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13 黒雪:スパイ活動ふたたび

日がしっかり沈み夜の帳が下りたころ、体を起こして準備を始めた。

持ってきていた汚染除去のための作業着に着替える。作業着も黒い服しかないけれど、昨日みたいに人前にでることがないから大丈夫だと思いたい。

黒のつなぎみたいな作業着はとにかく隙間から汚染を入れないことを目的にしている。比較的、体に密着しているが、動きやすいように縫製も工夫されている。これなら忍び込むのもできるだろう。

昨夜、追いかけられ見つかった事を思い出す。

あんな失態してはいけない。なので顔を隠す忌みの印のある布は、つけないことにした。

先日、飲み屋で置いてきたけれど、一応予備はある。

が、頭にちらつくのはあの不思議な男性のことだった。あれだけの汚染を持ちながら平然とし、周りの空気を動かす。

誰なんだろう。

ちょっと頭の片隅に置いておき、教会の宿舎の窓からそっと闇夜に滑り込んだ。


教会は城の外壁に沿うように作られていた。しかも城下町の一番端、海の直ぐ側だ。

教会裏手にある城の外壁に沿って移動すると砂浜にでる。城壁の向こう、かすかに教会で感じたのと同じ波長を目指し歩く。

遠くに島がちらほらと見え、静かな海には月が反射していた。

月が出ていれば灯りなんて必要ないほどで、そっと波が打ち寄せる音だけが続いている。

海からは身を隠すものが何もない。

キラキラ輝く海面を見ながら、重い体を動かす。

体調が悪くなければいい気分なのに。

そう思うと少し残念な気持ちにすらなる。

そうこうするうちに聖堂近くに来たのがわかる。そんなに離れていなかった。

教会の裏手に聖堂があるとは聞いていたが、城壁が少しカーブを描くため遠回りになっているようだ。

高さのある城壁を登るため、自分の四肢の術式に溜め込んだ汚染を流し込み起動させる。

汚染だろうと清浄だろうと術式の動力源には変わらない。

汚染だけは潤沢にある。

よく私の溜め込む量が異常だと言われた。人より汚染に対する耐性が異常に強いらしい。

四肢の術式は動き出したのを感じて、小刀で壁を傷つけ、指を突っ込み強引に登る。

そこそこの高さがあった城壁も程なくして壁の縁に手がかけられるようになった。

そっと頭を出して城内を覗き込む。まっさきに目に入ってきたのは茂り過ぎた木々だった。枝葉が混み合って何も見えない。

警備的には良くないのだろうが、残念ながら理由がわかった。

放置された聖堂があった。


暗がりに目が慣れるとようやく見えた。

ただの枝葉ではなく壁があり、しかも蔦で覆われ、更にその蔦のおかげで崩れきらないですんでいる。そんな廃屋のような状態だった。

見て絶句した。

これはひどい。

教会員として仕事するときに、いくつか他国の聖堂を見てきたが、聖堂の使用を決めたなら教会と設置国で取り決めがある。

教会員にかなり優位な内容で、管理不行き届きに関しては教会の立ち入りに関する越権行為が認められるほどだ。

つまり罰則とかそういう話になるんだろうが、これをどうするつもりだったのかと不思議に思う。

とりあえず言及することは自分の仕事ではないので、聖堂の影に紛れて城内に滑り込んだ。

暗がり目が慣れると聖堂の壁らしきものが見える。

少し触るだけで崩れ、保っているのが不思議なほどだった。前任者が離れてからまだ数年だというのにこの朽方は不自然で、聖堂が外観を含めて聖堂であり、聖堂が勝手に作るなんて話を思い出す。

でもこれを直すってどうやって。

警備がいないかを目を使って探る。

人の脈はわかりやすい。まっすぐな脈の自然とは違って、人は色々な色の脈をたくさんその体の中に持っている。

人によってその色も流れも違っていて、見分けることができる。

顔が違うみたいに、波長が違って、外見よりもわかりやすいとさえ思う。

会ったことがない人でも、それが人かどうかは良くわかる。

周りを見渡せば、いくつか遠くに人の波長が見える。でもこの聖堂付近は近づくのを嫌がるかのように人がいない。

ならばと思い、回り込んで全体をしっかり観察してみる。

ドアらしきものは合ったけれど、がれきでつぶれてしまっていた。大きさは小ぶりで、聖遺物というわりには拍子抜けだ。遺物は巨大なことが多い。

どこから入ったらと考え込んでいるうちにこの外観ではなく、聖堂が地下へと向かっていたことを思い出す。

もう一度、よく波長を見てみるとわずかながらに聖堂の中へと流れ込み、そこから下へと流れている。

聖堂の下にやはり本体がある。

何とか入れないかな。

地面をはいつくばって隙間を探す。聖堂の周辺の草も伸び放題だが、草で隠れたところに比較的大きい割れ目を見つけた。


這いずって中に入り込む。

意外とそこは空気が澄んでいた。

中は絶妙に梁や柱だったものが支えていて、そこそこ大きい空洞になっていた。

冷たくて、ここだけ空気の感じが違う。遺物としては弱いけれど、確かに遺物としての働きをしていて汚染や清浄を吸いこんでいる。

動いていたことにまずは一安心した。

だけれどと周りを見渡す。

とにかく汚かった。崩れた壁の破片や、放置され続けたための埃や、汚れが積もり積もって、聖遺物の入り口が見つからない。

おそらくこのがれきの下にありそうだけれど。

中央の床であろうところに、天井から降りてきた破片やがれきが積もっていて、その下へと脈が流れ込んでいる。

まずは掃除かな。

聖遺物の入り口を見つけないといけない。

音をたてないように、ごみを端に追いやり、残っていたものを使って掃除をすることにした。

これじゃ機能できるわけがない。

まずは聖堂を処理すればこの国の状態も良くなるのは、あながち間違った推論ではないかもしれない。

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