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雨を降らしそうにもない雲が太陽を隠し,また流され再び太陽が顔を出す、空がそんなことを繰り返し行っているある朝、3人は野太い声に起こされる。

「ぬああああああああ!」

声の主はケン。白い粉の入った袋を持ちながらうめいている。

「どうした、ケン。寝過ごしたか?」とタカが起き上がりながら尋ねる。

「とっくの昔に起きている!」とケンは返す。

目をこすりながら体を起こしたシュンが「じゃあラリってんだな。」とつぶやき、いつの間にか起きていたジョージがそれに呼応するように「朝からしょうがない奴だな。」と冗談交じりに言う。

ケンは「甘いものが!食べたいんだ!」と叫ぶ。

ケンの持っている袋の中身の正体は砂糖である。昨晩、仕事の報酬にもらってきたものだ。彼らは食料になるカードを持っている。それなのにケンが働くのはこの4人のうちだれも甘いものを出すカードを所持していないからだ。

「それなめればいいじゃねぇか。」とタカが言う。

「何かにつけるとより美味いし、砂糖の量も少なくて済む。」とケンが返す。

それを聞いたシュンはジョージに「お前の“カロリーバード”の出す奴あげろよ。」という。カロリーバードが出すものはカロリーバーである。

「あれはしょっぱくて合わないからダメなんだって。」とジョージは返す。

「この前俺の“改造ネズミ捕り”についてるチーズにも合わないって言ってたな。わがままな奴だな。」とシュンが言う。これで2人の持つ食料になりうるカードが否定されたので最後にタカが「じゃあ俺の“アルケミスト”でできる酒にでも入れてみるか?それか“サイバイマシン”のタバコに混ぜて吸ってみるか?」と自身のカードを提案するが、ケンは甘いものを飲みたいのでも吸いたいのでもなく食べたいのだと却下する。ちなみにアルケミストはあらゆる液体を酒に変える機械であり、とても飲めない水でも飲料に帰ることができるという意味でも重宝する。サイバイマシンはタバコと謎の葉っぱしか種か根っこがなければ栽培できない。現在ほかにジャガイモは栽培できるがそれもおそらく合わないとして却下される。

「ぬううう。“もちもち姉さん”の居場所が分かれば、、」

ケンはそう唸る。それに反応したのはシュン。

「ああ、そういえばこのまえ“もちもち姉さん”っぽい人、北のほうで見たぜ。1年ぐらい見てないし空から見たから見間違いかもしれねぇけど。」

それを聞いたケンは勢いよく立ち上がりタカに向かって叫ぶように言う。

「出かける用意をしろタカ!“アルケミスト”用に適当な水も用意しろ!」

タカはしょうがないなぁ、といった態度で言われた通り用意する。彼はジョージとシュンに「お前らも久しぶりに“もちもち姉さん”に会いに行くか?」と問うが2人は「本物だったら教えてくれ。」と拒否する。

タカとケンは舗装されているとも、されていないとも言えない道を北に向かって歩く。すると乱雑な住居の中でひときわ目立っているまともなログハウスに到着する。2人は中へ入るとすぐに家の主に声をかける。

「よーお、調子はどうだい?もちもち作る機械を質にとってないかい?というかぶっちゃけ“もちもち姉さん”どこにいるか知らないかい?」

声をかけたのはタカ。ログハウスは彼らの顔なじみの質屋であり、カードを担保にほかのカードを貸したり、食料をあたえる事業をしている。

「なんだ、君らか。冷やかしなら帰りな。」と質屋の店主は返す。

「手土産はこれで十分か?」とタカがアルケミストで作った酒を差し出すと「彼女の隠れ家は僕が手配したからね。誰にも言わないでくれよ。」と店主が返し、彼らに詳しい場所を伝える。これは店主が酒の誘惑に弱いからだけではない。彼らにある程度信頼があるからである。

店主に教えられた場所に行くと2人は、屋根すら朽ちたおそらく誰も住んでいないであろう住居らしきものがひしめき合っているエリアの中で、唯一屋根がある建物を発見する。よく見ればほかの住居は土台に布を覆っているだけなのに対し、その建物には崩れているとはいえ布の向こうに壁もある。その場所こそが店主の手配した彼女の隠れ家だという。そこへ向かう途中ケンが口を開く。

「もちもち姉さん、もう逃げているかもしれないな。」

悪意を持った何者かの視線を感じ取ったゆえのケンの発言である。対しタカは「まあ、この雰囲気に気付かないほどノロマなやつじゃねぇしな。」と答える。しかし彼らにはほかに手掛かりがないので家の前に立ち声をかける。

「俺だ、タカだ。ケンもいる。酒をやるからもちもちをくれ。」

直ぐに二人は建物の崩れた壁と木を乗せただけの天井の隙間から殺意のこもった視線を感じる。まもなく内側から扉が開けられ鋭い目と短い髪の毛を持つ女が「静かにして」と口に人差し指を当てながら2人を内部に急いで引っ張り込む。

「姉さん、今更静かにしても遅いぞ。日和ったか?」

とケンが久々の再会を祝い挨拶を送る。女は相変わらずね、と言わんばかりに軽く笑みをこぼし建物の一角に向かい指をさす。その先にはすやすや寝ている赤ん坊がいる。

「おいおい、誰の子だ?」とタカが尋ねる。

「私の子に決まってるでしょ。」ともちもち姉さんが返すとタカがまじめな顔で聞き返す。

「あたりまえだろ。それで、誰の子だ?」

言い終わったタカが少し笑うとほかの2人もつられるように笑う。「知らないに決まってるでしょ。」ともちもち姉さんが返すとケンが話題を切り替える。

「それで外の奴らは出産祝いに来た友達か?」

「ええ、招待はしてないのだけれど流石に目立っちゃってね。正直赤ん坊をあやしながらお客さんをもてなすのは不安だったのよ。来てくれて助かったわ。」ともちもち姉さんが答える。それに対しタカは「すぐに終わらせてやるよ。姉さんは子守唄でも歌っておきな。」と彼女を赤ん坊のそばに残しケンとともに外に出ようとする。そんな彼にケンが「お前のカードは大概やかましい。子守唄でも聴いておとなしくしてろ。」とタカに残るように促し一人で外へ出ていく。ケンは少し歩き隠れ家から離れるととくに何をするわけでもなく仁王立ちする。「俺は一人だぞ。かかってこい。」と、言外に意味する行動である。しばらくすると彼の目論見通り住居の残骸に隠れていた者たちがぞろぞろと3人現れ、彼を囲みそれぞれカードを発動しそれぞれの前に機械が現れる。

「静かに追い払ってくれ、“アンダーグラウンド セキュリティ”。」ケンは顔色一つ変えずそう呟くと彼のカードが具現化する。彼の前に現れるのは真っ黒いボディに赤く光る眼を持つ、腰に青龍刀と警棒を携えた機械。ぎこちなく動く3人組の機械に対し洗練された動作をする彼のカードは腰の青龍刀であっという間に機械達を切り伏せ、警棒で3人組を気絶させる。ケンはその様子を「当然だな。」といった様子で眺めていた。アンダーグラウンド セキュリティは彼の切り札でありゴロツキに後れを取るはずがない。3人目を気絶させたところでケンはもう終わりか、と考えたが彼の機械はそうではない。何の指示もなしにタカともちもち姉さん、赤ん坊がいる家に向かってアンダーグラウンド セキュリティは走っていく。その瞬間、何が起こっているのか理解できなかったケンも家の扉がひとりでに開いたところで大体察する。それと同時に彼の機械が極右に向かって警棒を振り下ろし、鈍い音とうめき声がすると、そこから細いフレームの機械を背負った痩せた男が現れる。

「悪いな。まさか透明人間がいるとは。」

急いで家の前まで戻ったケンは外からタカともちもち姉さんに謝罪する。

「どうせ俺たちがいるんだ。慌てんなよ。」とタカが返す。ケンが透明になって侵入しようとしていた最後の襲撃犯をどこに捨てておくか考えていると、警棒で殴られうずくまっていた彼が声を出す。

「お前、本物の“ケン”に“タカ”か。“もちもち姉さん”に加えて大物だらけじゃねぇか。ああ、どうしようもないな。」彼はさらに続ける「だがやってやるぜ。俺も15枚持ってる。アーティファクト、しようぜ。」

それを聞いたタカはじゃあ俺がやる、と身を乗り出すがケンがこれは俺の仕事だ、と彼を止める。そうして透明になれる襲撃犯とケンのゲームが始まる。

「ケケッ。俺はこいつだ。」

襲撃犯が先にカードを決め、彼の前に光の玉がスタンバイする。そんな彼にケンが語り掛ける。

「そのカード、3だろう?」

それを聞いた襲撃犯はギクッとする。反応を見たケンはカードをスタンバイし、2人の光の玉が形を成す。

「“量産型スジモノ 3号”は3、6、9の数字にのみ勝てる。」

そう言うケンの前に現れたのはタンクトップを着て両腕にびっしり刺青の入った人間。対して襲撃犯のカードはケンの言った通り、3の機械。スジモノ3号はその機械を殴って破壊する。「どうせ、ある程度3のカードが集まったから調子に乗って姉さんを襲撃しに来たんだろうからな。」とその様子を見ていたタカがつぶやく。

「クソッ、今度はそっちが先にカードを出しやがれ!」としてやられた襲撃犯がケンに怒鳴る。ケンは顔色一つ変えずカードをスタンバイする。襲撃犯はあてずっぽうに「3か?」「4か?」と数字を変えて問い続けるがケンはなんでもないように「さあな。」とだけ返す。結局何も情報を得ることができなかった襲撃犯はいらいらしながらカードを選ぶ。

「なんであろうと関係ねえ!やっちまえ、“違反ドローン”!」

彼が叫ぶと光の玉は短い銃身を搭載したドローンが飛び上がる。数字は4。

「なんであろうと関係ないのはこっちのほうだがな。こい、“アンダーグラウンド セキュリティ”」

ケンはそう返す。現れるのはケンの切り札。数字は6。襲撃犯のドローンは赤く光る眼を持つ黒い機械に向かい搭載されている銃を乱射する。アンダーグラウンド セキュリティはその弾丸の雨をものともせず人差し指でドローンを捕捉し、その指先から放たれた一発の弾丸でそれを撃墜する。

「どうやらあの飛ぶやつでカードを奪い集めたようね。4だし飛んでいるし、攻撃方法も遠隔。強力なカードだわ。」ともちもち姉さんが予想を口にする。自信のあったカードが破られた襲撃犯は苦い顔をする。そんな彼に追い打ちをかけるようにケンは彼に伝える。

「アンダーグラウンド セキュリティは勝利した場合、俺の体に戻り次のターン再び引ける。倒せるカードをとっておくことだな。」

2戦目の勝敗がつきお互いカードを手札が3枚になるように補充すると、ケンの言う通りフィールドに残っていたアンダーグラウンド セキュリティは光の玉となり彼の手のひらに吸い込まれていく。「もっとも、次勝たないとそれも意味がないわけだが。」と彼は付け加える。襲撃犯はここから勝利するのは絶望的な状況に置かれているが、彼の眼はまだあきらめていない。彼はカードをスタンバイするとその光の玉を信頼しているような、すがっているような瞳で見つめる。その様子を確認したケンもカードを選ぶと2人のカードが実体化していく。

「頼むぞ!“九星財閥の暗殺者”!」

叫んだのは襲撃者。しかし何も現れない。彼の叫びにケンがいつの通りの調子で答える。

「だろうと思ったよ。一思いにやってやれ、“裏切者の追跡機”」

ケンの前にはひし形の立体が現れる。ひし形は襲撃者の方向、何も現れなかった方向に向かい加速し、見えない何かを追いかけながら進む。そしてついに鈍い音がしたと思えば何もないところから機械の残骸が現れる。九星財閥の暗殺者は見えない機械。しかしその知覚を視覚のみに依存しない、機械相手には意味がない。

「次からは表情を隠したほうがいいぞ。さっき選んだカードがお前の最も信頼するカードだったんだろう。」

ケンは実際に襲撃犯が使用していて、かつ人間相手には効果が大きい透明になる機械が彼の最も大事なカードであること、そして数字自体はそこまで高くないことを予想していた。だからこそ特殊能力を無効かできる機械であり、数字が4と低くないカードを選び決着をつけに行ったのだ。

「くそっ、、畜生、、なんだよ、なんでだよ。頼むよ。“九星財閥の暗殺者”だけでいいから、残してくれよ。頼むよ。」

すっかり威勢がなくなった襲撃者は糸が切れたように膝をつき、絶望した表情でケンに頼む。さらに呟くように「死神に、殺される前に、腹いっぱいになってみたかった。もちもちを、食ってみたかった。あいつらにも、食わせてやりたかった、、」と続ける。あらかじめ決めていなければ、ゲームの敗者は勝者が望むものを差し出さなければならない。ケンが「持っているカードをすべてよこせ」と言えばあっという間に彼は何も持たざる者になる。「死ね」と言われれば何も言わざる者になる。襲撃者も奪ってきた人間。それを十分承知しているからこそその絶望は深い。しかしケンの望むものはゲームが始まった時点で決まっていた。ここで何を言われようが変わらない。

「そこで寝ているやつを連れて、さっさと家に帰れ。」

この発言こそケンの望み。襲撃者は一瞬、空耳かと思うが彼の意とは関係なく倒れている3人のほうへ向かって体が動き出す。遅れて、彼は何が起こっているか理解すると安堵の涙を流しながら「ありがとうございます。ありがとうございます。」と呟きながら倒れた3人の服の襟をつかんで引きずり隠れ家から離れていく。

「あいかわらず、甘いのね。」と襲撃者の背中が小さくなったところでもちもち姉さんが言う。

「ご存知のとおり、甘いのは好きなんだ。」とケンが返す。その発言に3人が少し笑うともちもち姉さんが発言する。

「死神が来てからああいう、どこか怯えている目をした子ばかりになったわ。昔はみんなもっとよりよい明日を求めている、ギラギラした目をした子ばかりだったのに。」。そう2度と戻れない日々を懐かしむようにこぼす。

それに対しタカが「姉さんもわかってるだろ。本当に悪いのはあいつらじゃない。食い物も、命も奪っていく壁の中の連中だ。」と返答する。

タカのその発言に彼女は一瞬後ろめたい表情を見せると、直ぐに覚悟を決めた表情をして、「悪いけど、私は豚に成り下がるわ。」と切り出す。さらに「もう“壁の試験”には通っているの。丁度荷物をまとめて出発するところだったのよ。」と付け加えると3人の間に気まずい沈黙が訪れる。

「姉さんのことは、壁の中に行っても豚とは呼ばねぇよ。ガキのためなんだろう?」

沈黙を破ったのはタカ。それに対し彼女は無言でゆっくりうなずいてから嘆くように口を開く。

「私は、ここでは有名すぎるのよ。いつだって狙われる。この子を産めたのだって奇跡に近いわ。育てるなんて、無理よ。」さらに「私だって、何でも奪っていく壁の中の連中は嫌いよ。ここの連中は、さっき襲ってきたやつにだってかわいげがあるわ。ここは好きよ。大好きよ。当然じゃない。何年私がこの、クソみたいな場所を上手く、楽しくわたってきたと思っているの。」と続ける。

それに対し「言わなくてもわかっている。」とケンが答える。「姉さんでも、自分の子供が弱点になるんだな。」と茶化すように続ける。

「その辺に転がっている子供だって、余裕があれば育ててあげたいわよ。意外かしら?」と少し笑みを浮かべて彼女はそれに答える。そして少し寂しそうな顔をして「名残惜しいけど、そろそろ行かなきゃ。」と続ける。

「選別だ。」とタカがきれいではないビンを差し出す。中身が何かを問う必要は2人の間にはない。“アルケミスト”が作れる酒のうち彼女の最もお気に入りのものだ。彼女も選別だ、と言わんばかりに一枚のカードを発動し、女性型の機械を呼び出すと部屋の一角にためてあった雑草をそれに渡す。機械が腹部にある特殊な機構のふたを開け、雑草を入れ数秒すると再びふたを開ける。その中には雑草はなく、代わりに白い大きなもちもちが入っている。

「2人はこの世で最もセクシーな私のカード、“フラワーコンバータ”、もこれで見納めね。同情するわ。」

彼女はそういいながら出てきた白いもちもちを取り出す。白いもちもちの正体は小麦粉を練ったもの。これに砂糖を混ぜ込んで焼いたものがケンの好物である。フラワーコンバータはありとあらゆる植物を練った小麦粉に変化させる機械だ。もちもちをケンに渡すと、彼女は赤ん坊を抱き、少ない荷物を抱える。

「最後に一つ、聞かせてくれ。」とタカが問う。「名前はなんだ?」

「この子はジンよ。仁義のジン、私の好きな飲み物のジンよ。」と彼女は答える。

「それは知っているんだ。」とタカは言う。それを聞いた彼女は少し考えると、何かに思い当たったのか大笑いしながら答える。

「私はナオミよ。よろしくね。それじゃあ二人とも、お元気で。」


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