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珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第7章 祖母と孫
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桜の追憶、夏空の風鈴


 夕空の下、ひぐらしの鳴き声が響き渡る。

 八月八日のお祈りには、小鈴(こすず)と二人で行って来た。


 画家の夢を叶えた事や、長姫(おさひめ)神社に桜の絵を収めた事を報告した小鈴(こすず)は、民宿までの帰り道で珍しく涙を浮かべていた。


 時が経っても、癒えない傷はある。

 色歌(いろか)以外の侍女にとっては、突然の別れだった。


 珠景姫(みかげひめ)の事が大好きで、年老いても変わらず想い続ける。

 画家の夢を叶えた小鈴(こすず)も、色歌(いろか)と同じ人生を送って来たのだろう。


小鈴(こすず)。そろそろ、ご飯出来ますよ」

 宿泊部屋に声をかけにいくと、小鈴(こすず)は荷物の整理をしていた。

「ありがとうございます。色歌(いろか)さんの手料理楽しみです!」


「普段は部屋に食事を持って来るんですけど、せっかくなので一緒に食べませんか?」

「良いんですか! 是非、お願いします」

「では、厨房の方に来てください」

「あ、色歌(いろか)さん」

 色歌(いろか)を呼び止めると、小鈴(こすず)は小さな箱を持って出てきた。


「頼まれていた風鈴です。先に渡しておこうと思って」

 個展の際に『宮殿の桜を忘れないように、何か作って欲しい』とお願いしていた。

 約束通り、今日の宿泊に合わせて作って来てくれたのだろう。

「ありがとうございます。開けても良いですか?」

 小鈴(こすず)は笑顔で頷く。

 廊下に並んで腰掛けて、箱の中から丁寧に風鈴を取り出した。 



 桜の花と金魚が描かれた水色の江戸風鈴。



 短冊には、中庭の桜のシルエットがお洒落に描かれている。

 夕陽の光を浴びて輝く風鈴は、見惚れてしまうくらい綺麗だった。


「想像以上です。本当に、もう……凄いです。家宝が増えました」

 目を輝かせる色歌(いろか)を見て、小鈴(こすず)は安堵の笑みを浮かべる。


「『中庭の桜と、姫様と過ごした夏を忘れない』それが、この風鈴に込めた思いです。お話を頂いた時は桜色の風鈴にする予定でしたが、姫様は夏が似合うので、爽やかな夏空のような水色の風鈴にしました」


 一泊置いて、 小鈴(こすず)は解説を続ける。


「風鈴に描いた夏空に舞う桜の花と、短冊に描いた中庭の桜の木。風が吹けば短冊の木が揺れて、花びらが舞うと同時に夏の音色を奏でる。この風鈴自体が、あの桜なんですよ」


 感動を伝える言葉が見つからなかった。

 幸せに満ちた表情で笑う色歌(いろか)と、満足そうに微笑む小鈴(こすず)

 中庭の桜を知る二人を、夕陽が優しく照らしていた。


「お忍びで行った夏祭りで、姫様と一緒に金魚すくいをしたので、私のサイン代わりに赤い金魚を泳がせてみました。桜の花が浮かぶ水面を金魚が悠々と泳ぐ姿は、自分らしく生きる姫様を表現しています」


「素敵な風鈴をありがとうございます。流石、姉さんが認めた才能の持ち主ですね」

「喜んでもらえて良かったです!」


「後で部屋に飾りますね。栄一(えいいち)さんと明日香(あすか)が待っているので、ご飯にしましょうか」


 箱の中に風鈴を丁寧に戻した色歌(いろか)は、小鈴(こすず)と共に厨房へと向かう。

 自室に風鈴を置いて厨房に戻ると、明日香(あすか)が料理の盛り付けをしてくれていた。

「やっと戻って来た。おばあちゃん遅いから、盛り付け終わっちゃったよ」


「仕事が減って助かります。では、食べましょうか」

「はーい。あ、小鈴(こすず)さん。私の隣に座ってください」

「うん。ありがとっ」

 栄一(えいいち)色歌(いろか)明日香(あすか)小鈴(こすず)。それぞれ並んで座り、手を合わせる。


「「「「いただきます」」」」

 小鈴(こすず)を交えて楽しむ夕食のひととき。

 何気無い雑談から始まり、珠景姫(みかげひめ)が居た頃の思い出話で盛り上がった。

 全員が箸を置く頃には、明日香(あすか)の進路の話題へ。


「私さ、水族館で働きたいんだよね」



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