19 レイニ:残業は続くよ、どこまでも
いやー、いい尻をしてた。
言いかけてやめたのはそれだった。
細いから痩せぎすなのかと思ってたけど意外と筋肉があった。
見惚れてたら思わず声が出てしまった。何があったかわからないが急にここを離れるからにはそれなりのことなんだろう。
それにしても可愛かった。
自分の頭がおかしくなるかと思った。
やれやれ、なかなか自分もいかれてる。
髪をかき上げる。かき上げた髪の下にはいれずみのようないかつい印があるだろう。
これは見る人がみればわかる。出さなかったのは、なぜだろうと自分でも思うが、もう少し伏せておきたいのは気まぐれか念のためか。
頭をかきむしると、地面の隙間から外へ這って出た。
夜の空気がひりついてる気がした。
もう深夜を回っている。
彼女が聖堂にいるだろうことには気づいたが、まさか本当に地下から出てくるとは思わなかったし、出てくるのが遅かった。
どうなるのかと心配したが、あのマスクを外した時の顔も、汚染がついた自分を心配した顔も、真っ赤になる顔もどれも愛おしい。
まったくどうしたものかな。
父が崩御してから、国の状態がよくないことは知っていたから、前から教会員は捨て駒のように利用して終わるつもりだった。
そこまで思ったのは、自分が国を出ていた前よりも国がひどくなっていると率直に思ったからだ。
そして何かがおかしいと思ったから。
それはまだはっきりと言葉にならない。父の死を目の当たりにしたときのクアドラやサイの表情、父の死の状態、そして上皇后と上皇王の死。
色々なものが捻じ曲げられ、おかしいところが多すぎていったい何に違和感を持ったのかもわからない。
誰が敵なのかもわからない。
しばらく様子を見ようと思っている間に、感情が乏しく、頭のさえない愚かな男に自分が成り下がっていた気がしてきている。
だから自分でもこの感情の起伏が本当に思いがけなくて、久しぶりで、戸惑ってる。判断に迷うのがまさか教会員を捨てるかどうかだとは。
それにしても嫌な空気だな。
自分の体が軽くなっただけに、空気の重さが気になった。城内の端にある聖堂から森をぬけ、二人組で場内を回る警備兵を見つけると声をかける。
「おい」
「…へ、陛下?!」
驚きを超えた素っ頓狂な声をあげる。まあ、気持ちはわからなくもない。
「何かあったか?」
「い、いえ、何もないですが…」
何もない。
その言葉を反芻して、やはりあまりよい気がしなかった。こういう時は、やけに当たる。
「城下の見回りはこの時間は?」
警備兵たちは急な言葉に驚いたように顔を見合わせたものの、一人が答えた。
「城下は、最近の汚染の状況を鑑みて、警備が増えたところです。夜中でも何人かが回っているかと」
「待機は?」
「…何名かいるかと思います」
「そいつらを城下に回せ。俺が言ってるといって今すぐ、確認に行かせるように」
「はっ」
警備二人が走り出す。
何もなければそれで問題はない。
「待て」
走り出した警備兵をとめる。
「俺も行こう」
あっけにとられる兵を置いて城門に向かって歩き出す。
彼女があれだけすぐに動き出したのに、自分が動かないはないだろう。
城内が騒がしくなるのがわかった。
これで折り返しです。
残業がどこまでも続くってやだね。
でもまだまだ続くよ




