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温泉の案内人

 ここに来てから何時間くらい経ったのだろう。五時間くらい経った気がするが、一時間も経っていない気がする。時間を気にするのが億劫でならない。


「タマコ。俺達どのくらい入っている?」

「ん?わからない」

「もうそろそろ上がった方がいいんじゃないか?」

「まだ大丈夫だと思うからもう少し入ってようよ」


 似たようなやり取りを二、三回繰り返した。いやもっとやっているかもしれない。数えるのがめんどくさい。湯船から出たくない。一生ここに住みたい気分だ。

 この心地よさの前では何もかもめんどくさく感じる。でもここから出ないとな。


「そろそろ上がるか」

「えー。もうちょっと入ろう」


 腰をあげて湯船から出るとさっきまで体についていた汚れや肌荒れが無くなり、肌が綺麗になっていた。まるで生まれたての赤ん坊の肌みたいにすべすべでもちもちの肌。まるで生まれ変わったような姿。身体も風が吹いたら飛べそうなくらい軽い。

 それは異常なほどの快調で何キロもマラソンできそうな気分だ。


「ほらタマコも出ろ」


 いつまでも湯船の中でまったりしているタマコを念力で立たせてウッディーな浴槽の部屋から出た。部屋までの道のりは覚えていたので少女がいたフロントまで簡単に戻れた。


「いらっしゃいませ。あなたはとてもお疲れのようですね。ではこちらに」


 少女は他の客が来ていてそれの対応していた。その客は男性で俺達と同じ湯着を着ていたが身体中に切り傷や返り血のような物が付着していた。その男性はとても疲れた顔をしていた。

 男性は少女と数回のやり取りの末に古びた扉の前へ案内される。俺とタマコも二人の後を追いかけた。

 男性が案内された扉が開かれると男性は湯着を脱ぎ捨てて扉の奥へ消えていった。

 扉を閉じた少女の表情はとても悲しそうな顔でぽつりぽつりと涙を落とした。最愛な人を失った女性と言わんばかりだ。

 脱ぎ捨てられた湯着を拾い大切そうに抱きかかえた。


「おや、お見苦しいところを見せてしまってすみません。何か御用ですか?」

「もう帰ろうかと思ってだな。お代とかは」


 振り向いた少女に気づかれてしまった。誤魔化すようにお代を口にした。


「いいえ、お代は結構です。ここでは金銭のやり取りはしていません。お客様が癒されれば、それこそが私の喜びなのです」

「そうなの?体が濡れたままなのだけど着替えとかってないの?」


 タマコは濡れた髪をかき上げながら少女に問いただした。

 身体は濡れたままだけど湯着はお湯に触れて水分を吸っているはずなのだが、濡れている様子はない。重くもない。不思議な素材でできているのだろう。


「申し訳ありません。お着換えはありません。その状態のままお帰りなります」


 パーカーを着ていたはずなのにここに入ってから湯着を着ていた。着替えた覚えはないからここから出たら元の服になるのだろう。


「お帰りはこちらです」

「また来るよ」

「またのお越しを心からお待ちしております」


 案内人の少女に見送られて俺とタマコは元の温泉宿に戻った。着ていた湯着は元の服装に戻っていて、濡れていた髪や肌は乾いていた。ただ肌はあの湯船から上がったばかりのようにサラサラのもちもちなのは変わらずで精神的も晴れやかな気分だ。


「いいところだったね」

「ああ、また来たいな」

「今度はルカ達も誘うよ」

「いや、ここは二人だけの秘密の場所にしとこう」


 異常な場所だったが、特に身の危険を感じることはなかった。だが、ミキミ達をあの温泉に誘うのは勘弁してほしい。いろいろと説明する必要があるからやめとこう。正直めんどくさいし。


「君達ここで何しているの!ここは廃業していて立ち入り禁止の場所で」


 どこからか懐中電灯を片手に人影が現れた。外はすでに夜になっているらしく暗くなっていた。相手の顔は懐中電灯の逆光で見えないが、女性らしい。


「32546が戻ってきたのか!」


 女性の後ろからも女性の仲間と思われる人影が数人現れた。

 どうやらここは立ち入り禁止の建物だったらしい。たぶんあの異空間へ行ける扉を管理している人達だろう。この建物は見た目は廃業しているが、秘密組織的な団体によって管理されていて、俺達は不法侵入してきた不審者なのだろう。


「不味くなったぞ!ここは逃げるぞ」

「えっ?待って」


 俺はタマコの手を握ってテレポートをした。

 咄嗟の出来事だったから無人島へテレポートしてしまった。そう今の無人島にはセバスがいるのだ。

 無人島の夜は雲一つ無く、月明かりで浜辺を照らしていた。


 月光で照らされた浜辺には地平線を眺めるセバスの姿があった。


「お嬢様はこんな夜遅くにどうなさいました?それともう一人のお嬢さんも」

「案山子?ってえ?セバス!?海?ここは廃墟の街じゃない?」

「悪いセバス。夜遅くに来るつもりはなかったのだが、すぐに帰る」


 俺達に気づいたセバスが近寄ってくる。

 廃墟の街に置いてきたはずセバスと再会でパニックを起こしているタマコを無視して、セバスに軽く状況を説明してからタマコを家まで送った。

 たぶん明日あたり、セバスが何故いるのか聞かれそう。

 俺もセバスがどうやって来たのかは知らないしから説明できないんだよな。

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