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「君、その恰好、ドクタートランスファーを持っているっていう壁外生物だね。どういうことか説明してもらおうか、清水治安維持部長。なぜあれがここにいる。捕縛作戦を行うと聞いていたんだが、まさか失敗したのかい?」と本郷は不機嫌そうに問う。
「とらえたさ。だが今池一等徴収官を殺害した犯人はわかった。ならば“オフィサーの執務に関する法”の特例で拘束しておく理由もない。“壁外生物に関する法”によると、壁内に侵入した壁外生物はいかなる方法を用いても速やかに殺処分あるいは追放しなければならない。あいにく私は忙しかった。が、そこにいるそれは自分の足で壁外に戻るというので速やかに追放するため解放してやったが、下等な壁外生物に言葉は通用しなかったらしい。」と、部長はしてやった、という表情で本郷に語る。
本郷這う不機嫌な表情と声で「まさか、君にそんなこともできる柔軟さがあったとはね。驚きだよ。だが、いいさ。ドクター トランスファーも必要だからね。君も、そこの壁外生物も、ひねりつぶしてやる!」と言う。
「落ち着けよ兄さん。お前はさっさと負けて、俺に奪ったカード全て寄こせばいいのさ。ああ、お前だけは、しっかりぶちのめしてやるよ。」とタカが本郷を小ばかにするような調子で言うと本郷は「壁外生物が、調子に乗るなよ。命とカード全て、奪ってあげるよ。」と返しゲームが始まる。
本郷は最初に補充された3枚のカードから1枚選び補充するとタカに向かい「ああ、今思い出したよ。」と話を切り出す。
「君のお友達は間抜けで、甘かったね。仲間が殺されたっていうのにゲームで望むものはカードだけ。甘い、甘すぎたよ。甘すぎたからみじめに死んでいったんだ。」
それは明らかに挑発だがタカを煽ることはできない。それを聞いたタカは改めて3人を誇りに思うだけである。挑発が聞いていないと察した本郷も攻め方を変える。
「ああ、君には感謝しているよ。君が今池を襲撃してくれたおかげで、僕は彼を簡単に殺すことができた。しかも誰も僕を疑わない。笑えるだろう?まったく、あのタイミングで今池に会いに行って大正解だったよ。みんな当然のように襲撃犯を疑ってくれちゃってさ。楽だったよ。」
その挑発にも全く動じていないタカは「それはよかったな。お礼にカード全部寄こしてくれよ。」とカードをスタンバイする。
「この愚かで不遜なものを教育してやれ!“ブライトフューチャー フォー ティーン”!」と叫ぶ本郷の前に現れるのは大量の電極のあるヘルメットといかついゴーグル。洗脳する機械である。数字は5。
「もっとも甘くて、優しい男の魂さ。久しぶりに姿を見せてくれ!」タカが叫ぶ。彼の前に現れるのは赤く光る眼を持ち、青龍刀と警棒を装備した黒い機械。アンダーグラウンド セキュリティである。驚く本郷をしり目にそれはヘルメットとゴーグルを切り捨てる。
「そういえば、言っていなかったな。それはそのカードを渡せば速やかに壁外に帰ると言っていたんだ。だから渡した。」と本郷に部長が説明する。「まさか!そんなこと、君の信じる法律違反、」と本郷は言いかけるが、「それを禁ずる法はない。確かに“オフィサーの執務に関する法”には勤務中、一般人に施しを与えてはならない、とあるが、“基本憲法”によると壁外生物に人権は与えられていない。あくまで厄介でこざかしい壁外生物を速やかに追放するための決定だ。」と 部長は彼の言葉を切る。本郷は少し悔しそうな顔をするがすぐに「まあ、いいや。」とこぼす。
「そうだ!君に教えてあげよう。」と本郷が話し始める。「今君が倒した、様子見のブライトフューチャー、最初に戦った空飛ぶ小さい奴はこいつにやられたんだよ。こいつは相手の生物を倒すとそれを2倍の数字にして僕の手札に加えれる能力があってね。最終的に自分のカードで死んだんだ。間抜けだろう?笑えるだろう?まあ僕の実力もわからず突っ込んできたあたり、体だけじゃなくて脳みそも小さかったんだろうね。負けた後も何もできないくせにまだ僕を倒せると思ってたのか、すごい目で僕をにらみながら死んでいったよ。」と本郷はタカを挑発する。さらに「次に倒したのは大きい奴さ。君が今出したカードを持っていた奴だ。低能な徴収官どもを相手していたところに僕が乱入していったんだ。だが体が大きいだけで彼も脳みそは小さかったようだね。しかも、そのカードを引けずに負けてる。せっかく強力なカードなのに、運にも見放されているとなると、救えないね。しかも負けたくせに表情一つ変えなかったんだ。自分が死ぬことが理解できないほどの低能だったんだろうね。」と続ける。
流石のタカも自分の好きだった、尊敬している仲間たちを馬鹿にされ胸中は穏やかではない。しかしそれでゲーム中に感情に任せてカードを選ぶことはしない。「まあ、あいつらは確かに低能で阿呆だ。そこは否定しないぜ。」と返し自分の手札にあるカードを見る。彼の手札にあるのは規格外高性能機械兵、K‐メイカー、そしてスーパーコピーである。次に補充するカードはアンダーグラウンド セキュリティ。次の対戦を自分がとれば相手としては追い詰められるのでできるなら本郷は勝ちたいと考え、強いカードで来るか、余裕のあるタカが弱いカードで様子を見てくると読みそれなりのカードで来るか、あるいは追い詰められるのを覚悟で次の対戦を捨て、タカに消耗させるか、本郷がどの選択肢をとるのかタカは考える。まず彼はシュン、ケン、ジョージ、そして長官という強者を本郷が破ってきている事実から彼のデッキには相当数強いカードが入っていると読み弱いカードで来る選択肢を消去する。次に彼が次回補充するカードはアンダーグラウンド セキュリティ。本郷としてはそれに勝てるカードは温存しておくのが安全。ただしそれに勝てるカードが複数枚ある場合や、そう見せかけるためにあえてアンダーグラウンド セキュリティに勝てるカードを切ってくる可能性も捨てることはできない。彼の取った選択肢は、高めの様子見。5になるスーパーコピーを出す。もしアンダーグラウンド セキュリティを処理できるカードが本郷の手札に1枚しかなく、温存と言う選択肢をとった場合には最悪引き分けにできる。すでにカードをスタンバイさせていた本郷に対しタカは叫ぶ。
「甘い奴は好きでね。お代わりだ。“スーパーコピー”!」。彼の前には赤い目の機械が現れる。
「君自身もだいぶ甘いね!執行しろ!“罪悪感なき処刑人”!」と叫ぶ本郷の前に現れるのは黒を基調とし、機械仕掛けの施された大きな斧を持つ機械。数字は6である。スーパーコピーはそれに立ち向かい、善戦するもののその斧で真っ二つにされてしまう。
「本当に、甘いのが大好きみたいだね。心配しなくても甘い、愚かなお友達が君を待っているよ。さっさとあきらめたほうが早く会えるんじゃない?」と本郷が言いながらカードをスタンバイする。「死んだら再会できるなら、ぜひそうしてもいいけどな。」とタカは答えながらアンダーグラウンド セキュリティを補充し再び考える。本郷は6を切った。はったりでなければ6の機械を倒せる、あるいは引き分けに持ち込めるカードが手札にあることになる。お互い一敗の状況、次勝利したほうが心理的には有利になり取れる戦術も増える。アンダーグラウンド セキュリティで勝利すれば再び次の次の対戦で使用でき本郷にプレッシャーを与えることになるので本郷としてはここで処理しておきたい。しかし清水治安維持部長がそうしたようにあえて来るであろう強力なカードをすかすこともできるし、それを読んで強すぎないカードで勝ちに来る可能性もある。タカの手札には幸いある程度強力なカードが多い。彼はアンダーグラウンド セキュリティを本郷が何らかの特殊能力で処理するつもりの可能性も考え、カードを選ぶ。
「さあ、ぶちのめしてやる。規格外高機能機械兵!」。タカの前に現れるのは彼の切り札。
「7!いいカードじゃないか。だけど伝統おじさんのカードも、なかなかでね。」と本郷の前に旧世紀からの生存者が現れる。数字は8。2体の戦闘用機械による銃撃戦が始まるが、しばらくすると生存者の弾丸が機械兵の頭部を打ち抜き決着がつく。これでタカは2敗、追い詰められる。
「今思えば、あのおじさんも間抜けだったよね。おとなしく僕にひれ伏しておけばよかったものの。余計な真似するから寿命が縮まったんだよ。笑えるね。さあ、このゲームも終わらせようか。」と言いながら本郷がカードをスタンバイする。
タカは補充したカードと本郷の様子を見て口角を上げると、そのカードをスタンバイする。
「おいおい、今回はずいぶん決めるのが早いじゃないか。あきらめたのか?そうなら死ぬ前に少しは愚かさから解放されてよかったじゃないか。」と本郷は言う。さらに「さあ、来い。奴を死と言う永遠の牢獄にぶち込んでやるんだ。“無人監獄の見回り看守”!」と叫ぶ。本郷の前の空間が歪む。そこからトップオフィサーの部屋で暴れていたものと同じ、巨大なまがまがしい機械が現れる。数字は最高値である9。
「これでも君の実力は評価しているつもりでね。こいつは僕の切り札。雑魚には見向きもせず凶悪犯を逃さずとらえる最高のおもちゃさ。君と言う前代未聞の犯罪者にふさわしい。これで終わりだ。」と本郷が機嫌よさそうに宣言する。それを聞いたタカは笑いをこらえきれない。
「何がおかしい?気でも狂ったか?」と本郷が若干機嫌を悪くして問う。
「そいつは俺にふさわしくないな。俺はただ、仲間のカードを取り返しに来ただけだぜ。誰も殺しちゃいない。知ってるだろ?だから、お前らは見逃す。」とタカは笑いながら言う。
「やはりお前は愚かだな。何が言いたいのか理解ができない。早くお前のカードを具現化させて死ね!」と本郷はさらに機嫌を悪くしタカに怒鳴る。そんな本郷を気にせずタカは語り始める。
「あいつに、話を聞いた時から俺は思っていたぜ。お前にはこいつが刺さる。」とタカが言うと同時に巨大な機械は突如わずかに体制を崩す。さらに、徐々にダメージを受けていく。
「な、何が起こっている!」と本郷はうろたえる。
「愚かなのはお前のほうだったようだな。そいつは目には見えない大物の器を見逃す、愚か者に刃を突き立てる者さ。やっちまえ、九星財閥の暗殺者。」とタカが言うと同時に無人監獄の見回り看守は破壊される。見回り看守は数字が9の機械だが、2以下の数字を持つカードには敗北するデメリット能力がある。
「ク、ソ、がぁぁああ!」と本郷は叫び激昂する。「だが!お前が!死ぬのは!変わらない!!」と続けカードをスタンバイする。
タカは本郷がスタンバイした光の玉を見て、どこか懐かしい気持ちになる。彼はまるでその光の玉は、こんな奴に所有されるのは癪だけど、タカに負けるのもいやだなぁ、と言っているようにすら見える。タカは本郷がスタンバイしたカードがジョージの切り札、プログラム フェイカーであることを確信する。プログラム フェイカーを倒すには2以下のカードが必要。彼の手札には確かにそれに勝てるカードはない、にもかかわらずタカは穏やかな気持ちで補充したカードをスタンバイする。
「間抜けが!お友達の!カードに殺されるんだな!殺してやれ!プログラム フェイカー!」と本郷が叫ぶ。現れるのはどこかジョージに似ている彼の切り札だったカード。
「死ぬ前に!教えてやる!ああ、こいつも間抜けだったよ!2人殺して!手の空いた徴収官全員けしかけて!ゲームもさせず殺してやろうと思ったが!あしらいやがる!普通に殺されておけば今ここで!お友達にとどめを刺すカードも僕の手になかっただろうに!」
本郷がそう叫んでもタカはまるでそれが聞こえていないかのように表情も、気持ちも穏やかになっていく。
「なんだその表情は!気に食わない!これだから愚か者は、気に食わない!あきらめたのなら、絶望しろよ!」とその様子を見た本郷は叫ぶ。
「ジョージ、待たせたな。お前はひょろいが、一番強い奴だったよ。自分が死にかけていても弱い奴からは奪えない、強い奴だったよ。さあ、これで4人一緒だ。」とタカはつぶやくそれを聞いていた本郷も「ああ、あの世で仲良しこよししてろよ!」と叫ぶ。
「いいや、一緒になるのは魂だ。」とそれに返すタカの前に選んだカードが具現化される。現れるのはスロットマシン、ノーセブンである。
「運!任せか!残念だったな!最近の僕は、ついてる!」と本郷が叫ぶ。ノーセブンが「リーチ」とかわいらしい声で伝えると画面には両端が止まり2、3、4のリーチがかかる。真ん中の列の回転がゆっくりになり2が揃うように止まる。
「勝った!ノーセブンは滑る!どっちに転がっても僕の勝ちだ!」と本郷が勝利を確信したように叫ぶ。彼の言う通り真ん中の列はまだふるえるように上下に動いている。3が揃うようにも、4が揃うようにも滑りそうである。
「どうだかな。」とタカはそれでも余裕を崩さない。
すぐに真ん中の列は4が揃う方向に大きく振れる。しかし跳ね返るように今度は3に触れる。本郷は勝利を確信するが、それを裏切るように再び跳ね返り、元の位置に戻る。
「は、は?嘘だろ。滑るに決まってる。滑るに決まってる。滑れ!滑れ!」と本郷が叫び続けるがスロットマシンは光り銃口を2つ出現させる。対してプログラム フェイカーはラップトップパソコンをいじる。彼がエンターキーを押すと追加の銃口が4つ現れ計6つのそれからプログラム フェイカーに向かって弾丸が放たれる。プログラム フェイカーは破壊され、ゲームが終了すると本郷の体から大量の光の玉が飛び出しタカの体に移動する。
「ざまあねえな。意外と楽しくなかったぜ。お前だけには、負ける気がしなかったからな。」とタカは呆然とする本郷に向かい言い捨てる。そこに清水治安維持部長が駆け寄ってくると「本郷、わかっていると思うが、逮捕だ。正式にな。」と彼に手錠をかける。
「ああ、部長。頼みがあるんだが。」とタカは部長に話しかける。「長官のカード、安らかに眠れるやつのところへ、返してやってくれ。」と続ける。
「通常、オフィサーとして一般人からの頼みを聞くことは許されていない。」清水治安維持部長は返す。「が、壁外生物は人間ではない。いいだろう。」と続ける。
タカは「不器用だな。」と笑いながらカードを清水部長に渡す。
「一つ聞くが、」今度は部長がタカに話しかける。「カードを奪う、奪われるなんて壁外なら日常茶飯事だろう。実際、お前も奪ってそこまでカードを集めたんだろう。ドクター トランスファーだってそうだ。なぜこんなことをする。」と続ける。
「お前の言う通り、俺は殺しはしないが魂のカードだってなんだって奪ってきた。そうしなきゃ強くなれねぇ。強くなければ生き延びられねぇ。俺も間接的には、何人か殺してるかもな。」とタカは始める。「お前らは強い、俺らは弱い。だから奪われてきたんだ。平等じゃねぇか。今ならわかる。まあ、分け合って暮らせたらもう少しましな世界になると思うがな。」彼はさらに続ける。「長官はいいプレイヤーだった。いい魂を持っていた。そいつを尊敬したいだけさ。まあ、生きてたら返さなかったけどな。」と彼は終える。
「今池一等徴収官はどうだ?ドクター トランスファーも返さないか?」と清水部長は提案する。
「もうそいつはあるべきところに返したさ。」とタカは返す。「イマイケの娘さ。良い目をしてたぜ。死んだのは惜しいな。」と続ける。死んだ人間の中にあるカードは取り出せない。壁外の人間が恐怖した、壁内の人間が感謝したドクター トランスファーはもう二度とこの世界に現れることがない。
「そうか。まあ、それを咎める法はない。」と部長は残念そうに、しかしどこかタカを認めるように言う。「もう、用は済んだだろう。速やかに壁外に出ていけ。」と彼は続ける。
「ああ、言われなくても。こんな豚が多い場所、さっさと出ていきたいね。」とタカは答える。「まあ、外にも遊びに来いよ。クソみたいで、いい場所だぜ。酒だって出してやる。」と続ける。
「残念だが、勤務以外で壁外に出ることはできない。勤務中に飲酒は許されていない。」と清水部長は答える。タカは呆れたように少し笑う。しかし部長は「だから、土産に包むようにしてくれ。」と続ける。タカがその答えに思わず吹き出すと部長も少し笑う。「じゃあな。」とタカが言うと、建物の外へ歩を向ける。「二度と来るなよ。」と清水部長が返す。タカの行く末を確認する者はいない。




