表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/40

21 ティドー:置いてきぼりの中間管理職

自分は今、みなの機嫌がえらくよくて驚いている。

朝早くだというのに、王城はなぜか活気があった。兵士が汚れきって大の字で横になりながら、軽やかに笑っていた。昨夜大変だったというのを聞いたのは、さきほど手近な女中に聞いたのだ。自分は異変に全くきづかなかった。

みな、疲れているだろうに軽やかに笑っている。そのことが衝撃的だったが、陛下はいなかった。

どこに?

まだ仕事中とか。思わずルニに駆け寄った。

「よお」

笑顔だ。

あの真面目な唐変木が。

「おはよう。昨日は」

「ああ、無事に終わった。これから休憩時間。これから交代で休憩入るから、いなくなるけど片付け頼む。」

「はあ?」

ルニがもういつもどおりの無表情で話す。

いなくなると、談笑していた兵たちもいなくなり、あっさりと一人取り残される。

ついていけない。

自分は武闘派ではないので、よくわかっていなかったが、どうやら城下で虫が湧いたらしい。

とんでもないことだが、実際に関わった人とそうでない人のこの温度差はひどい。茫然と立ち尽くすわけにもいかず、とりあえず公務室に行くことにする。

全体的になんだか空気がゆるっとしている。

城の業務をこなすメイドたちまで、緊迫感がない気すらする。緩いのを厳しくするというよりは、乗り遅れた自分がつらい。

あーあ。

ため息をついていると、足早に床が鳴る音がする。ぴりっとした歩き方に、自分と同類がいる気がして、思わず振り向いて、がっかりした。

クアドラ卿だった。

「私が相手でさぞ残念だった、という顔だね」

目が笑っていない。

ははっとひきつった笑いをするのがせいぜいだった。

「今日はどうしたことか、昨夜城下で大騒ぎがあったという割に、のんびりしているみたいではないですか。これは一体何があったのかな」

「…わたしも先ほど来たばかりですので、なんとも…」

正直なところである。うそはない。

なのに、上から下までじろりとなめるように見られると、自分が悪いことをした気持ちになる。

「えー、クアドラ卿は今日のご用向きは?」

思わずご用向きだなんておかしな言葉遣いをしてしまうほどだ。

「…城下の騒ぎがなぜ起こったのかを、陛下にぜひお聞きしたくてね。もし噂通り、城下町で虫が湧いたなんてことがあったら、とんでもないことだと思わないかね?」

にやりと笑って提言される。

つまり、陛下の失政を追及すると言いたいのだ。

「虫が城下で沸いたのか、それともどこかから入ったのか、誰にもわからないのではないですか? なぜ城下で沸いたというのです?」

「つまらないことをいうものではない。どちらにせよ大問題だろう。過去、起こったことがない大失態だと私は言いたいのだが、君はそこもわからないくらい現政権に呑まれてしまったのかな?」

「面白いことを言いますね。陛下を愚弄するとあらば、黙っていませんよ」

「何も陛下が愚かだとは言っていない。ただ古来よりダリルの教えの中枢として、虫が一度も沸いたことがなく、どこよりも清浄な土地だったこの皇都に虫の侵入を許すというのは、とんでもないことであり、そして虫が湧いたことは事実だ。」

ぐぬ。

何も言えなくなってしまう。

「しかも教会の人間を招いたばかりだというのに悪化の一途ではないか。教会の人間も含め陛下は責任を取るべき状況にあるのではないかと思ってね。でも来てみれば、この状況を分かってないのか腑抜けた空気を出しているなんて、迅速な対応が必要だ。愚かではなく政権として力不足、甘えた政権が舵を取るには現状は厳しすぎる。いかがか?」

ぬぬ。

歯ぎしりしそうなくらい何もいえない。おそらく顔にまんま出てる。

クアドラ卿がすっと目を細めて笑う。違和感を感じた。この状況でとどめを刺さずに、自分から引いた感じがした。

「陛下は不在のようだから、また後程来るが、貴族議決を取る時なのではないかと陛下には提言しようと思っている」

「この状況で貴族たちを集めて、議決を取るなんてしている場合では…」

「若年の王の横暴を許し、ここまでの国力の低下を招いているならば、王の愚行を止めるもまた臣下の役割、違うかね?」

「しかしながら陛下から御印はまだ消えていない…」

「王が誤りを認めたら印が消えるやもしれぬ。現に国民は苦しみ、国土は汚れている。」

いいかえせない。

ああ、正論に聞こえる。

「問うべき時が来たのではないかね。」

クアドラ卿はまたも冷ややかにほほえみ、そして静かに立ち去って行った。

なんなんだ。

こてんぱんにやられたのに、またもとどめを刺さずに行った。

あっけにとられている間に、頭をかきむしり我に返ると、これまで以上に足早に公務室に入る。書類だらけの机から、いらないものを抱えて床におろし、場所を作る。

机には皇国の地図がある。

7地方に分かれ、それぞれを貴族が治めている。

小さな領地をいれるともう少しあるが、この7地方が議決権をもつ貴族たちだ。何かあった時に、現政権に対しても声をあげることができるし、定期的に行われる貴族会議の時期になるとこの7人の決議が必要になる。

全員が全員、陛下に対して好意的ではないのが現状だ。

特に陛下はこびることをしないし、根回しもなにもしないから、敵を作りやすい。

貴族会議が起こされる前にどうにかしなければならない。

もしクアドラ卿が陛下に貴族会議の提言をして受け入れられるとも受け入れらなくても、一度提言があれば貴族が集まることが許される。

あの陛下のことだから即答して受けそうだから、もし受けたとして地方から集まったとしてあと5-6日というところで…。

頭がぐるぐる回る。出てこない答えと焦りで、何も考えられなくなりそうだった。

この状況を打開するにはどうしたらいい。

…やるしかない。

決意を込めて顔をあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ