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名前のない放課後  作者: えあな


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気のせい

(昨日、話したのはほんの数分だった)


ノートを返しただけ。

ただそれだけのことなのに、

帰り道、頭の中から彼女の声が離れなかった。


(あのとき、手が触れた)

(……ちゃんと顔見れてたかな)


教室に入ると、もう彼女がいた。

朝の光がカーテン越しに差し込んで、髪が透けて見える。

その横顔を見た瞬間、喉の奥が少しだけ痛くなった。


いつも通りを装って席に座る。

柏木と久我がやってきて、すぐに話しかけてくる。


柏木「おはよー、篠原。昨日女子と喋ってたって噂になってたけど?」


その言葉に、手持ち無沙汰だった手の中でくるくるゆっくり回していたシャーペンがわずかに止まった。


俺「……噂にすることですかね?」


冷静を装って、またシャーペンをゆっくり回す。


柏木「だって篠原だぞ?」


俺「みんな話題に飢えてんね」


柏木がにやにやしながら笑い、久我が机を軽く叩く。


(ほんと、面倒くさい。

 これ以上、コイツらにバレたらダルい)


無表情にシャーペンを回す手は止めない。


久我がぼそっと言う。

久我「へぇ、あの子? 篠原が女子の名前出すなんて珍しい(笑」

俺「名前、出してない」

手は止めず、秒でツッコむ。

柏木「いや、顔がもう出してるし」

かぶせるように柏木がイジってくる。



柏木「おまえ、ああいうタイプ好きそうだもんな」

柏木が呟いた。


俺「別にそういうんじゃない」


少し間をあけてしまった。音に出した声は思ったより低く張りのない声だった。


柏木・久我「へぇ」

声をそろえる悪友2人。


二人の声を適当に流しながら、視線がまた前に向く。

彼女は友達と話しながら笑っていた。

その笑顔を見た瞬間、

胸の奥に小さな痛みが走る。


(……好きだな、やっぱ)


でもやっぱり、そう認めたくなくて、

湊はノートを開いた。

けど文字がまったく頭に入ってこない。



窓の外の光が、

少しだけ昨日の教室の色と重なって見えた。

その一瞬だけ、時間がゆっくり流れた気がした。

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