15(終)
ノア先輩がアニメ研究会と話をするように、わたしもサヨと話さなくてはいけないと思い連絡をいれる。
「サヨ? ちょっと話したいんだけど」
「何?」
サヨは荒々しく言う。
「聞きたいことがあるの。あのさ……」
アニメ研究会に話を持っていったのはサヨだった。親友でなくなったことがつらくて、というサヨに同意もなにもできないまま、そっか、とだけ伝えた。わたし達はもう前みたいになれない。
「波多野」
「宮村……」
「話ついた?」
こくりと頷いた。
「大丈夫か?」
「大丈夫」
本当は、仲直りできると思っていた。きっと友達なのだからとどこかで甘えていた。
「わりと、無理しているように見えたよ」
「え?」
「合わない人と仲良くしてるの」
「そう、かな」
「そのうちさ、なんでか仲良くなる人いるって」
大人になっていくってこういうことかもしれない。小さなことに立ち止まることもなくなっていくのかもしれない。
「そうなのかなぁ」
「そうだよ。少なくとも、波多野と町田は仲良しに見えるけどな」
「ハハッそうだといいなぁ」
わたし性格わるいのかも。
ぽつりと零すと良くはないなと返される。
「そんなことないって普通言うんじゃないの?」
「言うか」
「もぉ」
「でも少なくとも、俺は波多野に救われていたよ」
「え?」
救われていた、と宮村は言った。
「俺んち貧乏だろ」
「いや、それは」
「そうなんだって。別にそれをどうこう言うつもりはなくて。小さい時、絵を描く人になりたいっていって笑われて、その後波多野がさ、物語書く人になりたいってもっと笑われてって覚えてる?」
「わたしが笑われていたのは覚えてない」
そう言うとそういうやつだなと笑われる。
「そこで一度、救われた。二度目は、高校の時、絵を描くのいやで適当に描いた絵を波多野がすごいきれいだよねって話てるのを聞いた時。あの時もっと描きたくなった。で、三度目は今度、アニメ制作に誘ってくれたことかな」
「そんなつもりはないけど」
宮村は今までにみたことないような柔らかい目をむけた。
「そんなつもりなくてもそのタイミングで波多野の行動があったんだよ。絵を辞めたのは金がかかるから。下に兄弟いて一番上なのに金のかかることできなかったから、だから美大もやめた」
「そう、なんだ」
「大した理由じゃねぇよ。たぶんごろごろある理由だろ。環境がなくなった、お金がない、一緒にするひとがいない、時間がない。大切にしていたものをやめる理由なんていつも後付で気がついたらなくしていくんだよ」
でも、と宮村は続けた。
「美大に行くことだけが絵を続ける方法じゃなかった。俺が好きでいれば趣味でも何でも続けられた」
「よかった」
へらっと笑うと俺はさ、と宮村は言う。
「前、天野さんが言ったろ、こっち側とあっち側って」
「飲み会?」
そう、と頷いたのを見て心にどんよりとした気持ちが漂う。
「あるとしたらさ、それを行動するこっち側と、行動しないあっち側じゃねぇかなって思って。だから波多野の物語書きの才能がどうなのか知らねぇけど。波多野が好きなら、好きで続けていくのならお前はこっち側だと思ってる」
宮村はそういうと、ありがとというわたしの言葉を遮るように慰めたからプリン奢れと笑った。
結局のところ、文芸部は廃部が決まってしまった。あのアニメは学祭の初日だけ、軽音部の前のタイミングで流されてあとは流されなかった。当たり前といえば当たり前のような気がするが少し残念な気持ちもある。
アニメ研究会の作品はやっぱりわたし達の作品で、でも流石に研究会を名乗っているだけあって綺麗なものになっていた。学祭後に謝罪をされて和解をしているのにノア先輩は未だに納得がいっていないみたいだった。わたしもサヨとは挨拶程度の仲になっているから当たり前なのかもしれない。
わたしたちは今日も大学に通っては変わらない日常の中にいる。西野先輩とサヨは相変わらず付き合っているらしいし、文芸部員の殆どは幽霊部員のままだ。愛好会という名前で残ることになったが、だからといってなにかをするわけではない。あんなに嫌がっていたのに、そうなってしまったことを受け入れてしまっている。
かわったことといえば、ノア先輩が本格的に映像の世界に入ったこととか。マッチーが音楽活動を再開したこととか。宮村は大きな絵を描くようになった。
わたしはなにもかわっていない。
けど、それが日々を過ごすことだということだ。特別なことはきっとあとになってから特別だと気付くのだ。
なくなってしまった文芸部を綺麗にして埃のない空間にする。
「よ」
「あれ? 宮村?」
「あとからみんなも来るって」
「え? なんで?」
「残念会、それと、打ち上げ?」
できてなかったろと、言うとギシリと音のなるパイプ椅子に座る。いつだったか、宮村に最初にお願いしたときもこのパイプ椅子だった。
「言ったじゃん、前に。古いんだから丁寧に使ってって」
「はいはい、でもここ暫くなにも使われねぇだろ?」
「なんかの愛好会が来月から入るらしいよ」
そういうと、ふぅん、と興味なさそうに宮村は言う。なんとなく沈黙が痛く感じてぺらぺらと言葉が出てきた。
「西野先輩が教えてくれたんだよね。あの人根がお人好しだから、結局いろいろほっとけなかったのかな。最後までなんか気にしてて。あ、だから今日も西野先輩くるよ。あと、今日はね」
「波多野」
みんなが来れるようにとボロボロの椅子を並べていると宮村が静かに名前を読んだ。
「なに?」
「お前はがんばったよ。おつかれ」
その言葉に少しだけ泣きそうになりながらもありがとうと笑った。
エンド
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この作品は「World On Fes」という企画で書かせて頂いた作品です。
✳︎ World On Fes とは
参加表明とともにあらすじを送り、あらすじがシャッフルされて自分に決まったあらすじのお話を書く企画です。
企画者・原案者・表紙制作者 月瀬奏夜 様 です。
楽しい企画に参加させていただきありがとうございました。
また、当初1ページにて出していましたが、文が詰まっているとのご意見をいただき、修正をしたところです。貴重な意見ありがとうございました。




