表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界厨二病少年~S O U J I~ぶっ殺すべき悪者さがして異世界へ  作者: 実時 彰良
前編≪異世界召喚された英雄厨編≫(第1話~第30話:116.765文字)
24/50

024.衛兵の意地、魔族エルフの狂気、望みは炎

 魔族エルフと対峙した衛兵たちを建物の影から見ていた。


「味なマネをしやがって。衛兵さんたちよ」


 おれは異世界に勇者として召喚された英雄でありながら今は何もできない。おれに作戦があると言ったら、衛兵たちは自分たちが時間を稼ぐからと、おれを建物の影に隠し、自ら魔族エルフと戦い始めた。


「早くしてくれグレゴリー」


 おれはジャイアント族の衛兵グレゴリーの方を見た。


 おれのボヤキはテレパシーとして伝わってるはずだが返事はなかった。やつにも余裕がないのだろう。グレゴリーは神経を集中しておれ同様に建物の影に身を潜めながら風魔法を使い、酒屋に散乱する酒瓶や酒樽を宙に浮かせはじめている。


「頼むぞグレゴリー。それを瓦礫や建物全体に、広範囲にぶっかけてくれ。大きな炎を生み出すんだ」


 これが数分前にグレゴリーに出した指示。だがおれは蝋燭の炎程度しか操れない。


 大きな炎を操れるかどうかは賭けだった。漫画やアニメのヒーローのようにピンチで才能が開花するなんてことは現実にはあり得ないと、ついさっき魔族エルフに半殺しにされて学んだばかりだ。


「練習できる時間は限られてる。衛兵たちよ、ふんばってくれ」



 さらに五分ほどの時間が流れた。魔族エルフの刃物じみた長い爪による攻撃を、魔力を纏わせた剣で応戦する衛兵たち。


「もう耐えられねぇ!衛兵バッジをつけてるとはいえ、オレら元々が大した戦闘力じゃないんだ」


 グレゴリーの風属性の魔法によるテレパシーによって、おれの元いた世界で言ういわゆるグループ通話状態のため衛兵長の心の声がおれの頭に響いてきた。


 弱音を吐きながらも魔力を失ったヒューマン族の衛兵ユーギンとグリドフを庇うようにして、衛兵長ヤムキンが炎の剣を振るう。


「オレはこの町の衛兵長だぁ!!!!」


 今度は一転して強がる衛兵長の剣筋を、魔族エルフが刃物じみた長い爪を使い、キィンキィンと彼の剣先を逸らし薄く嗤う。


「ぎょひひひひ、頑張れ頑張れ、隙ができたら殺すぞ!!!」


「クソ悪魔憑きめが!!!」


 衛兵長ヤムキンが泣き顔をこらえ、何クソと歯を食いしばり踏み込みと同時に、火属性の魔力を纏った剣先を、電光石火の如く幾重にも繰り出す。先ほどよりも速い。飛び散る火花。炎の剣戟。


「ぎょひひひ!それが精一杯か!!!」


 魔族エルフの鋼鉄の長い爪が、衛兵長の刃先と同じだけ繰り出される。


 鋭利なものの衝突。物理的強弱を超え、速さ、魔力の差が武器の強度に影響される。


 繰り出される刃先。繰り出される爪。繰り出される刃先。繰り出される爪。繰り出される刃先。繰り出される爪。繰り出される刃先。繰り出される爪。繰り出される刃先。繰り出される爪。繰り出される刃先。繰り出される爪。


 飛び散る火花。


 金属音の数だけ、二人の男の間で衝突が発生していた。


 数分か、あるいは数十秒だったか。魔族エルフの長い爪が僅かに圧倒し、やがて甲高い音を立て、衛兵長ヤムキンの握る剣の刃先が放物線を描いて飛んでいった。


「そんな…剣が折れちまった」


 剣を折られ立ち往生する衛兵長ヤムキンに襲い掛かる魔族エルフの鋭い爪。キィィン…と音を立てそれを防いだのは、エルフ族の衛兵バザロフの剣だった。


「衛兵長は休んでてください」


 衛兵バザロフが光の速度で剣を突き立てる。だが魔族エルフの纏った金属の鎧はそれを通さなかった。バザロフの顔が青ざめる。


「こんにゃろ!!!!」


 小柄すぎるドワーフの衛兵ジジェンコが体躯に見合った小ぶりな剣と共に突進。だが、その闇属性の太刀筋を魔族エルフに見切られ、蹴り飛ばされてしまう始末。


「ジジェンコ!!!」


 衛兵たちが口々に叫ぶ。かつて汚職にまみれていたとはいえ、衛兵の仲間意識は強固だった。誰かがやられれば自分も等しく傷つく。


「くそ!てめぇ!よくもジジェンコを」


 魔族エルフの相手をする衛兵バザロフの眉間に、憎悪の影。


 衛兵長は折れた剣を見つめ立ち往生。実質、衛兵バザロフのみの戦力。魔族エルフは爪を振り回しバザロフを追い詰める。悪魔憑きのエルフとエルフ族の衛兵の戦いの構図。


「悪魔憑きになどなりやがって、このエルフ族の恥め!!!」


 エルフ族の衛兵バザロフは讒謗の言葉を吐く。


「ぎょひひひひ!!!ワシと同じエルフ族は殺しがいがあるぞ!!!」


 血の繋がりこそないものの平均的エルフ族の特徴を持ち、背格好が似た二人だった。悪魔憑きの方は全身を金属で覆われ表情は醜悪、エルフ族特有の美しさを欠いているものの、まるでバザロフは己の影と戦うかのように光の剣を振るい続ける。だが魔族エルフの金属性の魔力による鎧は傷一つとしてつかない。


「いくら光速でもワシの金属鎧(フルメタル・ジャケット)は貫通させられないぞ!ぎょひひひ!!!」


 魔族エルフの鋭い爪が衛兵バザロルの端正な顔の頬をかすめ、鮮血が飛び散る。


「こしゃくな!!!」


 防戦一方のバザロフ。やがて剣に纏わせた魔力の輝きが鈍くなり始めてきた。



「オレも戦うぞ!剣が折れてもぶつけりゃいい!!!刀身の三分の一は残ってる!!!」


 衛兵長ヤムキンが立ち直り、折れた剣を振るいバザロフに加勢。


 二対一でも魔族エルフの優劣は変わらなかった。しかし気持ちはまだ折れていない。ヤムキンとバザロフはここから先は通さないと言わんばかりに瞳の奥に怒りの焔を揺らめかせている。


「もうダメだ…背骨が砕けて動けない」


 ドワーフの衛兵ジジェンコの悲痛な叫び。


「俺らが魔力を奪われたばかりに」


 普通の人間に成り下がり、戦闘に参加できないユーギンとグリドフは涙声だった。剣を握った手が震えている。衛兵長らが押され気味になれば無謀と知りながらも戦闘に参加しかねない兆候。


 そんな中、衛兵長ヤムキンが皆にテレパシーで語りかける。


「いいんだ。衛兵になったときの誓いの言葉を覚えてるか。オレはあの小僧に命を救われたあの時に目が覚めた。ダンジョン制圧のため、いたずらに衛兵たちの命を失わせた領主に憤り、町民たちに当り散らし傷つけちまった…最期くらいは誓いを守り衛兵として町のために命を捧げよう」


 衛兵長ヤムキンは覚悟したように、確かにそう呟いた。


 おれの頭に響くテレパシー。あいつ、ちゃんと改心してたんか。あのとき魔族エルフから命を助けてやってよかったぜとおれは思った。もちろんこれは言葉の形にせず思ったことなのでテレパシーとして伝わってはいない。


 おれは一刻も早くやつらに合流し戦闘に参加したくなった。英雄として、やつらを死なせられない。だが、準備が必要なんだよな、準備が…グレゴリー早く頼む。おれはグレゴリーの方を見た。風魔法に乗って宙に浮いた酒瓶や酒樽は順調に建物に降り注がれている。


「ダンジョンに親父を奪われた俺にとって、衛兵長…アンタは親父がわりだった」


 衛兵バザロフはエルフの尖った耳を震わせ、衛兵長に胸のうちを明かす。まだ続いていたのかこの会話。と思いつつもおれはやつらのテレパシーに聞き耳を立てる。


「バカ野郎、こう見えてオレはまだ三十八だ。二十六歳のお前の親父にゃ若すぎるぜ」


 衛兵長は笑いながら、魔族エルフに炎の魔力を纏わせた折れた剣を振るう。



「もうそろそろ、いいか」


 おれはジャイアント族のグレゴリーにテレパシーを送る。


 半壊状態全壊状態の建物に、酒屋から失敬した酒瓶や酒樽をせっせと風魔法で操り続けるグレゴリーが建物の影で頷いた。


 グレゴリーの操作する風魔法で、宙をふわふわと浮く沢山の酒瓶から瓦礫の山々にアルコールが注がれ続け、もう中身の入ってるものはさほど多くないようだった。


「あと一分くらいで全部、注ぎ終わるよ」


 グレゴリーからのテレパシーに頷いたおれは、建物の影から衛兵たちの奮戦を見ながら、状況を整理してみる。


 衛兵バッジを所持する衛兵長ヤムキンと衛兵バザロフはまだ、あと少しは持ちこたえてくれそうだったし、また薄笑いを浮かべながら二人と戦闘を繰り広げる全身金属の鎧を纏った魔族エルフが、魔力を奪われたユーギンやグリドフ、戦闘不能となり地面に転がるドワーフのジジェンコに、今すぐ手をかける様子もなかった。


「あと二分か三分、粘ってくれ。この辺一帯の瓦礫が火で包まれればその炎を使い魔族エルフを倒せる。超硬度を誇るやつの金属製の鎧とて膨大な熱を防ぐことはできないはずだ」


 おれは衛兵六人全員にテレパシーをとばす。頷きこそしないが衛兵長ヤムキンと衛兵バザロフは、その言葉を信じ踏ん張るようにして戦い続けてくれている。


 一方、魔族エルフがおれとグレゴリーの動きに気づいている様子はない。


 そこかしこの瓦礫や建物に今もなお、酒瓶のアルコールは注ぎ続かれている。酒飲みオヤジがこれを見たら発狂しそうな光景。フルーティーな果実酒の匂いがここまで漂ってきた。


 さすがに薄笑いを浮かべていた魔族エルフもそれに気づく。炎を操る練習に二分ほど使える余裕はないのか。おれは舌打ちを堪えた。


 同時にグレゴリーがこちらに向かい親指を立てる。もう、なりふり構わずやっちまえというサイン。


火炎矢(ファイヤー・アロウ)


 こうなれば破れかぶれだ。炎を操る練習すらできないまま、おれは適当な瓦礫に向けて火を放つ。すべての瓦礫と建物が隙間を空けずにアルコール浸しになっているのは、おれからグレゴリーに指示したとおり。


 一瞬にして火種は酸素とアルコールを食らい続け山のように燃え盛り始めた。商店街を覆いつくす巨大な炎。


「さて、蝋燭の炎を操るのとはワケが違うぞ」


 思考をフル回転させる。


 このおれが今そこで燃え盛ってるこのデカイ炎を操れるかどうか。やるだけやってみよう、そう思った。


 もしそれができないなら遺された方法は一つしかない。それができるかどうかまだ確かめてはないが、それもプランその二として考慮しよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ