22.
A県……高等裁判所——。
裁判長「では、判決を言い渡します。」
最初の裁判に加えて提出された書類をもとに行われる裁判。
裁判長「主文。原判決を破棄する。被告人を拘禁刑一年に処する。ただし、この裁判が確定した日から二年間、その執行を猶予する。」
傍聴人サカエ(執行猶予……。言い渡された刑罰を先送りにして、言い渡された期間、何事もなければ実際の服役など刑罰を受けないという制度。)
裁判長「理由を述べます。本件において、被告人は暴行等の行為を一切加えておらず、能力自体が被害者自身の強い意思表示を条件としています。」
サカエ(一審判決より大きく下回る結果……。)
裁判長「被害者の身体を直接損壊したと断言するには法的根拠が不足しております。」
アカイ(例の、疑わしきは罰せずってやつか?)
裁判長「ただし、被害者の機械化を制止する立場にありながら、それを行わず、逆に被害者の機械化を促進するに等しい行為は悪質であるとも判断し、拘禁刑一年、執行猶予二年の判断としました。」
フシミ(これ以上の抗いは逆効果になりかねません。年貢の納め時ですね。)
こうして裁判は幕を閉じた。
◆
アカイ「なんか納得いかないよな……。」
フジ「まぁ、七年から一年に大幅に下がって、さらに執行猶予もつきますからね。」
そこにフシミと鉢合わせた。
フシミ「わたしの完敗です——。」
サカエ(……!?)
フシミ「わたしが釈放されてから、あなたたちは検察審査会を通して、わたしを裁判にかけた。そしてわたしは実刑判決を下された。」
アカイ「けど……。」
フシミ「なにやら納得いかない様子ですね。復讐に駆られているのでしょうか?」
ミズキ「うっ——。」
フシミ「わたしが言うのも筋違いでしょうが、他に誰も伝える人がいないと思うので、伝えましょう。復讐心は人の心を埋め尽くしてしまう。そうなると人生をかけてまで復讐に囚われてしまう。それはまるで底なし沼のようで、怒りは絶え間なく巡っていく。もし復讐を遂げても後に残るものは何も無い。」
フシミは淡々とした言葉が空中で揺れる。
フシミ「人生を賭けてまで復讐するには、君たちは些か若すぎる。もっと自分を大事にした方がいい。」
アカイ「くそっ。」
フシミ「ちなみに、裁判で無罪を勝ち取れなかったわたしは敗北者なんです。言い換えれば、あなたたちは勝った立場なんです。」
ミズキ「勝った気がしない……。」
フシミ「この世には馬鹿な人間が多い。彼らは足りない頭脳で物事を考えなきゃいけない。そこで人はグルーピングをするのです。」
サカエ「グルーピング?」
フシミ「えぇ。別の言い方をすれば、レッテル貼りです。度々耳になるのはタトゥーをしてる人はヤバイ奴……とか、眼鏡かけたひょろっとした男は陰キャ……とかですかね。聞いたことありませんか?」
アカイ「よく耳にするかもな。」
フシミ「もちろん、個人に対して、この人は〇〇だ、と決めつけることも、当てはまりますかね。〇〇は××だ、という決めつけ。そして、理解した気になる。グルーピングは頭が足りないから行われる。一方で、そのお陰で他の思考に容量を割けるようになるのです。」
フジ「それで?」
フシミ「多くの人がそうやって他の思考にリソースを割く。そして、私は刑事裁判で有罪判決を受け、前科者になった人間です。そうタトゥー—消えない印—が入っている状態なんです。」
フジ「あー、そういうことか……。」
フシミ「これから私は生き辛くなります。このタトゥーを背負って生きていかなくてはなりませんから。それは相当重い罰のようなもの。それを背負わせたあなたたちは相当なお手柄のはずですよ。」
もやもやとした気持ちの中、それでもその美酒を飲むことにするサカエたち。
フシミ「それと、今度はあなたたちとわたしで裁判をするのでしょうね?」
サカエ「どういうことです?」
フシミ「いえ、あなたたちが訴えるつもりがなければないのですが……。」
フジ「それは一体……どういうこと?」
フシミ「はぁ……。わたしは法的に負けた人間。機械化による被害者の遺族はこれを機に訴訟を起こすものかと思っていたのですが……。わたし的にはしない方が嬉しいのですけどね。」
フジ「あぁ……。そうか。」
フシミは敵に塩を送った。
フシミ「では、失礼しましょうか。」
◆
民事裁判——。
それは人と人とのトラブルを解決するための裁判。
訴えた人——原告、フジ、ミズキ。
訴えられた人——被告、フシミ。
フシミ「裁判官が提示した条件をのもうと思っています。」
民事裁判でフシミは一切反論的な言動をしなかった。
裁判官の提示のもと、フジとミズキに賠償金が支払われることになった。
サカエ(民事裁判で判決まで続くことが意外に少なく、多くは和解になると聞いていましたが、ここでも和解で終わるとは……。)
こうして長い長い裁判は幕を閉じた。
◆
木漏れ日にうたれる。
雑草の生えた地面の前にしゃがんで顔を近づけるミズキとアカイ。
アカイ「おっ、見つけたっ!」
アカイは四葉のクローバーをちぎって手に入れていた。
ミズキ「わたしも!」
ミズキも四葉のクローバーを見つけた。
アカイ「ミズキ。これ、やるよ。」
ミズキ「なんで?」
アカイがミズキに四葉のクローバーを渡した。
アカイ「四葉のクローバーはいいことがおこる花言葉? があるんだろ。じゃあ、いっぱい持ってた方が得なんじゃないか?」
ミズキ「けど、アカイくんのが……。」
アカイ「おれはいいよ。それよりも最悪な目にあったミズキが持ってた方がいいからさ。」
ミズキ「……。ありがと。」
アカイ「二度あることは三度あるって言うだろ。もう一度、ラッキーなことでもあるかもな。」
そしたら、フジが四葉のクローバーを見つけて、それを手に取った。
フジ「うちも見つけました。これ、ミズキさんにあげますよ。」
ミズキ「先生、ありがとうございます。」
そこに合流するアサヒとナルミ。
アサヒ「ようやく終わったんだな。」
ナルミ「長かったわね……。」
そこに居合わせたのはサカエ、ミズキ、アカイ、フジ、ニシオ、アサヒ、ナルミの六人。ちなみに、店にはヤオがお留守番している。
サカエ「では、少し気になったことがあるので聞いていいですか?」
アサヒ「ん?」
サカエ「時間感覚がよく分からなくなってしまって。なんか異能力使われてます?」
アサヒ「おっ、よく気づいたな。裁判が終わるまで時間を圧縮して貰ったんだ。」
ニシオ「裁判は時間とお金がものすごくかかる。とくに、小学生のミズキや先生のフジにゃ、長すぎる裁判はちょいと大変だ。んで、保護した中学生への修行の一貫で能力を使って貰ったわけよ。」
サカエ(確か時間に関与するという中学生でしたね。危険なグループに捕らわれていた……。)
アサヒ「【時間関与】の裏の力で時間を圧縮して貰ったんだぜ。一ヶ月が一日になるようにな。」
サカエ「じゃあ、約二年半近かった日々が——」
ニシオ「異能力で一ヶ月分に凝縮されたわけだ。」
サカエ(だから、数ヶ月経ったはずなのに、世間や体の感覚は一日分のような変な感じになっていたんですね。)
アサヒ「ほんとすげぇ、能力なんだが、その反動で、約二年半、裏の能力は使えなくなっちまったらしい。マジで残念だよな。せっかくの能力が使えなくなるなんて。」
ニシオ「おじさん、少し抜けるわ。その中学生も一緒にこっちに来てるから、送迎頼むわ。」
ニシオがそこから抜け出した。
その後、例の中学生がサカエたちの元へと来た。
——。
ニシオ「よっ。時間は空いてるか?」
フシミ「どうしたんですか?」
ニシオ「んー。いや、ちょっと話をしに、な。せっかくだし、酒でも飲みながらにするか? 自棄酒にいいんじゃあないか? 奢るぜ。」
フシミ「遠慮します。」
ニシオ「連れねぇなぁ。一応は会社の仲間だったろ? 俺ら。」
フシミ「潜入捜査のために入社したあなたにその資格はないと思いますがね。ただ、辞めたもの同士、同類だったかも知れませんが……。」
フシミとニシオが対峙し合っていた。




