3.
光の声がそら高く聞こえる——
君も星だよ。みんな、みんな。
ホミ(何とか弾けたけど……。怪しいところがいくつもあった……。)
ホミはピアノから手を離した。
音楽の先生「伴奏者の選考会は来週の金曜日になりました。頑張ってくださいね。」
ホミ「はい。頑張ります!」
この学校で一年に一回行われる『PTA総会』と呼ばれる保護者や偉い人が体育館に集まるイベント。そこで全体合唱が行われる。
指揮者と伴奏者は六年生から選ばれる。
曲は『COSMOS』だ。
ホミ(絶対に伴奏者になりたい。)
伴奏者に立候補したのはホミと別のクラスの男の子。負けたくないと瞳に炎を燃やした。
◆
その日、『見つけ屋サカエ』にホミが来店した。
ホミ「ねぇ、聞いてよ。」
サカエ「ええ、どうぞ。」
ホミ「学校のピアノが使用禁止になったんだけど。前、わたしたちが肝試しした時に学校にいたよね? なんかサカエはこのことについて知ってないの?」
サカエ「突然出てきた学校の七不思議の件ですね。確か夜中、ピアノが勝手に鳴り出すみたいな……」
ホミ「そう、それ! やっぱりフジ先生の仕業なの?」
サカエ「フジ先生の仕業ではありませんよ。逆に、フジ先生が関わっていないのに起きた七不思議でしたから、危険を鑑みて、フジ先生が主体になって使用禁止にしたのですから。」
ホミは机の上に千円を出した。
ホミ「じゃあ、お願い。その勝手に動くピアノの謎の正体を見つけて。伴奏者の選考会が迫ってるの。できる限り早く見つけてね!」
サカエ「あまり気は進みませんが、調べるとしますか。」
◆
サカエ「はぁ、まさか着いてくるとは……。」
ホミ「悪い? わたしだって気になるんだもん。」
フジ「悪いです。親御さんが心配します。」
ホミ「大丈夫。お父さんにもお母さんにもちゃんと出かけるって言ってきたから。」
フジ「そういうことでは……」
真夜中の学校。フジは電話越しのホミの保護者の対応にため息を吐きつつ、学校の中へと入っていった。
能力によって、警備システムは発動しない。
その後ろをサカエ、ホミと続く。
月明かりが廊下を照らしている。
ゆっくりと音楽室に近寄っていく。そこからピアノの音が響いている。
サカエ「警戒しながらいきましょう。」
ゆっくりと、ゆっくりと恐れながら進む。
ホミ「あれ? この曲って……。」
ツーン、ツツツツツ、ツンーツンーツー、ツツツンッ、ツツツッ、ツー、ツーーー、ツツツー。
ホミがその曲に合わせてリズムを取っていた。
ホミ「ひーかりの、こーえがそらーたーかーく、聞こーえるー。」
小声で歌を歌っていた。
フジ「そんな、まさかね……。」
扉を開く。
音楽室では、そこに誰もいないのにピアノが鳴り響いていた。鍵盤が押されていく。
ジャーン。音が止まった。
カタッ。ピアノの椅子が動いた。すぐに前の扉が開いた。
急いで廊下へと出る。
フジ「逃げられちゃいましたね。」
月が雲に隠れて目の前が真っ暗闇になる。
ホミ「真っ暗で何も見えないよー。」
サカエ「ぼくに任せて。サシブカードの効果で、些細な音も聞き逃さない。それに夜目も効くからね。」
逃げるために足音を立てる音を頼りに、サカエは透明人間に向かって走っていく。
そして手を伸ばし、透明人間に触れた。すかさず握る。
雲が流れて月明かりが射し込んできた。
透明化が解除されて、そこに人の姿が現れていく。
イリガ「バレてしまいましたか……。」
ホミ「隣のクラスの……イリガくんっ!?」
フジ「やはり、イリガくんだったんですね。」
二人がサカエたちの方へと近づいてきた。
フジ「ひとまず理由を聞きましょうか。どうやって見えなかったのか、どうしてピアノを引いてたのか教えて貰える?」
イリガ「たまたま拾ったこのカードの力でぼくは透明人間になれるようになったんだ。」
フジ「カードの能力ね……。」
イリガ「来週には伴奏者の選考会がある。家にピアノはないから、学校のピアノで自主練をしようと思ったんだ。」
ホミ「そのせいで、ピアノが使用禁止になったんだよ!」
イリガ「けれども、練習しなきゃぼくは伴奏者にはなれない。だって、とても弾くのが上手なきみがいるんだから。」
少しナルシスト気質のある彼はさらりとそんな言葉を言い放っていた。
イリガ「本当は誰にもバレないようにやっているつもりだったんだけどね。バレないように学校にも入ったし——」
フジ(学校の警備センサーも中庭側から理科室にいく扉だけは発動しないのよね……。前の肝試しの件もそうだったけど、そこさえ不備がなければこんなこと起こらなかったと思うのよねぇ。)
フジは大きなため息を吐いた。
フジ「学校に侵入しちゃ駄目でしょ。それに夜遅くに一人で出歩くのも看過できません。もう二度とやってはいけません。」
イリガ「分かりました。二度としません。」
フジ「はぁ……。ったく。今から親御さんに電話してきますから、ここで待っててくださいね。」
全員職員室の前へと場所を移し、フジは職員室の中へと入った。
ホミ「友達とかがみんな、イリガくんのことを"天才"ってよんでるんだけど……。ピアノの練習なんかしなくても何でもできちゃうんじゃないの?」
イリガ「そんなことないよ。テストで満点を取るのも、スポーツで大活躍するのも、全て前々から努力していたおかげさ。もしボクを天才と呼ぶんなら、努力の天才と呼んでくれ。」
イリガはマイペースにキリッとした言葉を言い放っていた。
イリガ「ぼくにとっては、ホミくんの方が"天才"だと思うんだ。"絶対音感"(※聞いただけで音の音階が分かる)をもつきみはとても羨ましい。」
ホミ「けど、だからってピアノが上手に弾ける訳じゃないんだけど……。全然、手が追いつかないし……」
イリガ「手が追いつかないのはぼくも同じさ。だから、努力するんだけどね。」
フジがそこに戻ってきた。
その時、イリガがホミに向けて宣戦布告を言い渡す。
イリガ「選考会。正々堂々と戦おう。どっちが選ばれても恨みっこなしだよ。」
ホミ「わたし、負けないから。」
無事に二人は親に引き渡された。
◆
体育館に鳴り響く歌声。
ピアノをイリガが弾いていく。
ホミ(悔しいけど、負けたんだから、仕方ない。今のわたしにできることはちゃんと歌うこと。)
体育館に華やかで美しい『COSMOS』の歌が咲いていった。
イリガ(ミスはできない。絶対に弾ききる!)
曲が終わり、今度は盛大な拍手が体育館の中に響いていった。
◆◆◆
夜中の学校。フジ以外は帰っていた。
日直のフジは学校の戸締りをし終え、帰る準備をしていた。
アサヒ「この学校、警備がザルだな。」
ただでさえ、肝試しやイリガの件のように不法侵入を許してしまう学校。
最強の殺し屋と呼ばれるアサヒにとっては侵入は容易いものだった。
フジ「だれ!?」
アサヒ「フシミ……。って言えば分かるか?」
フジ「……。ということは、あいつに雇われた殺し屋?」
アサヒ「……正解。」
アサヒはカードを取り出してフジに見せるように構えた。
アサヒ「カードの効果は脳内情報関与。今からアンタの頭ン中は、悪夢が支配する。」
フジ「な……。あ、待って……。うるさい。」
フジは頭を抱え込んで廊下に塞ぎ込んだ。
アサヒ「じゃあなっ。アンタは死ぬ。自分自身によってな。」
アサヒはその場から去っていった。
夜が彼の姿を見えなくさせた。




