猫のラテ
「鈴木さんから聞いてる」
当たり前のことのように静かな声で言った高橋に視線で促されて、湊は目を丸くしながらもぎこちない動きでその隣に腰掛けた。
応接用の空間は、入り口の役割を担うガラス戸から斜め左へ少し行ったところのパーテーションに区切られた先にある。
入り口からは見えないが、スタッフルームへ続くドアや、そこまでの空間に続く事務机からは一望できる。
これは依頼人が危険人物であった場合にすぐ気づけるようにするためだとかなんとか、鈴木が言っていたのを湊はぼんやりと思い出した。
「高橋です」
「あ……四月一日です」
高橋に見つめられて湊が苗字を告げると、彼は目を依頼人の女性の方へ戻した。
「私は、松本心雪です」
「松本さん。本日は、どのようなご用件ですか」
松本は高橋の静かな口調とまっすぐな瞳に、彼を見つめ返す。
そこで初めて、湊は彼女が泣きそうな表情をしていることに気が付いた。
そのことに言及していいものかわからず、思わず湊は目線を泳がせる。
「あの……猫が、居なくなってしまって」
「猫探しのご依頼、ということでよろしいですか」
高橋が淡々と整理したことに対して、松本は現実を思い出してしまったのか目をうるませる。
「はい、その……大事な家族なんです」
「承知しました、誠心誠意探します。では……その猫さんの特徴など教えていただけますか。できるだけ、詳しく。写真などもあればぜひ見せてほしいです」
「あ、じゃあ……これを」
彼女がトートバッグから、クリアファイルを取り出した。次いで、猫用のおやつも二種類出てくる。ファイルの中身は、街中で時々見かけるような、迷子猫を探す張り紙だった。
紙には、猫の名前と写真、諸々の特徴と、連絡先が書かれていた。
「こっちは、一応持ってきたんですけど……あの子の、ラテの好物です」
松本が、二つの猫用おやつを机におく。貼り紙もファイルから出して、心配そうに写真を一瞥してから差し出した。
ラテと呼ばれたその猫は写真を見るに、白を基調とした柔らかそうな長毛に、薄いクリーム色がところどころ入っていた。
足の裏の写真では、薄ピンクの肉球の隙間の毛もしっかり刈られていて、手入れが行き届いているのが良くわかる。




