あちらはびっくりして、私はなかったことにしようとしてしまった。
司祭様がとても複雑な顔でつづける。
「えー先ほど、クアドラ卿をはじめほかの貴族院の方々が議決を取りにきました。これから城内が騒がしくなります。」
何を言われているのかさっぱりわからない。
「あなたにはなかなかとっつきづらい内容だと思いますが、議決とは議決権を持った貴族たちが王位の是非から施政の是非まで問うことができることです。教会員を合意なく招いたこと、城下で虫が湧いたこと、またそれらを含めたこれまでの王の施政に対して、貴族院で議決をとることになりました。」
「つまりどういうことなんですか? 教会はどうなるんですか?」
「それも含めて話し合いです。教会員を招いた結果、悪化しているとなれば、…しょうがないでしょう。王は責を問われます。」
淡々と司祭様が続けることに対し、何も言えなくなってしまう。
「わかりません。」
「なんで、司祭様はここに?」
しばらくの沈黙の後、ようやく言えたのはこれだけだった。
「教会が今後もしかしたら、批判されたり中傷にあうかもしれないと思いました。あなたの仕事が悪いわけでもないから、気を付けるようにといいたかったんです」
「珍しく優しいですね」
腹立たしさと悔しさが入り混じって、涙が出そうだった。こんな顔を司祭さまに見せることすら、腹立たしい。
「言った通りあなたの仕事ぶりが悪いわけじゃないですからね。私はそこら辺は公平でありたいんです」
どうしたらいいんだろうか。
本当に教会が悪いせいで、王が追及されるのだろうか。
「皇王様は大丈夫なんですか?」
「わかりません。それが議決にかけられることですからね。ただ、王の印はなくなっていないですし、急に教会を撤去するなんてこともないでしょう。外交に関わることですから」
「わかりました。」
司祭様にはさっさといなくなってほしかった。
司祭様は私がうつむいたままでいるのをみて、声がかけづらかったのかそっといなくなった。
教会の扉が閉まる。
閉まると同時に顔を上げた。滲む涙を拭い、急いで教会の扉に鎖をかける。
鍵だと司祭様が入ってきてしまう。
そしてすぐさま黒雪のほうへ向かった。
「黒雪、大変みたいです」
黒雪は変わらず赤い壁をチェックしている。
「なにがあったんですか?」
相変わらずあまり動揺しない黒雪に聞いたことを話した。
議決を持った貴族たちが来ること。
王の施政と教会のことについて是非を問うこと。
黒雪は少しだけ驚いたように見え、それから考え込んでしまった。
「議決を持った貴族とはこの国の中でも権力のある貴族なんですよね」
「そうですね。王位の是非から施政の是非まで問うことができると司祭様が言っていました。地方の地域の施政をしている方々だと聞いてますし、あとは家も歴史が古いと聞いています。」
「…ずっと気になっていたことがあったんです。わからないことも多いんですが、聞いてくれますか?」
「はい」
返事をすると黒雪は考え込むように壁を見たまま話しだす。
「前提としてこの国はすごく汚染がたまっていました。ちょっとつつけば虫が湧くほどひどい状態でした。」
そんなだったのか。
ちょっとショックだったりする。
「なんでこんなに汚染がたまっているのか、その割にまだ人に影響が出ていないのが不思議でした。聖堂を見たらわかるだろうと思い、聖堂を見たところ聖堂もひどく汚れていました。だからその汚染を取り除けば、よくなるのかと思っていました。」
「違ったんですか?」
「正確には違ったんだと思います。でもずっと気がつけなかった。聖堂の中に入った時、中になにかがいたのを見たからよけいでした。」
入ったってどういうこと?
今は入ったってことじゃないのかな。
あんまりきちんと聖堂を見たことがないからわからなかった。
「中の何かを取り出すこと、駆除することが大事かもってずっと思って居たんです。でもそれはおそらく違っていました。違っていたと気が付いたのは、ちょっと前です。汚染されて死にそうな人を助けて見たからでした。彼は全身汚染で中毒状態で、皮膚がただれていました。そして手がありませんでした。」
「指?」
「はい、その人を運んできた、まあ私の知り合いが言うには、手に呪いを刻み自分を代価に呪いをかけたんです、教会に」
なんてこった。思わず口に手を当てる。
「もうここからは予想です。皇妃の手記が聖堂に残っていました。それによれば聖堂に異常があったのは5-6年ほど前。先代皇王が即位してからです。もしその人が聖堂に体の一部を入れ呪ったのだしたら、そ,れは聖堂の中で汚染を吸い大きくなったと考えられます。そして聖堂の状態が悪くなった影響を受けたのか、管理をする皇后は調子を崩し、皇后がいなくなった聖堂は更に汚染を増しました。」
「なんでそんなことを。」
「わからないです。もとから教会をよく思っていないならこの国から教会を追い出したかったかもしれませんね。教会が汚染されていたら効果がない証拠になります。」
「証拠はないですよね?」
黒雪はうなずく。
「ですが、おそらく簡単にわかるでしょう。まだ呪いは終わっていない。呪っている誰かががいます。見ればわかるはずです。」
沈黙が降りる。
黒雪がつぶやいては難しい顔をする。
「多分、今回くる議決権を持つ貴族の方々、もしくはその関係者です。どんな方か知ってますか?」
「昔からいる貴族で現国王と仲がいいとはいいきれないみたいです。特にクアドラ卿は先代王に仕えていたけれど、王位が入れ替わった時に切られて自治領に戻ったと聞いてます。」
黒雪が考え込む。
「どうなっちゃうんでしょう」
考え込んだままの黒雪が気になって思わず声をかける。
黒雪がしばらくののち立ち上がると、こちらを見て言った。
「お願いがあります。」




