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26 黒雪:調子が悪い時の仕事はつらいよ

自分がどこにいるのか、どんな状態なのか、今はいつなのか。

なにもわからなかった。

動かない体を無理くり動かし掴まれそうなところを探しだす。

少し深く息をすると、あの独特な絡みつくような重い空気。

同時に少しだけ感じる流れ。

ああ、つまりここは聖堂か。

一体いつから、と考えて今までの経緯が自分の中でめちゃくちゃなことに気がつく。

はっきりわかるのは、城下で虫が湧き汚染まみれで大変なことになっており、自分はそこに行き汚染を取れるだけ取って倒れた。

たぶん。

聖堂ということは蒼志が連れてきたのだろうから、後半は推測だ。

あまり覚えてないし、思い出す気力もなく、いまはそれどころじゃない。気持ち的にも肉体的にも。

今、自分はどろりとしたものに取り囲まれていた。

あまり落ちすぎないように腰に安全ベルトみたいに紐がついており、上へ伸びている。

まさぐるように周りを触り、ようやく手をかけられるところを見つけると少しずつよじ登り始めた。入り口に近いらしく、外の明かりが見える。

明かりが強くなり、指先がこの中とは違うものに触れた。

外だ。

ふと前回のことをも思い出す。何も考えずに飛び出たら、目の前に人がいたという。

今回は前回みたいなことがないよう気をつけないと。

少し顔を出して周りの様子を伺う。明かりと思ったのは、屋根の穴から差し込む日差しだった。

室内に穏やかな日差しに包まれていた。

ほっと一息つく。

周りに人もいなければ、外も騒がしい様子もなかった。一体どれくらい時間がたったのか。

いまどうなってるのか。

色々気になるけれど、体を更に出して聖堂から這い出る。

いかん。

体が死ぬほど重い。

青がきっと着せたマスクをむりやり剥いで、床に投げる。

ようやく楽に息が吸えるようになって生きた心地がする。

しかし血管がブチ切れそうなほど頭が痛い。

これはよくないやつだ。

視界がチカチカする。

会社員時代を思い出すな。顔が石畳につく。ひんやりした石畳の温度が心地いい。瞼が重く落ちてくるのに任せる。


少しばかり目を閉じてたようだ。

何かの物音で目を開くと目の前に足が見えた。見慣れたその足に思わず顔をあげる。

「蒼志」

青い髪に青い目をしたガスマスクの細面が立っていた。

冷たい目は、いつもの金髪の蒼志とは違う。

でもこれが蒼志なのを自分は知っている。

少しマシになった体調のおかげで、体が起こせるようになる。

「…あいつ、とんでもなく人使い荒いな」

あいつって誰だと思ってる間に、どさりと男を目の前に落とされる。

真黒に汚染された人だった。

おそらく男なんだろう。

それすらも危ういほどひどい顔色と肌の色だ。

「…死んでもしょうがないとは思うけど、どうにかなるなら助ければ。焔に後からうるさく言われるのは嫌だからな」

死んでもしょうがないというのは確かにそうかもしれない。

こんなに汚染が進んでいるのに、まだ息があるのが不思議なくらいだ。

「あとは任せた」

「今は何日でいつ?」

「お前がぶっ倒れたのは昨日だよ。あんな無茶な汚染の吸い取り方して死にたいのか。」

これには答えられなかった。

黙り込んでいると、蒼志に舌打ちされる。

「街は綺麗になったよ。お前がなんも考えずやったからな。でも一時的だ。すぐ汚れる。」

「うん…」

曖昧な自分の返答に更に腹が立ったように蒼志が苛立ちを露わにする。

「お前、目的忘れてんのか。本来すべきことを忘れ、あんなことして。仕事もろくにできないのか?」

「…ごめん」

沈黙が降りる。

蒼志が耐えきれず口火を切る。

「目的を忘れるな。できることには限りがある。」

うなずいた。

「そいつ、まだ痕跡があるはずだ。見てみろ」

「…何があったの?」

恐る恐るきく。

そっと男性の体に触れて、できるところから汚染を少しずつ吸い取る。

すったそばから聖堂に流し込む。自分が調子悪いからそんなに素早くできない。

「そいつの手に、おそらく忌みの印の類があったらしい。体を代価に呪うとかいってた。んで、ため込んだ汚染が大爆発だ」

男性の手は片手がなく、そして異常に濃い汚染が残ってる。

「その割にこの都の状況は変わってない。つまり呪いはまだ継続中ってことだ」

「盗み聞きしたの?」

「情報は命だ。」

普段ならもう少し追求するが、今はその気力がない。

この状態の蒼は金髪の蒼と全く違うけれど、基本的には教会の意向に沿うのは変わらない。

ちなみに彼がどんなタイミングでこうも変わるのかはよくわからない。彼も話したがらないし、姉さんも言いたがらないが、わかるのは、この彼は汚染の耐性があるないの問題は関係なく、むしろ汚染を利用できる。

「ここ、やばいな」

蒼が聖堂を見下ろしながら言う。

「その男のと同じ感じがする」

蒼志がいう。

今ならわかる。男の中の脈と聖堂の中の巨大な塊は似ている。

その構成が。

「…どうするつもりだ、これ」

それについてはずっと考えていた。

巨大に膨れ上がった汚染の塊。聖堂の中で、巨体でうごめいていたあれを聖堂の中でどうにかできるように思えない。

「ま、考えるんだな」

いうだけ言って、蒼志が立ち去る。

あっさりとおいていかれて、ぽつねんと座り込んだ。

このそっけなさとか、あの金髪の蒼志とは全然違う。

ふうと一息ついて、この男性の汚染をひたすらとる。

まだかろうじて息はある。

ただ横から横へと汚染を流す。薄墨みたいな汚れが水の中へ流し込まれ、拡散して何もなかったように消えていく。

頭がズキズキ痛む。

昨夜から起こったことをまだ整理せきていない。だからかあんまり今は考えられない。

ただ目の前の作業に集中する。

いま、目の前で起きていることと、私が気が狂わんばかりなのは別のこと。

別のこと。

繰り返し言い聞かせて落ち着かせる、自分を。

この人を助けないといけない。

いまは、余計なことを考えない。

考えちゃいけない。

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