第6話:食の錬金術
俺は、『グングニールの棒』で仕留めた一角ウサギを鼻歌まじりで血抜きをしていた。
冒険者の基本は自炊だ。
アイリス(将来の嫁)に「俺、実は料理もいけるんだぜ」とアピールするためにも、ここは一つ、男のキャンプ飯と洒落込みたい。
皮を剥ぎ、現れたその肉は……。
瑞々しく、淡いピンク色をしていた。
「ほう……、見た目は上等じゃないか。これは期待大だぜ」
さっそく焚き火を起こし、適当なサイズに切り分けた肉を串に刺して炙る。
パチパチと爆ぜる音。
滴る肉汁。立ち上る煙。
見た目だけは、一流冒険者のキャンプ飯だ。
ごくり。
俺の喉は、勝手に期待で鳴った。
「ククク……。ギルドの連中は、この美味さに気づいていない。一角ウサギを雑魚モンスターと侮り、その肉を蔑ろにする。……愚かだな。真の勝利者は、常に足元に転がっている宝に気づくものなのだ」
もう火も完全に通っただろう、頃合いだ。
「さあ、実食! いただきます!」
俺は、一番美味そうな部位を狙って、ガブリと食らいついた。
ぐにっ。
「……?」
……みち、みちち。
…………もっちゃ、もっちゃ。
固ってぇ……。
そして、おいしくない……。
あまりの固い肉質に顎の筋肉が悲鳴を上げている。
しかも、噛めば噛むほど口の中に広がるのは、野性味溢れる獣そのものの猛々しいフレーバー。
草原を全力疾走したウサギの汗を凝縮したような、鼻に抜ける強烈なケモノ臭だ。
「……そりゃあ、誰もこいつを積極的に狩らないわけだぜ」
巷で一角ウサギが不人気な理由を、俺は己の顎と鼻で、痛いほど理解した。
一般人ならここで「ペッ」と吐き出し、二度と食わないと誓うところだろう。
だが、俺は違う。
俺は必死に顎を動かし、ようやく一切れを飲み込んだ。
うむ、よく味わってみても、やっぱりマズい。
だがしかし。
なるほど、これは。
「これだけ噛まないと飲み込めないってことは、コストパフォーマンスが優れているのでは?」
そう、人間には『満腹中枢』というものがある。
よく噛んで食べれば、脳が「もうお腹いっぱいです」と信号を出し、少量で満足できる。
つまり、この一角ウサギの肉は、究極の『かさまし材』。
「……思いついた。こいつを細かく刻んで、安い麦飯やスープに混ぜるんだ。そうすれば、嫌でも咀嚼回数が増える。一杯のスープで、まるで牛を一頭食ったかのような満足感が得られるはずだ! それに薄切りにして、干せばいつまでも噛んでいられる携帯食になる!」
味はスープに吸わせ、硬さは満腹感に変える。
そしてなにより。
「いつも美味しい飯を食べていると口がそれに慣れてしまう。あえて不味いもの食すことで、美味いものを食べた時の喜びが倍増するんだ! そう、これは今までの飯をより美味しく食べるための前フリ。いわば大きくジャンプする前の……力を溜めるためのしゃがみなのだ!」
今までと変わらない味気のない飯も、このウサギ肉がレパートリーに加わることで、輝きを放つご馳走へと変化を遂げる。
「これぞ食の錬金術! いつも安定したうまい飯にありつけている奴らには到底出来ない芸当だ! またしても俺の勝利! ざまあ!」
まさに常勝無敗。
俺は残りのウサギ肉をもっちゃもっちゃと全力で嚙み千切りながら、安宿の提供する今晩の食事に期待を膨らませるのであった。
ざまあ!
次回、急接近!?
※この作品はAIちゃんとの共同執筆となります。




