初めての依頼
あずまやに通うようになってから一週間が過ぎた。
湊はあの日の二日後から店に通い始め、雑用をこなしていた。佐藤からの話によると、社員寮を使って良く、研修などは特にないらしい。
湊は毎日頼まれたことをこなすのみで、依頼は他の三人が処理していた。
ただ月が変わるまでもう少しあるので、退去届や郵便物の届け先など諸々の準備をしなくてはならず、未だ彼はアパートに住んでいた。夜になるといつの間にか結月がいつものように夕食を食べにくる。
幽霊なのにご飯を食べるのかという疑問はとうの昔に捨ててある。
「すみません、誰かいますか?」
湊が菓子をあずまやの簡易キッチンの棚に入れていると、女性の声が入り口から聞こえてきた。依頼だろう。
するとキッチンの作業台にもたれかかって湊の様子をみていた鈴木が、口を開く。
「湊君、高橋君と一緒にやってみる? 依頼」
「えっ、いきなりですか!?」
「うん、多分できるよ」
棚に入れかけていたスナック菓子を持って固まった湊に構わず、鈴木は吊り戸棚から茶葉やら茶器やらを取り出すと、丁寧な所作で茶を用意し始める。
蒸らす間に湊のいる棚の隣から客用の高級そうな菓子を取り出し、振り返った。
「大丈夫。高橋君もいるし、私もそれとなくそばにいるよ」
優しい笑みを口元に浮かべてから茶を注ぎ、それらをおぼんにのせて歩きだす鈴木に、湊は不承不承ついていかざるを得なかった。
ドアの先、湊が寝ていたベッドの隠れているパーテーションを過ぎて、応接用のソファに辿り着く。既に高橋が、黒髪を一つに結んだ女性をソファへ通した後だった。
女性は中身の詰まったトートバッグをソファの肘置きに置いており、見かねた高橋が荷物入れを持ってこようとするが——鈴木がそれを女性に気が付かれないよう小さく手で制す。
湊はそもそも女性の荷物が今にも落ちそうな絶妙なバランスで肘置きに乗っていることにすら気付いておらず、初めて依頼に対応するという事実に慄いていた。
なんだかそわそわしてしまって、所在なさげに立ったまま小さく指を組む。
鈴木がおぼんからティーカップと茶菓子を人数分置き、おぼんを仕舞いに去っていく。
湊は高橋が湊の分の隙間を開けてソファに座ったのを見て、「え」とこぼす。
「どうして、僕が今日参加するってわかったの……?」
「鈴木さんから聞いてる」
当たり前のことのように静かな声で言った高橋に視線で促されて、湊は目を丸くしながらもぎこちない動きでその隣に腰掛けた。




