かりんとう
平面のラテも、鈴木を見つめ返している。
書類の匂いと、ガラス戸の隙間から控えめに入る昼時の快い空気が、ずっしりとした憂いと混ざり合って緩和していく。
松本は「もう大丈夫です」と言って、再度
目もとを押さえてからハンカチを仕舞った。
その拍子に、重心がブレたトートバッグが肘置きから落ちかける。
「おっと」
彼女が気付いて手を伸ばすよりも先に落ちたトートバッグは、丁度そばに片膝を立てて座り込んでいた鈴木の両腕におさまった。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、中身が散らばらなくて良かった。……おや、これは」
トートバッグを松本に返そうと持ち手を探って、ふとその中身が鈴木の目に止まる。
それはよくある保存袋だった。砂らしきものが沢山入っている。
「猫砂ですか」
高橋が中腰になって覗き込んだ。松本は頷きながら、保存袋を取り出して膝に置く。
「すみません、汚い部分は少ししか入っていないのですが。使用済みの猫砂を使うと見つかりやすくなるって聞いて……一応持ってきました」
興味深そうに高橋がそれを見るので、彼女は袋を机に置いた。
湊も少し身を屈めて観察する。
そんな中鈴木は、手だけをトートバッグの内側にそっと滑り込ませた。
高橋は目だけで彼を見て、すぐに猫砂に目線を戻す。
「ああ、ありがたいです。使ってみましょう」
「はい……お願いします」
鈴木の体はテーブルの方へ向いたままだったので、不自然な動きではなかったし、松本も高橋たちの方に意識が向いていて気づく様子はない。
鈴木の指はキーホルダーの輪っかを引っ掛けて、おもむろに引き上げる。鍵が蛍光灯の光を反射して束の間光った。
あっという間に、トートバッグの内ポケットに入っていたはずの鍵は鈴木のスラックスに収まる。
高橋は、その様子を何も言わずに目だけで見た。
「かりんとうだ……」




