放課後の教室
教室には、紙をめくる音だけが残っていた。
夕陽が窓の隙間から差し込んで、黒板の端を金色に染めている。
(……まだ帰ってないのか)
プリントを整理している彼女が、机の中をのぞき込んで何かを探していた。
その仕草が、やけに落ち着かない。
俺「何探してるの?」
口をついて出たのは、それだけ。
自分でも少し意外だった。
普段なら誰が何を落とそうと、気にもしないのに。
佐伯「えっと……数Aのノート。どこやったかなって」
彼女の声が少しだけ上ずっている。
言葉の端に、緊張が混じっていた。
(……ああ)
ようやく思い出す。
昨日、俺がそのノートを借りて、そのままカバンに入れっぱなしだった。
俺「あ、ごめん。昨日借りたままだった」
カバンの中からノートを取り出す。
角は折れていない。
気づけば、いつもより丁寧に扱っていた。
佐伯「あ、ありがとう」
自分が借りたのに、彼女はそう言った。
(貸したくせにお礼とか…かわっ)
思わず、口が動く。
俺「別に……。つーか、お礼を言うのはこっちでしょ?」
一拍、沈黙。
彼女が一瞬きょとんとした顔をして、視線をそらす。
その反応を見て、胸の奥がわずかに熱くなった。
言わなくてもいい一言を、また言ってしまった。
(ほんと、何やってんだろ)
窓の外に視線を向ける。
夕陽が沈みかけて、世界が少し赤く染まっていた。
その色が、彼女の髪の先に映っていた。
そんな彼女が可愛くて、綺麗で、ずっと見てたくて、
立ち上がるタイミングを探していた。




