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西野先輩が去ったあとにノア先輩は複雑そうな顔をして言葉を発した。
「辞めるか」
「辞めねぇよ」
やめない! と言うよりも先に宮村が言う。
「間に合わないだろ。どう考えても」
反論というよりは諭すようにノア先輩は言った。
「そもそも俺らは人数も少ない。話を作るのはアキラだけど俺が前も言ったようにアキラの話はアニメ向きじゃねぇ。実際の絵だって俺らの絵は手描きで描くのが宮村ひとり。アニメの基本は24フレーム3コマ撮り。単純計算で1秒8枚の絵だ。最初の予定の30分のアニメってなったら30分✕60秒=1800秒。1800秒✕8枚で14400枚。かける?」
「それはスムーズなアニメのときですよね? 話次第ではそんなにスムーズに動かさなくても」
「どの話にするんだよ、今更」
「それは……」
言葉に詰まる宮村にノア先輩は言うのをやめない。
「そこから編集して、アフレコして。町田ちゃんの音楽も話が変われば変わるだろ。学祭まで日もない。出来ないなら、しないほうがいいと思ったんだよ」
「なんで」
ノア先輩の話を聞いてぽつりと言葉が溢れた。
「なんでそう諦められるんですか。パクったのはあっちなのに! なんでこっちが」
「あっちの!」
言葉を遮るようにノア先輩が珍しく声を張った。
「西野の言うとおり、あっちのほうが出来もいい。実績もある。パクったのはこっちだってなるだろ」
諦めたようなその言葉にわたしも、宮村もなにも言えなくなった。そんな中、マッチーは呆れたような声を出して溜息をはいた。明るい彼女らしくないその表情は初めて話したときによく見ていたものだ。
「ばっかじゃないですか?」
「ばっ」
ノア先輩に向けて言われた言葉にノア先輩が目を白黒させる。
「諦めるって選択肢をするんですか? 天才なのに? 才能あるんだからパクられるのなんて慣れっこでしょう?」
っていうか、とマッチーはノア先輩を睨んだ。
「ノア先輩ちょっとわかってたんじゃないですか?」
「わかって……」
「え? なんで?」
そういうと、西野先輩が、とマッチーは言った。
「執行部の堅物の西野先輩がこんなことで動くわけも、ましてやタブレットでみせるわけもないじゃないっすか。頼んだんでしょ? 調べてって」
ノア先輩は少し躊躇いながらコクリと頷いた。
「棚瀬はあぁいうやつだし、アニメ研究会がなにするのかわかんなかったのもあるけど」
ちらりとこちらを見たその目にえ? わたし? と思わず聞き返した。
「アニメ研究会とアキラちゃんの友達が最近仲良くしてたから」
「わたしの友達……って宮村?」
「ちげぇよ」
宮村はスパッというと、あのサヨってやつだろと投げ捨てた。
「サヨが……」
「そのサヨちゃんは話の内容知ってる?」
「読んだことはあると思うけど、どうだろ?」
「西野の彼女だろ、その子」
ノア先輩はため息をつきながら言う。
「多分、西野はだれがなにをしたかなんてこともうわかってるだろうなぁ」
しみじみいうノア先輩にマッチーはイライラしたように言葉を発する。
「西野先輩に言う前に相談すればよかったんですよ! とっとと。伝えればよかったんですよ」
「いや、でも」
「でもじゃない! どうせ、“先輩なのに"とか“1番実績あるのに"とか、とにかくそのくっだらないプライドがあったんだろうことは予測がつきますけどね!」
「そんなんじゃ」
「はぁ⁉ どの口でそんなんじゃないとか言ってんですか」
ノア先輩とはもともとそんなに仲が良くなかったからかとまることなくマッチーは言う。
「大体ですよ、ノア先輩はアキ先輩に甘えすぎです。ムラ先輩に聞きましたけど、最初はお金、求めたらしいじゃないですか」
「いや、マッチーそれはね」
「波多野、やめとけって」
マッチーの言葉に口を挟もうとして宮村に止められる。
「それでなんですか? お金はいらないから参加することにして? 今度は勝手に懸念材料調べて? 諦める? いい加減にしろよ、この、人間不信野郎!」
「マッチー言い過ぎ」
こら、と怒ると素直にしゅんとなる。ノア先輩は苛ついたようにぐしゃぐしゃと髪をかきむしっていた。ふわふわの髪が余計にボリュームを増している。
「ノア先輩……」
「悪いとは思ってる、でもたぶん同じ状況になったら同じことをしそうだ。俺は町田が言うとおり、人間不信だけどな。納得してない作品や、パクられてる作品を世の中に出すほどまだ腐ってねぇんだよ」
「納得してないなら納得してないっていえばいいんですよ!」
「言ったらなにか変わったか?言ったよな?俺。お前の、お前の話はつまんねぇって。それから宮村の絵はアニメ向きじゃねぇ。量産できねぇ。アキラちゃんが声をしたって、絵に合ってねぇ。そんなんで出せっていうのか? 俺の名前も入るのに? それでもまだやれると思えてたからやってたけどパクられてたら話はべつだろ」
「じゃあ! どうしたら納得するっていうの!」
「変えろよ」
「え」
「ボツにしたやつ。最初に声優見つからなくてボツにしたやつ。あっちのがまだ編集価値があるし。あれなら宮村も間に合うだろ。内容的にも絵はかなり少なくなる」
「ノア先輩……」
ノア先輩のその言葉にお礼を言おうとノア先輩を見るとふいっと顔を背けられた。
「言っとくけど! まだましなだけで全然つまんねぇんだからな」
「え、じゃあ」
「たぶん、俺のせいだからな。アニメ研究会には俺から話をつける」
「殴りません?」
「するかよ。話をつけるだけだ」
「ありがとうございます!」
ノア先輩の言葉に思わず話に入り込んで話せばノア先輩はちらりとこちらを見ただけで顔を背けたままどこかをみていた。耳の裏がほんのり赤くなっているのが見えた。
「うるせぇ」
「このツンデレ」
「町田、まじでうるせぇ」
ノア先輩とマッチーはそこまで言い合ってからお互い笑い出していた。いい方向に動いているように思えた。




