鈴木乱入
足の裏の写真では、薄ピンクの肉球の隙間の毛もしっかり刈られていて、手入れが行き届いているのが良くわかる。
二種類のおやつは、一つがドライフードで、何粒か入っていて丸や魚の形をしているもの。もう一つが、液状のものだった。
「ありがとうございます。では、最後にラテくんを見たのはいつですか?」
「ええと……昨日の朝、ですね。家から、仕事に行く私を送り出してくれたんです。でも、帰ったら……その。家中の、どこを探しても、いなくて」
ついに、堪えきれなくなった涙が一筋こぼれる。しかしそのまま決壊することはなく、松本は「すみません」と呟いてそっとハンカチを取り出し、目もとを抑えた。
湊は面食らってしまって、勢いで立ち上がりかける。しかし思いきれずに中腰で止まり、座りなおした。
居た堪れなくなって視線を向けると、高橋は松本を、常と変わらぬ目で見ている。その視線は目に見えてあたたかいわけではないのに、不躾でもなかった。
いやに静かな部屋に、涙をおさえる息遣いだけが響く。
湊が高橋の白い首筋のあたりを意味もなく眺めて、段々視界がぼやけてきたとき。
「おや、お嬢さんを悲しませたのは……高橋君かな?」
沈黙が破られた。
奥のドアが開いて、鈴木がゆったりと姿を現したのだ。
見計らったように出てきたが、松本がハンカチを握りしめているのをみて、彼は少しだけ歩調を早めた。
「分かって言ってるでしょう」
高橋がぶすくれる。表情こそわかりにくいものの、声音が面白くなさそうだった。
そんな雰囲気を感じ取って、松本がもう一度小さく謝る。すると、耳に届いたのか慌てて高橋が纏う空気を和らげた。
鈴木が、彼女の腰掛けているソファの脇にしゃがみ込んで、眉根を下げる。松本をちらりと見てから、視線を逸らした。
「これはいけない、実に可憐だ……。潤んだ瞳もまた湖面のように美しい。……そう思わない? 湊君」
「えっ」
「アンタ、もうちょっとマトモだと思ってましたよ。こんときにもふざけないでください」
うんうんと唸っていた鈴木は、高橋の言葉に顔を上げた。湊は二人を見比べる。
困惑して視線を揺らがせている彼女に、鈴木がくすりと笑った。
「ああ、どうぞお気を遣いすぎず。彼も、貴女に口を尖らせているわけではありませんから。私もふざけてなどいないのだけどね」
高橋が不満げに目を逸らすのも気にせず、人好きのする笑みを浮かべた。彼女はハンカチを握りしめた手を見つめる。
「ありがとう、ございます……。あの子がいなくなってから、何を話しても涙が溢れてしまって……」
「ふむ……。貴方の生活に、それだけ常に関わっていたのでしょうね。それだけ、思い出があるってことです。それはそれで素晴らしいとも言える」
鈴木は同情とも違う思いやりをたたえた目で、机に置かれた貼り紙を見た。平面のラテも、鈴木を見つめ返している。




