21.
【論告・求刑】
検察の最後の攻め。
検察「多くの被害者は機械化から戻ることができず人として過ごすことができなくなりました。」
検察が言葉に力を宿していく。
検察「カウンセラーという立ち位置を悪用し、被害者を機械化させていった。そして、被告人にそのことに対する罪の意識がありません。非常に悪質であり、到底許されていいものではありません。」
裁判長(ふむ……。)
検察「以上の点から、被告人の刑事責任は極めて重く、汲むべき情状は皆無です。よって懲役十年を処すのが妥当です。」
【最終弁論】
弁護士の最後の防御。
弁護士「本件において検察側の主張する『傷害罪』『教唆罪』はどちらとも成立致しません。」
弁護士が緩やかに場を盛り返していく。
弁護士「被告人は被害者に暴行を加えたのでしょうか? 直接心身を傷つけたのでしょうか? いいえ、逆に苦痛から解き放たれました。」
裁判長(……。)
弁護士「被告人は被害者に機械化を強制していません。被害者が自らの足でやってきて、自らの手で、被告人を媒介物にして機械化をしただけなのです。これは悲しい事故であり、自己責任の範疇を超えません。」
裁判長(ふむ……。)
弁護士「『疑わしきは罰せず』及び『疑わしきは被告人の利益に』。この我が国の司法理念に則り、被告人が意図的に機械化したという想像の解釈は成り立ちません。」
検察(くっ……。)
弁護士「『罪刑法定主義』に則り、構成要件を満たさないとして、被告人の無罪を主張します。」
【最終陳述】
最後のフシミによる言葉。
フシミ「私のもとへと来る人は当然、救いを求めにきました。ただ、機械化した誰もが自分の力で幸せになろうとはしなかった——。」
裁判官(何を伝えたいのか……。)
フシミ「幸福を液体と揶揄して、その幸福を受け止める人をコップに喩えましょう。来る人はみな、コップが壊れているのです。ですから、水が入ってもすぐに出ていきたまらないからその幸せに気付けない。」
傍聴人(獪岳みたいなことね。)
フシミ「幸せに気付けないから水を求める。それなのに一向に満たされない。例えば、ギャンブルで大金が当たっても満足できずに次の賭け事に走る。金持ちエリートと結婚したとしても不満ばかり募っていき幸せよりも不幸が勝る。一方、本人は自らのコップを満たしてくれる水を、社会か他者にエスカレートしながら求めていく。しかし、そんな水は存在しないから負担だけを強いていく。」
場の人々が唾を飲んだ。
フシミ「結局どれだけ求めても幸せになれない醜い心を持った者を『社会の家畜』とでも称しましょうか。」
あまりの強気の発言に場が凍る。
フシミ「彼らは自分への認知能力が足りていない。本当はコップを修復・強化していくのが先決ということに気づいていない。目標に向かって茨の道を進む。どんな逆風でも心強く進んでいく。それがコップを強くする手段。そして、水が勝手に溜まっていくのです。」
裁判官(それで何がいいたいの?)
フシミ「ようは意識的受け取り方の問題です。しかし、社会の家畜はそのことに気付けない。そして、気付けないからこそ"水"を求める。そんな人達にコップの修復を勧めても、見向きされない。その人の心故に他人が無理に修復や強化をすることもできない。つまるところ、他人じゃ、どうにもできないということです。」
フシミの詭弁が会場を冷たい空気で包ませている。
フシミ「社会の家畜は幸せにはなれないんです。自ら気づける人なら幸せになれるでしょうが、多くはそれに気づけず水を求める人に成り下がってしまう。不幸の底無沼です。」
裁判官(……。)
フシミ「願望変化はそんな人達に希望を与える力です。特に、機械化はこぼれない不思議な水を注ぐこととも言えるでしょう。終わりの見えない不幸から抜け出すために、それな縋るのは当然のことでしょう。」
話のゴールが見え始めた。
フシミ「私は受け身で何もしない。しかし、向こうから自らの意思で変身しにやってくるのです。唆すなんてしない。その前にそのものたちの結論は決まっていますから。もし私に非があるのなら、そのものたちの意見を食い止めること。しかし、カウンセラーの私にとって、それは厳しいことでした。」
フシミはゆっくりと裁判長の方を見た。
フシミ「私が逮捕されてから、検察によって不起訴になったように、このことは至極仕方ないことなのです。これで話を終えます。」
フシミの最後の言葉が終わった。
裁判長「これにて審理を終了します。判決の言い渡しは——」
後は、裁判の結果が言い渡されるのみ。
◆
【判決——】
裁判長「主文、被告人を拘禁刑七年に処する。」
フシミ(まさか、そのようになるとは……。)
裁判長「被告人が被害者に機械化を唆したことについては合理的な疑いが残る一方、被害者らが精神的な問題を抱えていたことを知りつつ、また、機械化が人間に戻れないという事実を認識しながら、機械化を可能とする能力を提供し、その結果として被害者の身体的・精神的機能を著しく変えた。『傷害罪』に値する。」
アカイ(ついに——)
ミズキ(おわった——。)
裁判長「これにて閉廷する。」
裁判が終わった。
無言で聞いていた傍聴人のサカエたちはそのまま家へと向かう。
アカイ「長かった裁判もようやく終わったな。」
サカエ「そうですね。これでフシミさんに罪を償わすこともでき、一件落着——」
そこにニシオが口を挟んだ。
ニシオ「いや、終わっちゃいねぇかもよ。」
ミズキ「えっ? なんで?」
ニシオ「裁判には『三審制』という制度があるんだ。」
アカイ「なんだ、それ?」
サカエ「すっかり頭の中からこぼれ落ちていました。同じ事件について、原則として三つの審級で裁判所の判断を受けられる仕組みなんです。」
アカイ「なんなんだよ、それ。なんで、そんなんがあるんだよ。」
サカエ「裁判は人の人生に大きく影響を与えます。そして、裁判をするのは紛れもなく人なんです。人だからこそ、間違えることもあります。誤った判断で人の人生を狂わすことがあるんです。酷い場合だと冤罪とか……ですね。」
ニシオ「んで、より公正で公平な裁判を守るために三審制があるって訳よ。」
サカエ「もしそうなると次はここよりも上の裁判所となります。」
ミズキ「上の裁判所?」
フジ「……確か高等裁判所だっけ?」
サカエ「そうですね。刑事裁判だと最後がT都にある最高裁判所になります。」
アカイ「まだまだ長くなりそうだ。まっ、けど、長いっつったって、そんな時間は経ってないんだよね?」
ニシオ「まぁ、そうだな。時間が凝縮されてるからな……。」
サカエ(今聞くと頭がこんがらがりそうなので聞くのをやめときますが、やっぱり不思議な時間感覚はおじさんたちが関わっていたからなんですね。)
◆
控訴——。
フシミによって、二回目の裁判が行われることになった。
場所はN大都市の三の丸にある高等裁判所。
サカエ「ぼくらは結末を見届けましょう。」
そして、裁判の判決が近づいていた。




