9.
サカエとアサヒは出張の仕事として、数日間A県T市で働いていた。
女「助かりました。ありがとうございます。」
アサヒ「いいってことよ。」
依頼をこなし終えたアサヒとサカエは車へと乗り込んだ。
サカエ「しかし、アサヒくんって免許持ってたんですね。」
アサヒ「サカエも取ろうと思えば取れんだろ。オレは家族ぐるみでサバよんで無理やり取るしかなかったけど、サカエは十七だから、免許取れるはずだぜ。」
サカエ「ちょっと待って。その免許、無効じゃない? いやっ、ちょっと!?」
アサヒ「細けぇことは気にすんな。」
サカエ「これが細かいこと? いや、違うよ。大事だよ!」
人の気配の少ない山道。
アサヒは片手でハンドルを握りながら、アクセルを強く踏んだ。
サカエ「やっぱり車やめましょう。」
アサヒ「事故るわけねぇし、心配すんなって。」
突然鳴り響く自動ブレーキの音。
ドッガァァガシャァァァン!
吹き飛ばされる女性。急ブレーキで停まらせる車。
アサヒ「やっちまった。」
サカエ「なんやってんです? ばか!」
急いで外に出て、飛ばされた人の近くへといく。
轢かれた女性「痛ったぁ。ほんとに最悪。五年分消化しちゃったんだけど。」
なぜか無傷のその女性がいち早く駆けつけたサカエを睨んだ。
サカエ「大丈夫ですか?」
女性「はぁ? 大丈夫に見える? 私、轢かれたんですけど。」
サカエ「ですよねぇ。」
サカエは少しして、頭の中で疑問を浮かべた。
サカエ(車で轢いたはずだけど、なんで無傷なんですか。いや、無事の方がいいですけど。)
そこにアサヒが遅れて来た。
アサヒ「あっ、ナルミか。良かったー。轢いたの、ナルミで。」
ナルミ「殺すぞ、クソガキ。」
ナルミがアサヒの方へと詰め寄った。
サカエ「えっ……と。知り合い?」
アサヒ「オレがまだ殺し屋やってた時に、コイツがターゲットに狙われてたんで、ターゲットを殺すついでに助けてやったんだぜ。」
ナルミ「そうね。助けられたと同時に、今、車で殺されたけどね。」
アサヒ「いいじゃん。どうせ、死なないし。」
ナルミ「あっそ。じゃあ、警察に突きつけてやるわ。車で事故したら、初めに警察を呼ぶのが基本でしょ?」
サカエはスマホをさっと取り出した。
それをナルミが止めた。
ナルミ「ただ、呼ばなくてもいいわよ。もし私が今から言うことをのんでくれるならね。」
アサヒ「回りくどいな。さっさっと言ってくれ。」
ナルミ「あんたのせいで五歳歳をくったのよ。なんでそんな態度できるわけ?」
サカエ「そうですよ。例え身内だとしても、反省する態度を取らないのは失礼ですよ。」
アサヒは少し背筋を伸ばした。
ナルミ「五年分の慰謝料払って。」
アサヒ「マジかよ。オレ、暗殺家業止めたから金ねぇよ。」
ナルミ「とっかで働いてるんでしょ。そこの給料から毎月八割引き落としでいいわよ。」
アサヒ「なっ、は、八割っ!?」
サカエ「今の給料ですと、大体これぐらいですね。」
サカエが電卓画面となっているスマホを見せた。
ナルミ「そう言えば、あなたはいったい誰なのかしら?」
サカエ「ぼくはアサヒくんの働いている店の社長『見つけ屋サカエ』のサカエです。依頼主の探しものを探してたりします。」
サカエ「サカエもカードの能力者なんだぜ。」
ナルミ「へー。ちょうどいいわね。探して欲しいものがあるのよ。それにアサヒのいる店ね……。」
ナルミがニヤッとして、サカエの方を見た。
ナルミ「助手席に座ってたあなたもこの事故の同罪よね? 赦して欲しかったら、私の言うことを聞いてちょうだい。」
サカエ「なんでしょう……。」
ナルミ「私を雇いなさい。私、カードの能力によってヤバい奴に狙われやすいのよ。アサヒがいれば守ってくれるでしょ。ついでに、アサヒの給料の八割は私へ。」
アサヒ「八割も給料取られた上で、アンタを守る使命を負うん? 割に合わなくね?」
ナルミ「それに匹敵することをしでかしたのよ。アンタは。分かったわ、七割で妥協してあげる。」
アサヒ「なっ、な。ぐ、ぐぬぬぬ。」
サカエ(なんか、ボクが雇う側なのに、外野にされてるような気がする。)
なんやかんやで、ナルミが店の仲間になった。
車で店へと戻る。
ナルミ「安全運転以外許さないから。」
アサヒ「分ーってる。」
二人の兼ね合いはどこか賑やかだった。
ナルミ「ウインカー出すの遅い。」
アサヒ「N大都市じゃ曲がる直前に出すのが普通だぜ。」
ナルミ「うるさい。普通はウインカーは早めに出すもんなのよ。」
細かく指示するナルミとそれに返事するアサヒ。時々、口答えするアサヒにナルミが「轢いたのはどっちだっけ?」と言ってアサヒが黙る。
仲が悪そうな対話なのに、傍からみれば仲慎ましい様子にも見えた。
◆
見つけ屋サカエにて、ナルミの依頼を受ける。
サカエ「それで見つけたいものとはなんでしょう。」
ナルミ「それが、赤色の布なのよ。」
ヤオ「赤色の布なんて普通の店で買えそうだ。」
ナルミ「ただの布じゃないわ。私のカードの能力で作った特別な布よ。」
ヤオ「能力ってどんな能力なの?」
ナルミ「私の能力は【負傷回復】よ。ダメージを負っても年齢と引き換えに回復するの。あなた達に車で轢かれて一度は死んだけど、カードの力で蘇ったの。代償として五年分年老いたけどね。」
アサヒ「つまり、年齢五歳増しってことだな。まっ、どっちみちオバサンで変わ——」
ボコボコボコ。ナルミの無言のまま放たれる攻撃がアサヒにクリーンヒットした。
チーン。アサヒはその場でのした。
ナルミ「話を戻すわね。その赤い布は、この回復の能力を持った唯一の道具よ。私がいなくても、その布さえあれば死ぬことはなく生き返れるわ。ただ、誤算だったのは、その布は一枚しか作り出せなかったこと。そして、その布は直接回収するしかないみたいなの。」
サカエ「それで、その赤い布はどうしたんですか?」
ナルミ「たまたまそこにいた女の子に『貸—か—してあげた』のよ。けど、その時に犬が布を咥えて逃げちゃった。犬がどこに持ち去ったのか捨てたのか分からないわ。ただ、早めに赤い布を取り戻したいの。」
サカエ「分かりました。全力で探しましょう。」
ナルミ「助かるわ。」
サカエ「では、ひとまず犬に奪われた場所まで案内して頂けますか?」
ナルミ「分かったわ。」
アサヒはまだ床の上で気絶していた。
サカエ「ヤオくん。アサヒくんのことお願いね。」
ヤオ「うん。任された!」
サカエとナルミは店の外へと出ていった。
◆
車が一台通れるかぐらいの大きさの路地。
サカエ(どっかでここに来た覚えがある気が……。思い出した。ミズキが"永遠のリボン"を無くした場所——)
そこで突然サカエは「あっ」と声を上げた。
サカエ「ナルミさん。その赤い布を貰ったのってもしかしてミズキさんじゃないでしょうか?」
ナルミ「ごめんなさいね、名前まで分からないのよ。小学生の高学年ぐらいだったのは覚えてるのよねぇ。」
そこに遅れてアサヒとヤオがやって来た。
アサヒ「ったく、置いてくなよ。ほんとヤオがいて助かったぜ。」
ヤオ「遅れて登場!」
アサヒ「なぁ、さがしものって『不死身になれる道具』のことだよなぁ? さがしものがどうなったか、オレ、知ってるぜ。」
ナルミ「えっ、ほんとなの?」
アサヒ「あぁ。サカエの記憶を読み取った時に見つけた。」
それを聞いてハッとするサカエ。
サカエ「やっぱりソレだったんですね。——"永遠のリボン"!」
ナルミ「ふーん。で、それはどこにあるの?」
アサヒ「ホミってヤツが持ってるはずだぜ。」
その時、ヤオが誰かが来るのを察知した。
ヤオ「警察が来たね。」
自転車に乗った警官が隅々を確認しながら近づいてきていた。
そして、サカエに気づき、自転車から降りた。
警官「おー。サカエさん。さがしものですかい。」
サカエ「えぇ。そちらはパトロールですか?」
警官「いいや、捜索中なんだ。サカエさんよ。ちと手伝ってはくれないか。ホミさんとイリガさんが昨日から行方不明でね。」
嫌な予感がサカエを襲う。
サカエ「分かりました。急いでさがし出します!」
雲行きが怪しくなった。




