6.
ミズキ「大丈夫なのかな……フジ先生。」
フジ先生は休職期間に入った。
代わりに、副担任の先生がフジ先生の代わりに担任を兼任していた。
その頃、海が見える堤防に座る女が一人。そこにニシオが近づく。
ニシオ「変な気、起こしてねぇだろうな。」
フジ「大丈夫。ここで死んだら、せっかく助けてくれたサカエに顔向けできないっすもん。」
ニシオ「そりゃあ、良かった。とりあえず、無事で……いいんだよな?」
フジ「うーん。それがね……。能力が解除されても、ずっと頭の中で嫌なことを永遠に再生されたせいで、今も魘されることが多くて。」
ニシオ「こびりついたトラウマってことか……。そりゃ、厄介だ。」
フジ「一応、今は、休職して、嫌なことを忘れられるようにしてるの。」
ニシオ「そうか。なぁ、オレから一ついいか。絶対に焦るなよ。少し余裕がでてくると何もしてない時間に焦ってくるのが人間だ。だからって、下手にあれこれ手を出せば失敗する。今はどんな失敗をしても自分を許せるぐらいにまで心を回復させるのが先決だ。」
ニシオがフジに駄菓子の入った袋を渡した。
ニシオ「ゆっくりいこうぜ!」
海風が心地よく吹いていった。
◆
ホミ(あー。あの日から、イリガくんのことが忘れられなくなってる。頭の中がイリガくんのことだらけ。どうすればいいの? あっ、そうだ、サカエに相談しよう。)
ホミは見つけ屋サカエへと入っていった。
そして、サカエに向けて相談内容をぶちまけた。
サカエ「それは何を見つける依頼なんです? ここは万事屋や何でも屋ではありませんからね。」
サカエは少し苦笑いを浮かべていた。
サカエ「まぁ、ぼくから言わせてもらうと、いっそのこと告白すればいいんじゃないでしょうか。」
ホミ「そんなん。できるわけないじゃん。」
ヤオ「どうして、できないの?」
ホミ「それは……その。そんな勇気ないってば。」
なぜか苛立ちを見せるホミ。
サカエは「はぁ」とため息を吐いた。
ホミ「分かった。告白するからついてきて。」
サカエ「なぜにっ!?」
ホミ「一人じゃ心許ないからに決まってるでしょ。言い出しっぺはサカエなんだからね。」
サカエ「ぼくはパスで……。」
ホミ「じゃあ、新入りでもいいわよ。」
ホミは新たな見つけ屋のメンバーを指さした。
アサヒ「オレっ!?」
そして、ホミに無理やり掴まれて外へと向かっていった。
サカエ「ちなみに、その依頼は労働外扱いですので、頭に入れておいてください。」
アサヒ「はぁ。タダ働きじゃねぇかっ。」
ホミ「さっさっと行くよ。」
アサヒはホミに連れられてどこかへと向かっていった。
◆
昨日——。
野外のバスケットコートにて邂逅する二人。
アサヒ「ちっ。やっぱ、見つかっちまったか。」
サカエ「ぼくは『見つけ屋』ですから。どこへ逃げても見つけ出しますよ。」
サカエが高く放ったボールがゴールの外へと落ちながら進んだ。バウンドするボールを素早く取りに行くアサヒ。
アサヒ「で、どうするつもりだ? オレを殺すか?」
サカエ「そんな物騒なことはしませんよ。ただ、ぼくは交渉をしにきたまでです。」
アサヒ「はっ。面白ぇ。暗殺ターゲットを見逃す代わりに、何を出してくれるんだ?」
サカエ「……少し違いますね。アサヒくん、『見つけ屋』で一緒に働きませんか?」
アサヒはボールをゴールへと投げた。
ゴールの中へとスッと入っていく。
アサヒ「何言ってんだ。オレァ、殺し屋だぜ。殺し屋一家に産まれて、殺し屋としてしか生き方を知らねぇ。そんなオレが普通の仕事、できるわけねぇだろ。」
サカエ「いいえ、『できる』か『できない』かではないんです。『したい』か『したくない』かです。強いていえば、きみは『見つけ屋』で働きたいと少しでも思いましたか?」
アサヒ「はっ。微塵も思わねぇ……が。」
サカエ「が?」
アサヒ「普通に生きてみてぇとは思っているんだ。殺すことを生業にしてっけど、殺したい訳じゃねぇ。できんなら、友達と馬鹿みたいに遊んでいてぇ。」
その本音を聞いて、サカエは少しふふっと笑った。
サカエ「じゃあ、友達から初めましょう。」
アサヒ「おぅ。いいぜ。」
バスケットボールがサカエに投げられる。
それを持ったサカエはバウンドさせて、アサヒをすり抜けてゴールにボールを投げた……が入りはしなかった。
サカエ「友達として二ついいですか?」
アサヒ「なんだ?」
サカエ「フジ先生を殺すのをやめてもらっていいですか?」
アサヒ「まぁ、いいぜ。」
サカエ「ありがとうございます。後、『見つけ屋』で働きません?」
アサヒ「めっちゃ勧めてくるな。けど、いいぜ。やってやっても。」
サカエ「それは助かる。人手不足でしたから。」
二人でボールを飛ばしあった。
アサヒ「なぁ、この後、卓球やりにいかね? やってみたかったんだよ。」
サカエ「いいですよ。新たな友達歓迎会ですね。」
二人はそのまま大きなボウリング場に向かっていった。
アサヒ「なぁ、サカエ。アンタ、歳は?」
サカエ「十七です。」
アサヒ「マジかよ。一個上かよ。じゃあ、敬語の方がいいんか? けど、オレ、敬語苦手なんだよなぁ。」
サカエ「僕に対してはタメ口でいいですよ。ただ、依頼主へのタメ口はよくないので、一緒に勉強していきましょうか。」
◆◆◆
フシミ「まさか懐柔されてしまうとは想像の範囲外でした。」
フシミはスマホに向かって言葉を発していた。
フシミ「幾ら昼行灯と罵ろうとも、なってしまったものは仕方ありません。」
フシミはゆっくりとコーヒーを口に入れた。
フシミ「アサヒくんがついている以上、下手に暗殺者を手向けるのは悪手です。してやられたのですよ。最も効果的で、最も痛い手を打たれてしまいました。」
窓の外を見ながら、クッと笑う。
フシミ(だからと言って、実際に仲間に引き入れるとは何とも大胆不敵。普通は効果的だろうとも、実行しませんよ。)
電話を切る。
そこに一人の女性がやってきた。
女性「すみません。お時間を取らせてしまって……。」
フシミ「気にしないでください。」
フシミはカウンセラーとしてその女性の相談に乗っていた。
フシミ(そろそろ、この人とはおさらばしましょうか。)
にこやかに話を聞くフシミ。
一方的なターン。
そして、ようやくフシミのターンへと移った。
女性「私の生きている価値とはなんでしょうか?」
フシミ「では、自論を一つ。私は『他人に与えられる"良いこと"』から『他人への"迷惑"』を引いて残ったものが『人の価値』だと思っています。」
女性「えっと……つまり……」
フシミ「人に尽くすことは大事なことですが、自らを蔑ろにしてしまった結果、精神が耐えきれず、知らず知らずのうちに迷惑をかけていますね。」
女性「けど、私は!」
フシミ「間違いを認めてしまえば、悪者になるのは自分。悪者というその事実を受け止める心は残っていないため、その悪の行動が正しいことだと信じ込み、他人に信じ込ませて仲間をつくり、『正しいこと』に変えてしまう。」
女性「何がいいたいの?」
フシミ「客観視のできなさと不寛容。心の弱さから、間違いを正当化する。つまり……」
冷たい目がその人に向けられた。
フシミ「心が弱いから、誰かのために行動できない。それなのに、心が弱いから迷惑をかけ、それをあろうことか正当化している。そう、貴女の価値はマイナスなんです。」
女性「じゃあ、どういうこと? 私って何のために生きているの?」
フシミ「逆に聞きたい。あなたの生きてる価値ってなんですか? 一切見えてこないのですが、そこに存在してますか?」
ポロポロと流れ落ちる涙。
そこにハンカチではなくカードが差し向けられた。
女性「私って消えた方がいいのかな?」
フシミ「あまり勧められません。それよりも良い方法があります。」
女性「……?」
フシミ「誰かのために生きる必要もなく、誰かに迷惑をかけることもない。そして、心配事で心をすり減らしたり、嫌な出来事に辛い思いをしたりすることもない。それでいて、貴女は予め設定された幸せを永遠に感じることができます。」
女性「どうやって——?」
フシミ「ロボットになりませんか? さらに理想の姿をした外見になれますよ。」
女性「じゃあ——」
その場から離れるフシミ。
彼は可愛らしい見た目のロボットを車へと運んだ。
あの『最強の暗殺者』アサヒと肩を並べるもう一人の殺し屋……と名高い人物。
フシミのことを裏社会の人たちは『言葉の殺し屋』と——そう言った。




