16.
サカエ「フシミは釈放されたみたいです。」
その言葉を聞いて、フジ、アカイ、そしてミズキは浮かない顔をしていた。
サカエ「納得いかないですよね?」
フジ「そりゃあね……。」
アカイ「ミズキを大変な目にあわせたのに何にも反省しないなんて許せない。」
ミズキは悲しい表情を浮かべている。
サカエ「やはり、そうですよね……。なので、検察審査会という手を使います。」
フジ「なんか聞いたことあるっすね。教員免許は国語だから、社会は疎いんすよねぇ。」
サカエ「簡単に言えば、検察官により不起訴にされた件を市民の意見でもう一度考え直す方法です。」
フジ「あー、なるほどね。」
サカエ「もしやるとなるとフジさんやミズキさんの協力が必要ですね。」
ミズキ「わたし……がんばるよ。」
◆
H×H市——。
N市の隣の市であるH市とさらに隣にあるH市を合わせてそう言われる。
サカエはそこへとやってきていた。
サカエ「ここが地方裁判所。」
地方の警察署や裁判所などが建ち並ぶ。
サカエは裁判所の中に入った。
そして、検察審査会事務局というところへ『検察審査申立書』を提出した。
ニシオ「提出したか?」
サカエ「はい。」
ニシオ「じゃあ、次は審査員が納得できるよう、意見書作成だな。フシミのロボット化の情報を集めていくか。」
サカエ「そうですね。ここからは見つけ屋としての本領です。」
ニシオ「じゃあ、その前に腹が減っては戦ができぬというし、腹拵えからだな。なんか奢ってやるよ。」
サカエ「ありがとうございます。」
H×H市名物の焼肉定食屋。
二人は席に座る。
ニシオ「おっ、名物のゴンだ。」
二足歩行のキツネのマスコットキャラが注文を取りにきた。
ゴン「ご注文は?」
ニシオ「ステーキ定食。」
ゴン「焼き方は?」
ニシオ「弱火でじっくり。」
ゴン「あいよー。」
ニシオとサカエはステーキ定食を十分に味わった。
サカエ「とりあえず、ロボット化について病院にいって意見を貰ってこようと思ってます。」
ニシオ「そこで死亡判定とか欠損判定とか出れば、一気にクロになりそうだし、重要だな。」
サカエ「はい。」
◆
サカエは大きな病院にロボットを見せた。
病院の院長「生きてはいますね。ただ、返事などはない。強いて言うなら、醒めない夢の中にいるような感じです。」
サカエ「ふむ。」
院長「欠損というよりも代替に近いんでしょうね。人間のソレよりも完璧で、寿命や欠損がない故に不老状態。」
サカエ「これは死んだ状態に入りますか?」
院長「非常に悩ましい話ですね。もし元に戻れるのならば、確実に死んだ状態ではないと断言できるでしょうが……。」
サカエ(争点は元に戻れるかどうか。フシミは元に戻ろうと考えれば戻れると言っていた。ただ、そう考えることがないのなら、それは元に戻れるに当てはまるのだろうか?)
サカエは病院を後にした。
◆
サカエは何か手がかりを得るためにフシミの裏の仕事場へとやってきていた。
サカエ「きっと何か手がかりがあるはず。」
そこに近づいてくる足音。
フシミ「おや、珍しい客ですね。何のようですか?」
サカエ「釈放されたんだよね。けど、ぼくはまだ諦めたわけじゃない。」
フシミ「……。何か法的準備のための捜索しているのでしょうか。民事裁判ですかね? いえ、検察審査会を利用するという手段もありますね。」
サカエは唾を飲んだ。
フシミ「図星ですね。私も知らなかった話ですし、検察審査会の可能性が高そうですね。」
サカエ「……そうです。必ずあなたを罪に問わせます。」
フシミ「そうですか。ただ、一つ疑問があります。」
サカエ「疑問?」
フシミ「どうしてそこまでして私を訴えようとするのですか? あなた自身は関係ないでしょう。」
サカエ「ぼくは哀しみにくれるミズキさんを、フジさんを、多くの遺された人を、救いたい。ただ、それだけですよ。」
フシミ「私が捕まれば救える……と?」
サカエ「少しは気持ちが楽になると思っています。」
フシミ「人の落ちていく姿はまさに滑稽。それが自身の地位を貶めたものならより一層スカッとする。優越に浸る。そういうことですね。」
サカエ「そういうことじゃ……。」
フシミ「違うんですか? 下を見ることで自分はまだマシと思う。そのような苦しみを受け止めきれず上がりきれない人間の悪しき感情そのものだと思いますがね。」
サカエ「違う。」
フシミ「どうしてそう言い切れるのでしょうか。その醜い感情以外に、あなた方にとって私が捕まることのメリットはあるのでしょうかね。」
サカエは言葉につまった。
フシミ「一つ人間の心理について教えましょう。あなた方とは生まれ育った環境が違う。年齢が違う。彼女と私では性別が違う。相対的に見れば違うもの同士。」
サカエ「それがどうしたんです?」
フシミ「自身とは違う人間の粗をさがして否定することで、自分を正しくしようとしているのです。つまるところ、他人を見下すことで相対的に自身を上げる。とても排他的で愚かしい、実にくだらない行為。」
サカエ「いや、そんなんじゃ……」
フシミはその場を立ち去ろうとしていく。
フシミ「さて。私はここで失礼いたしましょう。まさかここに先客がいるとは思いませんでしたからね。」
サカエ「待って——。」
フシミはスマホを取り出して耳に当てた。
そのままながら電話をしながら去っていった。
◆
サカエ「残念ながらめぼしい情報は得られませんでした。」
ニシオ「そうか。そうなると決定打に欠けちまうな。……どうするかだな。」
サカエ「一応、フジさんには『被害者本人への意見陳述』をして貰おうと思っています。」
フジ「任せて。家族をロボットにされた生の声を届けるっす。」
そこにミズキが手を挙げた。
ミズキ「わたしもやってみる。」
サカエ「本当ですか? ありがたいですけど、心の方はもう大丈夫なんですか?」
アカイ「ああ、無理すんなよ。」
ミズキ「みんな頑張ってるのに、わたしだけなんもしないのは嫌だから。」
ニシオ「決まりだな。」
ミズキの家にアサヒがやってきた。
アサヒ「お邪魔するぜ。ニシオのおっちゃん。今日も塾やるんだろ?」
唐突な展開に二人以外が首を傾げた。
ニシオ「悪ぃな。前誘拐された中学生の子に修行をつけてくるわ。」
サカエ「それで、アサヒくんが教える側に選ばれたってわけですね。」
ニシオ「選んだのはその子だけどな。まだ半分しか能力は使えねぇが、その初期能力が少し先の未来を見通す力なんだ。」
サカエ「すごい。未来を見通す力……。」
ニシオ「んで、その未来は"地獄"だったらしいんだ。」
サカエ「地獄……?」
ニシオ「その地獄を切り抜けるためのキーパーソンが異能力カードを持つアサヒと異能力カードを持たないミズキってことが見えてるらしい。それ以上は知らねぇらしいがな。」
ミズキ「……わたし?」
サカエ(いったいこの先、何が待ち構えているというんでしょうか。)
そして、二ヶ月の月日が経ち、ついに検察審査会が開かれようとしていた。




