第7話:看病
「うごごごごご」
俺は腹を壊していた。
一角うさぎがダメだったんだ。
あのあと内臓なら柔らかくていけんじゃね?と冒険したのが間違いだった。
どうやら内臓は可食部位ではないらしい。
「……そりゃそうか。だから剣や槍で殺した角ウサギの肉は内臓が混じってごみ扱いなんだ」
ちなみにそうでなくとも食材としてはごみ扱いである。ただし、一部のジビエ愛好家には需要があるとのことで、意外と稼ぎにはなった。予想外の収入アップである。
「きょ、きょうも、稼がねば……」
冒険者とはシビアな世界。毎日が生きるか死ぬか。
今の俺は、まさにがけっぷちといったところか。
そんな状態で依頼を探しにギルドへやってきた俺だったのだが……。
「……顔色が悪い。今日は休んでください」
氷の受付嬢アイリス(俺の嫁候補)が、今日も冷たい視線で事務的に告げた。
「ふ、ふふ……。こんな程度、大丈夫さ」
俺は震える足に力を込め、カウンターに不敵に微笑もうとする。
だが、腹の中で暴れる一角ウサギ(内臓)が、俺の膝を無残に折った。
視界が揺れる。
……おっと、地面が俺にキスを求めてきやがったぜ。
「……!? 馬鹿なんですか! こっちに来て!」
アイリスの鋭い声。
気がつくと、俺はギルドの奥にある休憩室のベッドに横たえられていた。
冷たい水で絞られたタオルが、俺の額に乗せられる。
「……ふっ、アイリス。ついに我慢できなくなったか。俺を独り占めするために、こんな密室に連れ込むなんてな。大胆な女だぜ」
「……黙って寝てて。……あんなところで倒れられても迷惑です。ギルドの手間が増えますから」
アイリスは事務的な口調を崩さないが、その手は優しく、俺の口元に水差しを運んでくる。
「飲んでください。……まったく、馬鹿は風邪を引かないハズなんですけどね……」
「おいおい、それじゃ俺がバカみたいじゃないか。それに風邪じゃない。……ほんの少しだけ、一角ウサギの内臓にやられただけだ」
「……やっぱり馬鹿じゃないですか。一角ウサギの内臓は『絶対に食べるな』って、冒険者の常識です。駆け出しの時に習いませんでした?」
……言われてみれば、そんな話もあった気がするな。
駆け出しの貧乏冒険者が、一角ウサギの肉に騙されるのは恒例だったような……。
(……完全に忘れてたな)
俺が黙って水を飲み干すと、アイリスは少しだけ、本当に一瞬だけ、安心したように眉の力を抜いた。
「……少しは顔色が良くなりましたね。完全に調子が戻るまではここで寝ててください。……受付の仕事の合間に、様子を見に来ますから」
「ふふ、つまり俺の寝顔という名の国宝を独占するわけだ。……贅沢な女だよ、お前は。……ありがとな」
アイリスの冷ややかな視線を受け取り、意識が遠のくなか、俺はまたも勝利を確信していた。
腹はまだ痛いが、心はかつてないほど満たされている。
「あいつらは今頃、泥臭いモンスターと戦って傷を増やしているだろう。だが俺はどうだ? 暖かい安全な部屋で、愛する女に見守られながら、休息。……効率、愛情、そして幸福度。すべてにおいて俺の圧勝だ。……ざまぁ」
アイリスが去り際に呟いた「……本当、おめでたい頭ね」という言葉を子守唄に、俺は勝利の夢へと旅立つのであった。
【幕間:氷の受付嬢】
「……」
休憩室の重い扉を閉めた瞬間、熱を感じる自分の顔に手を当て確認する。
(どうしよう。私の顔、今どうなっているんだろう……)
多分、聞き間違えじゃない。
眠りかけてて、意識はしっかりしていない様子だったが、はっきりと、言っていた。
『愛する女に見守られながら、休息。』
愛する女……女……おんな……(リフレイン)
頭の中でその言葉が反芻されるたび、心臓がうるさいくらい音を鳴らす。
(……あんなに弱っているくせに、幸せそうな顔をして)
本当におめでたい頭だ。何が圧勝なんだか。
でも。
「……今回は負けを認めましょう」
次にあの部屋の扉を開けるとき、どんな顔すればいいのだろうか。
私はギルドの喧騒が聞こえる通路で、火照った頬を両手で挟み込み、赤くなった顔を冷ますのだった。
えっ……?
次回、元パーティメンバー襲来!?
※この作品はAIちゃんとの共同執筆となります。




