20.
【被告人質問】
フシミが証言台の前へと立っている。
最初は弁護士からだ。
弁護士「では、質問を行います。」
フシミ「ええ。」
弁護士「あなたが機械化させた人達はどのような人達だったのでしょうか。」
フシミ「後々調べまとめあげた資料にもあるように、夫だけでなく子にも見捨てられた生活保護を受けるシングルマザー、ステージ『3』の癌をもつ中高年男性、手首にリストカットの痕が絶えない女子高生、そして——」
フシミが余所見してから再び裁判長の方を向く。
フシミ「私とは別の異能力カードの力で、無限に老化する永遠の時を苦しみながら生きる不老の娘、を持つ親。それとその妹。これでもまた一例でしかありません。」
弁護士「誰も彼も、自ら自死を選ぶ可能性を否めないですね。彼らはどうやって、あなたの能力に気づいたのでしょうか?」
フシミ「最近、A県を賑やかす異能力カード。そのカードの持ち主は限られています。即ち、持ち主は非常に稀なのです。憶測ですが、私の能力が少しでも知られたら、その希少性から噂が広まるのは早いでしょう。」
弁護士「では、あなたの元に機械化をしにきた人達はその噂を聞きつけてきた……と、言いたいのでしょうか?」
フシミ「その通りです。少なくとも私の能力は機械以外にも変身できます。しかし、わざわざ機械を選ぶというのは、自身の足でここへと来て、自ら意図して機械化を選んだに他ならない。」
弁護士「なるほどぉ。そうなると『傷害』を行ったとは考えられませんねぇ。」
フシミ「えぇ。そして、変身先は本人が強く願った物です。私がいくら示唆したとしても、本人が変身したい気持ちがなければ意味はない。」
弁護士「もし機械化を強要したとしても、本人がその気にならなければ機械にはなれないのですよね?」
フシミ「もちろんです。」
弁護士「犯罪や自殺の行為の強要を直接言ったことと、その異能力カードは無関係ですよね?」
フシミ「そうなりますね。」
弁護士「能力の関係上、被告人が『教唆』や『幇助』をした可能性は限りなく低いと見て良さそうです。」
フシミ「おっしゃる通りです。」
弁護士「これで質問を終わります。」
弁護士のターンが終わった。
次は検察側だ。
検察「あなたの職業はカウンセラーですよね。とすれば、あなたの元に来る人は何かしら悩みを抱えた人という訳ですよね?」
フシミ「そうですね。」
検察「そんな人々に無条件で幸せになれるという機械化の噂が流れれば、それに縋るのも当然。それを知っていたあなたは、情報さえ流せば後は向こうから勝手に異能力を求めにやってくると思っていたのではないのですか?」
フシミ「いいえ、違います。」
弁護士「憶測の域から出ませんよ。」
検察「もう一つ。あなた自身、その異能力によって機械化することは知っていましたよね?」
フシミ「もちろんです。」
検察「では、なぜそのことを理解していながら、あなたは能力を使うことをやめなかったのですか。言い換えます。その能力を求める被害者を止めようとしなかったのですか?」
フシミ「薬は良薬にも毒にもなりうる。それと同様、この能力も毒にも薬にもなるものなんです。」
検察「どういうことでしょうか?」
フシミ「例えば、電車好きの方がわたしの能力によって電車になったとします。別例では、憧れたアイドルが持っていた道具にだってなれるかも知れませんね。たったそれだけでもストレスは大きく発散されます。」
検察「二度とは戻れない機械化に対しても同じことを言えるのでしょうか?」
フシミ「それは自己責任です。何度も言っていますが、この能力が故に、私から被害者側に能力の影響を与えることはできませんから。それに——」
検察「それに?」
フシミ「カウンセラーとしての性かも知れません。人の悩みを受け入れるために『共感』のスタンスを取ります。もちろん、共感は受け身です。受診者の悩みを真摯に受け止め、それを言語化し、その人が求める答えを明確にしてあげること。」
検察「その結果、機械になりたいなどあまりよくないことを言い出したら、止めはしないんですか?」
フシミ「やんわりとは示しても、対抗はしません。社会的正義や常識によって、心を打ちひしがれてた方が病んでくることが多い。その方たちに社会的正義や常識を伝えても逆効果になるだけですよ。」
そこにいる誰しもが、フシミの腹の奥底は何一つ見えない状態だった。
フシミ「ええ。心の弱者は自らの命を守るために攻撃的になるものです。守られなければならない状態でも本能のせいであれこれ噛み付いて、敵をつくり、さらに追い込まれる——何とも可哀想な人達です。チワワなどを見れば分かるように、弱い犬程よく吠える。人間も根本的な動物的本能は一緒なんです。弱い人間ほど、よく吠えたり噛み付いたりする。」
検察「何がいいたいのでしょうか?」
フシミ「例えば、私が犯罪行為や機械化の危険性——"もしそうした場合どうなるか"を伝えることはできても、それは危険だから駄目とは言いきれないのです。言えば、受診者は責められたと感じ、そのまま責められた感情が強く残り、それ以降私のカウンセリングは意味をもたなくなる可能性が高くなりますからね。そして、受診者を救える人が一人減るということです。人数が限られている我々の界隈からしたら受診者にとって大きすぎる影響です。」
検察「だから、危険性を伝えられない、と?」
フシミ「いいえ。正しくは、危険性は伝えても、それを強制することはできなかった、です。私のスタンスは『受け身』ですから。」
検察「私はそうは思いません。機械化を止まるべき被告人が機械化を止めなかった。それは大きな問題だと思います。それが仕事上、大きな問題になるとしても、です。」
検察は冷房の聞いている部屋で少しだけ汗をかいていた。
検察「説明責任を果たさなかった。全ては被害者を機械化するために。その『傷害』は被告人による悪意的な受け身の結果なのです。」
弁護士「異議あり。憶測の域を出ません。」
検察「私からは以上です。」
裁判官「では、我々から質問致します。」
フシミ「えぇ。」
裁判官「もし立場的に機械化を止められるとしたら、止めていましたか?」
フシミ「どうでしょう。この立場に慣れすぎて、想像もできません。」
裁判官「次に、人の体を欠損させることは犯罪になることと知っていましたか?」
フシミ「もちろん、理解しております。」
裁判官「機械化は人間の欠損にあたると思いますか?」
フシミ「思いません。機械でなければ基本的に元の姿に戻れますから。N大学附属病院の教授が仰ったように、人としての思考——幸せの脳波も消えていませんからね。」
裁判官「分かりました。これで質問は以上です。」
次は三者最後——まとめの言葉となった。




