19.
開廷——。
裁判長「これより、被告人フシミに対する傷害罪及び教唆罪の被告事件を開廷します。被告人、前へ。」
裁判所内をゆっくりと歩く被告人(※無罪の可能性がある限り、犯人や容疑者などとは呼ばずに被告人と呼ぶ)のフシミ。
証言台の前に立ち、裁判長へと真っ直ぐ目線を合わせた。
裁判長「人定質問を行います。お名前と生年月日、本籍、職業を述べてください。」
フシミ「はい。わたしはフシミです。生年月日は『20xx』年『11』月『15』日。本籍はA県N大都市H区——。職業は心理士……カウンセラーです。」
裁判長「指定弁護士、起訴状を朗読してください。」
指定弁護士——通常、刑事裁判では検察官がこの立場となる。ただ、今回、検察は裁判所に訴えてはいない(検察審査会での代表市民による起訴)ため、裁判所が指定した弁護士が検察官の役割を担う。
ただ、ここでは一般的な刑事裁判に合わせて以下検察として書いていく。
検察(※指定弁護士)「起訴状。被告人フシミは異能力カードの力を用いて、被害者に機械化の力を提供し、植物状態と等しい存在へと変化させたこと。それらが刑法『204条』傷害罪、刑法『61条』教唆罪に抵触するものである。被告人を厳重な処罰を求めるために起訴する。」
裁判長「被告人。黙秘権について説明します。あなたには終始沈黙する権利があり、言いたくないことは言う必要がありません。発言したことはあなたに有利にも不利にも証拠となります。……さて、ただいま検察官が読み上げた公訴事実について、間違っているところはありますか?」
フシミ「まず、私は機械化について、一方的に行ってはおりません。私はただ選択肢を提示したまでです。被害者本人がそれを望んだ結果に過ぎません。」
フシミの弁護人「弁護人としても同意見です。被告人は無罪であり、本件は構成要件(犯罪の条件)を満たしていません。」
真ん中に証言台。
その奥に裁判員。
横には検察、反対側にフシミと弁護士が座る。
【冒頭陳述】
検察「まず本件において、被告人による機械化は、被告人による能力であると認めております。そして、その力を使って人間を機械——即ち、人ではない存在に変えた。これは人体の欠損をさせたという事実に他なりません。故に刑法『204条』傷害罪に値するものと思われます。」
検察の思い描くストーリーラインが示されていく。
検察「また、被告人本人は追い込まれている被害者をターゲットにし、能力を提供するといい機械化を誘導した。自殺教唆を行ったと考えるのが妥当です。よって刑法『61条』教唆罪も当てはまるものと思われます。」
裁判長「では、被告側どうぞ。」
弁護士「被告人が行ったことは能力の貸出に過ぎません。資料にもあるように、カードの能力は当事者がなりたい物質になるものであり、欠損をさせたのは被告人ではなく、被害者本人と結論づくのが至極当然だと思われます。」
弁護士による弁論が施されていく。
弁護士「自殺教唆とおっしゃられましたが、元より自殺願望を持っていてもおかしくはない状況に陥っているケースが多く見られます。唆したのではなく、被害者側から被告人に擦り寄ってきたと見るのが当然なのではないでしょうか。」
真っ向する意見が出揃った。
そして、裁判は別日に持ち越された。
そして、再び裁判の時がやってきた。
【証人尋問】
裁判の場所に証人として呼ばれたミズキ。証言台へと進む。
ミズキ「私のお父さんとお母さんはフシミによってロボットに変えられました。そのロボットは今も家にいます。だけど、どんなに声をかけても何の返事もしてくれません。料理をしたって食べることはないんです。あんなに楽しそうに笑ってた二人がもう笑うことはありませんでした。」
検察「では、質問ですが、両親が機械になったのに、あなたは機械になろうと思わなかったのですか?」
ミズキ「わたしはお父さんお母さんと一緒にフシミに技をかけて貰いました。だけど、わたしは想いが足りずに変身できませんでした。」
検察「証言者のご家族にとって、彼女はとても大切な子です。一緒に機械化したのであれば、そのまま機械でいようと思うのも分かり兼ねますが、大切な子を一人残して、つまり見捨てて機械でい続けようと思い続けるのでしょうか?」
鋭い言葉の刃が鞘から引き抜かれる。
検察「いえ、普通なら機械から戻ろうとするはずです。しかし、そうはならなかった。それは機械化は自らの意思ではなく、被告人の想定した意思でしかないからです。そう、機械化によって人でなくされたのです。」
弁護士「異議あり。憶測の域を超えません。」
続いて、弁護士が質問する番だ。
弁護士「能力を受ける時、どのように行いましたか? 現場再現をして頂けますか?」
ミズキ「はい。」
ミズキの指示で、弁護士がフシミ役を演じる。そして、ミズキが嫌な過去を振り返って、その行動を演じる。
弁護士「このように能力の発動は被告人からしたら受け身でいるしかありませんよね? 変身する時も、その変身先を思い浮かべて変身したはずです。それって、あなたが望んだからではありませんか?」
ミズキ「それは……。それ、は。」
ミズキは過去に押し潰されそうになっていく。
検察「それ以上の尋問は証人の心身に影響を与えます。」
弁護士「能力は相手に依存するものです。被告人は受け身であり、巻き込まれただけなのです。わざわざ変身先に機械を選んだのは被害者本人であり、この件は自己責任の域を出ないと思われます。」
別日——。
今度はN大都市にあるN大学付属病院の教授が証言台へと立った。
教授「資料にもあるように、機械化は人間の進歩した姿になります。脳は正常に働きながらも衰退しないようなシステムが施されています。もちろん、寿命もありません。」
弁護士「人は不便なことだらけです。熱い寒い、気圧の変化など不快に感じますが、機械化した彼らにそのような不快はありますか?」
教授「ありません。」
弁護士「例えば、痒み、空腹、怪我、怠さなど、そういう不快は?」
教授「ありません。」
弁護士「今は外的影響を並べましたが、対人関係や社会的問題などで起きる内的影響について聞きます。心配事、不安、恐怖、それらによるストレスを感じることはありますか?」
教授「ありません。機械化された人達の脳波を確認するに、幸せホルモンで満ち溢れていて、さらにその幸せホルモンがなくなることはないと見ています。」
弁護士「人間でいれば必ずしも不安やストレスに苛まれます。それから逃れる術が機械化です。このように機械化とは幸せを手に入れる行為なのです。今も幸せでい続けている。だから、人に戻ろうとしない。直接他人を傷つけず人を幸福にする。これのどこが傷害要素を孕むのでしょうか? 私からは以上です。」
続いて検察が席を立った。
検察「それでは、教授。一つお伺いします。先程、幸せでい続けられるとおっしゃりましたが、悲しむことはできるのでしょうか?」
教授「悲しみ、他にも怒りなど、不幸の感情は感じないですね。」
検察「そう、つまり、例えば、目の前で大切な人が苦しんでいようと、悲しんでいようと、一緒に悲しむことはない。そういうことでいいんですよね?」
教授「そうです。」
検察「大切な人の悲しい時、一緒に悲しんであげることができない。それって本当に幸せなことなのでしょうか。私には強制的に幸せを感じているだけと感じます。薬物などによる幸せとなにか違うのでしょうか? そこに本来の人間としての感情はあるのでしょうか?」
教授「それは——」
検察「人の感情という機能を奪ったのではないのでしょうか。人の機能を消失させたということは、まさしく被害者を傷害したんです。」
教授は少したじろいでいた。
裁判長「弁護側、再主尋問はありますか?」
弁護士「……いえ、ございません。」
裁判長「結構です。証人、ご苦労様でした。退廷して構いません。」
フシミ(教授の証言は我々にとっては逆効果でしたか……。少し分が悪くなりましたね。ですが、負けたわけではない。)
別日の裁判所。
今度はフシミが証言台へと立った。
フシミ(さて、ここからが重要な局面。兜の緒を締めましょうか。)




