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温泉デート?

「すみませーん」


 声をかけながら入店してみたが、中はガランとしていて人の気配が無い。てかフロントは埃を被っているし、天井には蜘蛛の巣が張っている。長年手入れをしていないように見える。窓ガラスも一部欠けて隙間風も入り込んでいるし、本当に営業しているのか半信半疑の面持ちだ。


「人いないんじゃないの?帰ろうよ」

「駐車場に車があったから営業しているはず。たぶん。とりあえず中に入ってみよう」

「外にあった車って違法に寝泊まりしている人なんじゃ」


 タマコの呟きを無視して、俺は下駄箱に靴を入れて中に入る。

 カビ臭い廊下を進み、人を探した。何故かタマコは俺の手を握っていたが、特に気にすることなく人の気配を探った。視界を駆使しても人を見つけることはできなかった。車があるので必ず人がいるはずなのだが、煙のように消えてしまったかのようだ。

 駐車場の車は乗り捨てられたように見えないから人がいるはずと思っていたが、車の持ち主はここに車を置いて別の場所に行ったのか?こういう旅館なら廃業していたらちゃんと施錠していると思うのだが、うーん。

 タマコの言う通り今日は帰ろうか。


「ねえ?マヒルあれ見てよ。あの扉だけおかしくない」


 タマコが何やら見つけたようだ。

 タマコが見つけた物は古臭い壁には異常と思える真新しい白い扉だ。

 この扉の先に誰かがいるかもしれないと思ったが、視界で扉の向こう側を確認するがただの物置部屋のようだ。この扉を開いても大して面白くない物しかない。

 向こう側、扉の反対を視界で確認した。向こう側、反対の壁には扉が無かった。

 白い扉はただの壁の飾りだなと決めつけたが、白い扉の隙間から湿度の高い空気が漏れ出ていることに気づいた。壁の向こう側はただの物置だというのに扉の向こう側には温泉があるみたいだ。


「開けてみる?」

「待て!壁の向こう側はただの物置のはずなのにこれはおかし過ぎる。まずは俺が先に確認する。」


 扉のドアノブを握ろうとしていたタマコを止めて、俺が率先して扉を開けて中に入る。

 扉の先は真っ白な温泉の浴場だった。真っ白なタイルの壁、天井、床。綺麗な浴場だった。


「いらっしゃいませ」


 前方に一人の美少女が立っていた。青緑がかった髪に赤い目が特徴的な美少女が直立不動で俺を出迎えた。


「えーとここは?」

「初めての方ですね。ここは温泉浴場の場です。日々の疲れを癒すためのだけの場所です」

「そうか。着ている服はどうすればいいんだ?」

「脱ぐ必要はありません。そのまま入浴していただいて大丈夫ですよ」

「このままって、服が濡れるだろって着ていた服が変わっている!」


 さっきまで来ていたパーカーとジーンズがシルクのような肌触りのワンピースみたいな服に変わっていた。そして肌には皮脂・垢・泥のような汚れが目に見えるほど体に付着していた。昨晩風呂に入ったはずなのに一週間風呂に入らなかった汚れ方だ。髪の毛も汚れでガチガチに固まっているし、身体中が痒くなってきた。酷く疲れているみたいに眠気が脳を襲い始めた。

 あー痒い!眠りたい!


「はい。その湯着のまま御入浴して構いません」

「マヒル、何しているの?このかわいい子誰?」


 美少女は淡々と説明する中でタマコが来てしまった。ここの安全も何も確認してないのに。

 タマコも俺と同じ湯着を着ている上に肌がカサカサとあれており、土や砂などで体が汚れていた。


「お連れ様もいらしていたのですね。お連れ様と一緒に御入浴できますよ。それとすみません私には名前などの上等なものなどありません。私はただの案内人ですので声をかけるときは女や案内人など呼びやすい方でお声をかけてください。では湯に案内します。こちらに」


 少女は俺達を奥へと案内する。俺とタマコはお互いの顔を見合わせて少女の後を追う。

 案内されたのは緑がかった湯船のある部屋だった。


「このお部屋でゆっくりと堪能してください。最後に湯着を脱いではいけません」


 少女はそう言い残して退出した。

 案内されたからには入らないとまずいだろう。入らずに帰ろうとすれば何をされるかわからない。入ったら入ったで体に何が起きるかわからない。身体が緑色をした怪物になるかも。

 元の場所に戻るには彼女がいる出口を通らないといけない。俺一人なら入らずにこの場所から脱出することは簡単だっただろうが、俺の隣にはタマコがいる。

 タマコを見捨ててここから出るわけにはいかない。


「どうしたの?入らないの?この部屋凄くいい匂いだよ」

「言われてみればいい匂い。森林浴をしている気分だ」


 ウッディーで爽やかな香りの中にハーブ的な清涼感のあるすっきりと香りが部屋中に充満していた。匂いを嗅いだだけでリラックスしてしまう。


「危険かもしれない。先俺が入って確かめる」


 タマコに言ってからつま先を緑色の湯にチョンと触れて安全なことを確認してからゆっくりと足を湯船に沈める。

 湯加減は熱いというより暖かいと感じるくらいの温度だ。痛みとかは感じられないが、気持ちよさで溶けていく感じがする。緑の湯に腰を落として身体を沈めた。


「ふおぉぉ!これは凄い!」


 お湯に疲れや気だるげが溶け出ている。身体の奥から温められて高揚感を感じる。無限に入っていられるぞ。


「どうなの?入っても大丈夫なの?」

「ああ。タマコも入っていいぞ。これは凄く気持ちいい」


 俺の許可が下りてゆっくりとタマコも湯船に入る。


「これは凄いわ。なんて言ったらいいのか分からないけど、体から悪い物が溶ける気がするわ」


 タマコもお湯の心地よさに驚きをあげる。

 俺とタマコは仲良く並んで緑のお湯を楽しんだ。

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