12 ティドー・ラ・サンティレールの場合
あんなに失礼で腹が立つ女は初めて見たかもしれない。
教会を早々に立ち去りながら、城内に向かう道すがらいら立ちが隠し切れない。
あのふざけた女に会ってから、まっしぐらに帰ってきた。
今は午後も半ばというぐらいだろう。
正直なところ、自分の痛いところをつかれたというのは否めない。陛下の指示は教会員を速やかに城内に案内し、聖堂の修理ができるよう全面的に協力すること、だった。
しかしこれが本当に正しいのか。
教会の裏手から皇城に向かう道が閉じてしまったのは本当なので、自分も大回りをして城内に向かう。
正門を抜け、大階段と呼ばれる皇城へ入る階段を上る。
陛下とは幼いころから一緒にいて、ここまでくる過程を知っている。陛下をとても尊敬してもいるし、これからの国の繁栄を願っている。だからこそこの選択肢で本当にいいのかと思ってしまう。
前方から歩いてくる少し年配の男性一行が目に入った。
…狙ってきたのか。
「やあ、こんな時間に会うとは、君は忙しいかと思っていたよ。」
一礼して挨拶する。
陛下の母君の従兄弟にあたる人だ。
現在のクアドラ家の家主でもあるこの国の有力貴族、サンティネラ・クアドラだ。ツリ目がちで髪も白いものが混じる経験豊富な元官僚だ。
いやらしい目つきでこちらをみてくる。
「陛下はお忙しいらしく実務の話しかできなかったよ。やれやれ、ほかにもご相談したいことはあったんだがね」
「最近はあなたも入城が多いですね。」
「それだけこの国にはいま、課題が多いということだ。穢れの地が出始めたよ」
思わずはっとしてしまった。
あまりこの人の前で下手なことはしないほうが得策なのだが、それをみてかクアドラは真摯な顔でいった。
穢れの地、穢れがとうとう大地にしみついた。
そこに人は長い間いることができないし、近くにいるだけで体調を崩したり、正気を保てない。
「地方でいくつか穢れの地が出始めた。獣はすでに駆逐が始まっているけれど、土地の穢れが始まった。これは由々しき事態だ」
「…陛下にはお話しされたんですか?」
「ああ、そのことを含めて話をしてきた。警備の強化をするということになったが、我々の言うことは相変わらず汲んでいただけない。」
大仰にため息をつく。
「君はどう思うかね? 陛下は教会よりの考えをお持ちのようだ。陛下と上皇后様の仲がよろしかったのはよく知っているし、当時の陛下の状況を思えば仕方がなかっただろうが、どうも上皇后様からの影響が強いようにしか思えない」
「ダルネの教えにもっと沿うべきだと?」
クアドラは静かにうなずいた。
ダルネの教えは昔からこの国にある土地神信仰だ。
全てのものには神が宿り、ゆえに万物のエネルギーを崇拝するという考えで、人がエネルギーの操作に関わる教会の考えとは相反している。
教会よりも遥か前にこの国とともにあるダルネの教えが国にはなじみが深く、教会の急激な普及は国からすると乗っ取りに近いものを感じる人もいる。
「陛下が我らが教えをないがしろにしているとは思わないが、聖堂の修復を考えているという噂がある。それも致し方ないだろうが、皇后として聖堂の修復に人を入れるならば、このままダルネの教えが荒廃せずこれからも尊ぶ姿勢を見せてほしい」
ようはダルネの教えを支持する貴族を中に入れてほしいということだ。
もっと具体的に言うと自分の娘を側妃に取れと言っているのだろう。
「陛下のお考えにないとは思いません」
「それはそうだろう。私も先ほどお話ししてそう聞いたところだ。だけれど、こうして内内で話をして一部は納得しても、広く周知してもらわないと混乱が広がるだろう」
いやらしい男だな。
もっともなことをこうして織り込んでくるところに、ただ国のためというわけではないだろう。
「わかりました。こちらでも確認しましょう」
「話が早くてとても助かる。陛下はお考えがなかなか見えない」
クアドロは通り過ぎる際に、自分の肩をたたきながら階段を下りていく。
一息ついて階段を再度上り始める。
陛下のお考えが今一つわからない。
なぜ急に教会員の皇后をお召しになるという考えを持ったのか。
数日前いきなり心変わりしたように思えたその理由が知りたいのだが、いくら聞いても、それが今は必要だろうという程度にしか答えてくれない。
そして陛下が望んだように本当に事が運んだ。
それも不思議なのだ。
教会がそんなに迅速に動くとは信じがたい。
納得のいかないところありすぎて、やってはいけないと思うが、陛下の指示通りに事を運ぶのは危険な気がしてしまうのだ。
まだまだ続く




