夢と進路相談
小鈴を交えて楽しむ夕食のひととき。
何気無い雑談から始まり、珠景姫が居た頃の思い出話で盛り上がった。
全員が箸を置く頃には、明日香の進路の話題になっていた。
「私さ、水族館で働きたいんだよね」
「高校を卒業したら、島を出るの?」
小鈴の質問に、明日香は迷うことなく頷く。
夢奥島には水族館が無いため、夢を叶えるには島を出る必要がある。
都会への憧れもある明日香にとって、故郷を離れる決断は容易だったのかもしれない。
「いつから水族館で働こうと思ったんです? この前まで、雑誌のモデルさんになるって言ってたじゃないですか」
「現実的に考えて無謀。珠景姫くらい美人だったら諦めなかった」
「完成度が桁違いですからね。今テレビで頑張っている子達ですら、相手になりません」
「あの歳のまま現代に居たら、すぐにオファー来ちゃいますよね。モデルやアイドルとして活躍する姫様も、見てみたかったです!」
珠景姫の事を楽しそうに語る色歌と小鈴を見て、明日香は微笑を浮かべる。
話題が逸れそうになったタイミングで、栄一が口を開いた。
「それで、水族館に興味を持ったきっかけはあるのかい?」
「高校の修学旅行で、初めて水族館に行ったの。元々、海の生き物が好きだったから、本当に楽しくてさ。飼育員にお仕事の内容とか聞いて、私もやってみたいって思った。辛い仕事もあるだろうけど、あの環境なら絶対頑張れる」
楽しそうに夢を語った後、明日香はどこか不機嫌そうに口を尖らせた。
「でも、お母さんには反対された。一人暮らしなんて出来るわけないって」
「お父さんは何て?」
「そもそも最近話してない……ねえ、おばあちゃんはどう思う?」
真剣な眼差しを向けられ、色歌は自分の考えを口にする。
「明日香。あなたは、自分らしく生きられる環境に生まれたんです」
今の時代に、長姫制度は無い。
戦争に勝つ為に命をかけて戦う事も無ければ、過酷な環境での苦しい生活も強いられていない。自分の意思で人生を決められる環境を、明日香は生きているのだ。
平和な世界は当たり前じゃない。
戦争が起きなくても、災害や事故によって命が奪われる事もある。
夢を叶える前に、十七歳で途絶えた人生もあるのだ。
「本気で叶えたい夢があるなら、迷わずに挑戦してください。失敗しても良い。自由に夢を追い、幸せに生きてくれたら、それで良いんです」
色歌は切ない表情で微笑む。
「それが私達の幸せだから――」
姉妹の思いが重なり、一つの声になる。
色歌の言葉を受け取ったは明日香、真剣な表情で深く頷いた。
「明日香ちゃん」
名前を呼ばれ、明日香は小鈴の方に顔を向ける。
「絶対に叶えてくださいね」
「うん。頑張る!」
「これは、夢を叶えるための魔法の言葉なんです」
一瞬、色歌の事を見た後、小鈴は笑みを浮かべた。
「私も応援していますよ。悩んだ時は、いつでも相談してください」
「おじいちゃんも明日香の味方だから、たまには頼ってね」
色歌と栄一からも応援の言葉をもらい、明日香は嬉しそうに笑う。
「絶対に叶えるからっ!」
夢と希望に満ちた表情の明日香を見て、色歌は小鈴と目を合わせて微笑む。
長姫制度を終わらせて良かった――




