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18 黒雪:コミュ障には恋愛ドラマはきつすぎる

「ぎゃー」

思わず叫んだ。マスクの中なので音がこもる。

ビックリしすぎて遺物に落ちた。落ちても汚染のせいでそんなに沈まない。

頭まですっぽり落ちて、慌てて縁を探して這い上がる。

見間違いだったんじゃないだろうか。

今度はゆっくりあがる。

そっと顔を出すと相変わらずいた。

ただ、驚いた様子はなく面白ろそうな顔をしてこちらを見ていた。この人はたまにこういう顔をするけどなんでだろう。

からかってるのか。

「はっはっは。今日はなにがあったの?」

面白そうに笑う。

何を言ってると思ったけれどこの状況ではしょうがない。

けどなんといったものか。

「…どちら様ですか?」

口の部分だけを下ろして声を出す。

ぐいっと指で私の上半分のマスクを押し上げる。

急な外の光に目がくらむ。

「やっぱり。昨日ぶり。」

嬉しそうに笑う。

そこには目を輝かせる顔面のいい男がいた。

長いくせっけが顔の一部を隠している。この人は、知っている。昨日ぶりといわれごまかせなかった。それどころか、今まで覚えのない胸の痛みがした。

ふと相手の指が気になった。

自分を汚染を指で直接触れている。はっと我に変えった。指が黒く染まり始めていた。

「今、触りましたね」

背中に冷たいものが走る。

汚染に直に触れてはいけない。

ただれるぐらいで済めばいいし、それだって治りが悪い。

慌てて遺物から上がると、男性から離れたところに汚染がべったりとついた衣類を脱ぎ捨てる。

「ちょっと」

マスクを取り去りフードを外すと、長い髪の毛がずるっと出てきた。

たじろぐ男性をよそ目に、上下の防護服を手袋や靴ごと脱ぎ、汚染が相手にかからないように離れたところにおくと、そのまま男性にかけよる。

「指は?」

「いや?、大したことない。あなたこそ下着…」

動揺がみえる相手の指を掴む。

両手の指先がほぼ全部黒くなっている。

その汚染を吸い取ると、自分の指先に汚染がねっとりとつく。

汚染が取れた後を見れば、皮膚は異常なかった。なぜか大事ないらしい。

「はあ、よかった。」

誰だかわからないが一般人はひどくなりやすいし、怪我で済むとは限らない。

胸を撫で下ろすと指の汚染を掴んで、ひょいと投げ捨てる。

それをそれぞれの指でやって、黒ずみがなくなるのを確認するとやっと一息ついた。

「無茶したらいけません。何がおこるかわからないのに汚染に直に手で触れるなんて。」

「君はなんで平気なんだ?」

「慣れです。」

きっぱりいうと相手はまたあっけに取られたあと、あっははと笑いだした。

むう、なにがおかしいのだろうか。

こちらは至極真面目なのに。

ムスッとしたことに気づいたのか、こちらの頭を急に撫で始めて言った。

「悪い。これを慣れでどうこうできる人を始めて見た。」

頭を撫でられるのがちょっとイラッとしたけど、相手が楽しそうに笑うからなんとも言えない。

「バカにしないでください」

「してない。感心してるくらいだ。」

「なら頭撫でないでください」

「これは違う。あなたに構いたくてやってるだけだ。」

ん?

思考が停止した。

何を言ってるんだ、この人は。

「俺のこと心配してくれるのも、いまのその格好も、そそられるんだよ」

思わず自分の顔を触る顔を隠すいつものがなかった。

マスク着けるからと、途中から忘れてた。

そして自分の格好を見る。

水着姿でよつん這いのまま、羽織を着てあぐらをかいて座る彼に迫るかのようだった。胸は大してないけれど、自分でもわかるほどに顔が熱くなっていく。

思わず退いて周りを見渡すけれど着れるものがない。

ふわっと自分の肩に暖かいものがかけられる。

男性の着ていた羽織りだった。

柄の入っている羽織を自分にかける。二枚重ねてきていたらしい。

「あ、ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

慣れないことをされてむずがゆい。

「なんで私だって思ったんです? マスクしてたのに。」

「あー。」

というと、彼は少し思案してから破顔していった。

「まさか、あんなマスクで出てくるとは思わなかったが、こんなところに、こんな時間にいるなんてあなたぐらいだと思ったんだよ。それが急にまた落ちてくだろ。面白かった。」

恥ずかしくなる。

真っ赤になってうつむいた。

こんな出来が悪い自分とは思わなかった。

「でもちゃんと約束通りくるし、来た形跡があるのになかなか出てこないからどうしたのか気が気じゃなかった。」

なに?

実は結構待っていたのだろうか。そんなに時間があったなら、汚染の塊を隠したのはばれたか?

内心ひやりとする。

「なんできたってわかったんです?」

「あなたが来ると空気がざわつく気がする。だから勘だな。」

「勘…」

「そう、勘。俺は勘がいい。」

驚いてると相手がニコニコしながらこちらに手を伸ばして私の顔にかかる髪を手にとる。

「触っていい?」

「だ…めです。」

「そうなの?なんでだめ?」

にこにこしながら自分を見ている。

「何もしない、それ以上。」

「何で触りたいんです?」

「理由なんて決まってる。」

顎をそっと掴まれてくいっと向きを変えさせられる。

目の前に相手の顔が来ててビックリする。

同時に今までにないくらい心臓が、高鳴りだす。

「可愛いから。」

「理由になってないです。」

「うん、知ってる。ついでにもう一つ。キスしていい?」

目の前が真っ白になった。

「だだ、ダメです。からかってるんですね!」

「何を?」

「えーっと。」

なんと言ったらいいかわからない。

私の事が好きでちょっかいだしたい、いや、好きだなんてわからない。

これはうぬぼれてるかもしれないし。

でも今まで自分を見た人がろくでもない反応しかしないなんて、どう説明したらいいんだ。

自分の隠していない顔を見ると誰もかれもが自分を好きだといってきた。目をぎらぎらさせたり、表情を恍惚とさせたり、とてもじゃないけれど信用できなかった。

彼はどうも違うらしい。

やっていることは、積極的だけれど、理性的なのもわかる。

ちらっと見ると相手はまだ返事を待っているように、にっこりと笑ってくる。

この間をどうしたらいいんだ。

相手は私の答えを待っていた。

じっとこちらをあの目で見ていた。

笑っていてもどこか冷静だ。

…耳が痛くなりそうなほど静がだ。自分の心臓の音しか聞こえない。

どうしたらいいんだ。どうしたら…?

何を言ったらいいかわからなくては口を閉じるを繰り返す。

じわりと涙が目尻に貯まるのがわかる。

大真面目に仕事しているだけなのに、なんなんだ。

皇王が言う通り嫁に来ただけだっていうのに、その王は自分を通しもしない状況なのに、何とかしようと頑張ってるだけなのに、仕事させてくれよ。

仕事するぐらいしか取り柄がないのに、それすらできないなんてどうしたらいいんだ。

うう…。

答えられないあまりに思わずうめき声がでる。

「ちょっと大丈夫だから。泣くことない」

相手が驚いたのか声が慌ている。

「だって」

「大丈夫。」

ギュッと包み込むように抱きしめられる。

ちょっと、と思ったけれど、ドキドキしてしまって何も言えない。

「大丈夫」

頭を撫でられるとそんな考えが溶けていった。

イケメンの役得だな。すすりあげながら思う。

「泣かないで。あなたに泣かれるのは困る」

「なんで?」

彼が少し離れる。

何事と思い見上げると指の腹でなみだを拭われる。

「可愛すぎてあたまがおかしくなりそうだから」

瞬きをする。

こんなことを言う人はおかしいと思う一方で、他の人に言われるのとは違い、この人が言うなら素直に受け止めそうな自分がいるのもわかる。

瞬きする度に涙が流れその度に彼が涙を拭く。

その目がすごく優しい。すぐ間近に彼の顔があって、少し動けば触れられそうな距離だった。

何を自分は思って…。

ピリピリと空気が震えた。

はっとして周りを見る。

「どうした?」

何度か瞬きをすると見える風景がより精彩になる。

彼自身と彼を囲む周りの華やかでぎらぎらと人を惹きつけるような光、その一方で遠くからこの聖堂にこびりつく汚染と同じような色が見える。

汚染はだいたい黒く、混とんとしていて、膨らんでいる。

「私…、いきますね」

遠くを見たまま彼の腕をほどきたちあがると、かけてもらっていた羽織を相手にかけなおす。

「仕事です」

「その恰好で?」

「たぶんもう汚染は落ちたので」

自分が脱ぎ捨てた服を見るとゲル状についていた汚染はほとんどなくなっていた。

やれやれと相手も立ち上がる。

「止はしないけれど気を付けて。」

「ありがとうございます。あなたも」

「あなたじゃない。レイニ」

「…?」

「忘れてるね。昨日、名前を教えたでしょう」

にっとレイニは笑う。

そうだっけと思いつつも、ではと言い直す。

「レイニも気を付けて」

よろしいと言って頭をなでられる。

不思議な人だな。こんな上から目線なのに嫌な気分にならない。

「あなたは不思議な人ですね。」

「そう?」

「はい」

言って気づくが、また彼に汚染がまとわりついている。

こんなにすぐまとわりつくのも珍しいが、普通の人なら何かしら体調不良とか異変を感じるんだろうけれど、この人はぴんぴんしているのも珍しい。

頭の当たりの舞う黒い霧を指先でひょいっと取り除き、そのまま吸い取る。

今の聖堂だと処理できないだろう。

「お、軽い」

レイニが自分の変化に気づいたようだった。

その分、自分が重く感じる。

がつんと頭の中が重くなる。私でもこんなに不調に感じるのに、彼みたいに平気な人なんて珍しい。

その場を離れ脱ぎ捨てた衣類を着こむ。

思った通り汚染は流れ、聖堂に落ちたようだった。

上下のつなぎを着るため、足をつっこむ。こまごましたものを身に着け、マスクを首からかけると、ようやくいつもの作業服に戻って安心する。

「いやー…」

「なんですか?」

「いやなんでもない。また会えるといいな。君がなんでここにくるか聞けてない」

「…それは言えないかもしれませんが、私はここに用があるので、ここにはまた来ます。」

目線を落とすと石畳から不規則に光をこぼす聖堂がある。

「なるほどね。それは楽しみ」

「あ、あ、あなたに会うわけじゃありません」

とっさに訂正するも、レイニは笑った。

「もちろん。今日もたまたまだね」

「そうです…」

なんとなく言わされた感があると思いつつも、力を入れてもよさそうな瓦礫をたしかめ、四肢の印にエネルギーをこめる。

では。

レイニが軽く手を上げて返事をするのをみると、天井の穴から聖堂を抜け屋根から飛び出した。

そういえば、あの人は一体誰なんだろう。

飛び出しながら思う。もっと早くに聞いておけばよかった。

今日と同じ日が明日も来るとは限らないのに。

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