ヨルノのワガママ
次の日、自室で男の身体から女の身体に変わっても温泉の効能はなくなることはなかった。つやつやのもちもちなお肌な俺は洗面所で自身の身体を眺めていた。
どこを触ってもモチモチで身体中のすべすべを堪能していた。
「スゲー。もちもちだよ。もちっもち」
永遠に触っていたい肌は俺の能力で再現できない。これほどあの温泉はすさまじい効能を秘めていた。
タマコを送ったらあと温泉があった廃業した温泉宿に再び行ったら、怪しい人達が沢山いた。普通に温泉を楽しむ気が全くない黒いスーツを着た人達が温泉宿までの道を封鎖していた。
もう二度とあの温泉に入ることは願えないだろう。
「お姉ちゃん?洗面所で何しているの?ってお姉ちゃんその肌どうしたの?」
そこに洗面所に顔を出したヨルノは俺の肌を見て目が飛び出るほど驚いていた。
「ふっふっふ。見よヨルノ。このモチモチの俺の肌を。あとお姉ちゃんって呼ぶな」
「なんでこんなにすべすべなの?頬っぺたもモチみたいでどうしたの?高いスキンケアでも買ったの?ちょっと試しに使わせてよ。ちょっとだけでいいから。お願い」
必死に懇願してきた妹にちょっと恐怖を感じてきた。
温泉で綺麗になった肌を自慢しようと思ったが、ヨルノが怖くなって自慢する気が失せてきた。
「美容品を使ったわけじゃないんだな。これが」
「どうやったらそんな肌になるのよ。喋るまで付きまとってやるんだから」
根掘り葉掘りと肌のことを聞かれた。温泉のことを秘密のまま俺の肌を羨むヨルノに対して自慢するつもりだったが、ヨルノの異常までの美肌の追求の迫力に負けて温泉に入ったことを話した。それがどこの温泉なのかは伏せての説明にヨルノはうさんくさそうに目を細めた。ただ温泉に入っただけの説明に納得してないようだが、納得してもらうしかないのだ。
そして。
「じゃあ今日その温泉に連れてってよ。じゃないと離さないから」
温泉に入ったことでこのような肌になったことを知ったヨルノはがっしりと俺の身体にしがみついた。コアラのようにしがみつくヨルノはワガママを聞くまで離してはくれそうにない。
温泉のことを詳しく話すつもりは毛ほども無いが、このまま離してくれないと俺はどこにも行けない。予定とかはないが、妹がしがみついた状態で休日を過ごすのは動きづらいし、鬱陶しく感じる。
「わかった。わかったよ。連れていくから離してくれよ。今度連れていくから離せよ」
「本当!?約束だからね。私忘れないからね。破ったら針千万本飲ませるからね!約束だからね。お姉ちゃん!」
俺が連れていくと答えた瞬間、ヨルノは嬉しそうに離れてくれた。
連れていくと答えたものの、あの温泉に入れるかどうか怪しい。まあ、連れていくとは言ったが、入らせるとは言っていない。謎の組織があの温泉宿を封鎖している可能性は高い。ヨルノを連れていく前に様子を見に一回行った方がいいだろう。
あの建物自体が何か異常な場所かもしれないし、誰かがあの宿の中に扉を設置しただけかもしれない。謎の多い特異的な温泉は一般的に広めない方がいいかもしれない。だからあの効能効果があるのに一般的に広まっていないのは誰かが温泉の情報を秘匿している。
誰かが独占、もしくは一般人対してデメリットや危険性があるのかも。
さて、洗面所から邪魔者が消えた。
これから何をしようかと少し考えたが、何も思いつかなった。部屋に戻って惰眠を貪ってもいいし、クリアしていないゲームをするのもいい。どこか遠くへ出かけるのも悪くない。セバスがいる無人島に行って虚無感に海を眺めるのもいい。
スマホの画面を確認するが、誰からもメッセージが無い。今日という日が終わるまで15時間以上ある。
予定が無いということは何をしてもいいということだ。これこそが真の自由と言う。悪く言うなら暇だということだ。
とりあえず脱いだ部屋着を着直して、自室に戻った。
SNSで何か面白い物が無いかネットの海を探し回る。されど俺が興味ある記事がなかったが、ふと昨日の温泉のことが気になったので検索欠けてみた。数十分かけてとある複数の噂に行きついた。
内容はこうだ。
北海道の森奥に小屋があって、小屋の中にある変哲の無い扉を通ると超絶美少女がいる温泉があるとか富士の樹海の洞窟に扉の先に異空間が広がる疲れが取れる温泉があるとかいろいろあった。
半分以上がガセかもしれないが、似たような温泉が存在するらしい。今度全国の異空間に広がる温泉を巡りたいな。
たぶんネット情報に載っている本物の温泉は誰かに管理されていて入れないようになっているのだろうけど。
昨日の温泉で少女と他の客のやり取りも気になる。あの古びた扉の先に何かあるのだろうか。もう知るすべはないだろうけど、気になる物は気になる。
試しにまたあの温泉に行ってみることにした。
地味な服装に着替えて俺はあの古びて廃墟と化した温泉宿の近くにテレポートをした。




