17.
ドアを開ける。
明るい日差しが射し込んできた。
ミズキ「うっ。くらくらする。」
ミズキがその場で倒れかけた。
サカエが急いで支える。
サカエ(ずっと鬱で動けずに家の中にいた。急に外に出たら倒れるのも仕方がないこと……。)
サカエ「ぼくとフジさんだけで行ってきます。ヤオさん、アカイくん、ニシオさん、ミズキさんのことお願いします。」
ミズキ「わたしも……。」
サカエ「無茶しないで。大丈夫。ぼくらで必ず何とかするから。」
ミズキ「でも——」
サカエとフジの二人で地方裁判所へと向かった。
そこに待ち伏せていたかのように立っているフシミ。
サカエ「フシミ! なぜ、ここにっ!?」
フジ「何のつもり?」
二人がフシミに鋭い刃のような視線を送った。
フシミ「裁判所事務局から通達がありましてね。それで『弁明書』を送ったまでです。」
フジ「あなただけは絶対に許さない。」
フシミ「その根拠とは?」
フジ「私の家族をロボットにして、ミズ——」
フシミ「それならまず弾糾すべき相手がいるでしょう。それにあなたの家族が狙われたのは、あなた方に問題があったからでは? 情報盗作や不法侵入など色々とやってしまったことが引き金になったと聞いていますが……。」
フジ「それとこれとは関係ない!」
フシミ「あなたはどうしてもわたしを悪者にしたいようですね。……そう言ったところで、あなたは引き下がらない。あなたは出した矛をしまえないんですから。」
フジ「何がいいたいの?」
フシミ「端的に言いましょうか。あなたは自分の非を認めることができない。故に、あなたの悪い点を責めたら後は、あなたは私と無関係の人を巻き込んで暴走していくのが目に見える。」
フジ「だから?」
フシミ「社会性の欠如。あなたは言わば災害でしかないのです。」
フジ「な?」
フシミ「喚き散らしますか? いいですね。涙を見せれば勝てる。そんな子どもと同じ待遇を持っていて。」
サカエ「無視して行きましょう。」
サカエがフジを宥め、先を急いだ。
サカエ「ここで言い争っていてもなにも起こりません。」
フジ「そうっすね。」
二人は控え室へと入った。
サカエ「大丈夫ですか?」
フジ「うん。なんとか。」
部屋の中で待っていると、そこに事務局員がやってきた。
事務局員「サカエ様、フジ様、えっとミズキ様は……」
サカエ「体調を崩して欠席です。」
事務局員「承知しました。では、こちらへどうぞ。」
二人は会議室へと入った。
そこは長いテーブルが置かれ、服装のバラバラな十一人の審査員——一般市民が座っていた。
サカエらは指定された席へと座った。
くたびれた顔をしたサラリーマンが台本を手に取った。
審査会長「えー。本日はお越しいただきありがとうございます。私は本日審査会長に選ばれてしまって務めることになってしまったトウジです。えー、検察官が不起訴とした処分について、申立人のお考えを直接、えー、お伺いするためにこの場を設けました。それでは、ご意見をお聞かせください。」
審査員は手元に資料を持っている。サカエが用意した資料の他に、フシミの用意した資料も置かれている。
意見陳述——。
サカエとフジが意見を言う番がきた。
審査会長「では、意見陳述をどうぞ。」
サカエ「フシミは異能力カードの能力者です。その力で人をロボットにします。そして、ロボットにされたら二度と元の姿には戻れません。ここから先は、身内がロボットにされたフジさんに話をして貰おうと思っています。」
フジ「フシミは私の父と兄をロボットに変えました。教え子のミズキさんは両親をロボットに変えられました。ロボットにされたら、もう喋ることも動くこともありません。死んでいるといっても過言では無いんです。」
審査員は資料を見ながらメモをとっている。
フジ「フシミは弱ってなにも考えられなくなった人に能力を使ってきます。たったその時の一瞬の判断で死と同じ目にあうんです。どれほど恐ろしく、罪を与えるべきことと思いませんか?」
サカエ「このように、フシミはロボット化により人の命を弄んでいるんです。」
審査員長が一息ついた。
審査員長「では、質疑応答の時間に参ります。質問があられる方は挙手をお願いします。」
一人が手を挙げた。
審査員A「そのロボット化というのはどのように行われるのでしょうか?」
サカエ「ぼくが見た範囲ですと、カードを差し出して、当人が自らカードに触れた時にロボットになっていきました。」
審査員B「フシミさんからのロボット化を勧められた時の言葉はどのようなものでしたか?」
サカエとフジが顔を見合せた。
フジ「私たちはロボット化を勧められていないので分かりません。」
審査員B「なるほど。」
手応えは、まるで糠を掴むよう——。
手応えがないわけじゃないが、あるわけでもない。
コソコソと審査員同士の話が聞こえる。
審査員C「フシミさんの持ってきた資料をみる限り、ロボットに変身させたのは本当に未来のない人達。その原因もフシミとは関係ない。」
審査員D「けど、遺された方はたまったもんじゃないわよね。」
審査員C「安楽死のようなもんか? まぁ、けど、死んではないもんなぁ。」
審査員長「そろそろ質疑応答を締め切りたいと思いますが、いかがでしょう。」
その場はどこか逆風が吹いていた。
審査員長「えー、貴重なご意見をありがとうございました。いただいたお話を参考に、えーっと、我々十一人でしっかり評議を行いたいと思います。じゃあ、本日はこれで終了となります。」
その時、扉が開いた。
全員がその方向を見る。
そこにいたのはミズキだった。後ろにはニシオやアカイもついている。
ミズキ「ごめんなさい。遅れました。話てもいいですか?」
審査員長「分かりました。少しわけがありそうなので認めましょう。では、意見陳述お願いします。」
ミズキがサカエたちの横の椅子を座った。そして、口を開いていく。
ミズキ「わたしとお父さん、お母さんはフシミにロボット化を勧められました。そして、わたしだけロボットになれませんでした。」
審査員B(直に能力を目の当たりにしたようですね。)
ミズキ「その後、ロボットになったお父さんとお母さんは家に送られて、だけど、今もなにも返事のない状態です。わたしがどれだけ声掛けしても、美味しい料理を頑張って作っても何の反応もないんです。」
ミズキの瞳から液体が流れていく。
ミズキ「わたしはただ、もう一度、お父さんとお母さんに会いたい。ロボットじゃない人のお父さんとお母さんにただ楽しく過ごしたいだけなのに——」
魂に訴えかける涙。
サカエ「遺された人はとても悲しいんです。もう死んでいると同様の状態ですから。たった一人の、ただの個人であるフシミに『人』を奪う権利があるのでしょうか。なんのお咎めなしで遺された人は救われるのでしょうか。ぼくたちからは以上です。」
サカエ、フジ、ミズキの三人はその場から退出した。
サカエ「心に響くスピーチでした。後は結果を待つだけですね。」
サカエの手は汗で濡れていた。
フジ「大丈夫——。きっと上手くいく。……きっとね。」




