祖父母と孫の日常
明日香は典型的な現代っ子だ。
世間の流行に敏感で、家にいる時はテレビや雑誌ばかり見て過ごしている。
絵に描いたような反抗期の最中で、家族のなかで普通に会話出来るのは色歌だけだ。
小さい頃から良く懐いていた事もあり、今でも色歌の話はしっかりと聞いてくれる。単に、怖くて口答え出来ないだけかもしれない。
「おばあちゃん。お待たせ」
風呂上がりの明日香は、上機嫌な表情で厨房に戻って来た。
冷蔵庫から取り出した麦茶をコップに注ぎ、夕食が並ぶダイニングテーブルへと歩いていく。そして、テレビと向き合うようにして座った。
明日香の正面には、先に来ていた栄一が座っている。
爽やかな青年だった栄一も、すっかり普通のおじいちゃんだ。
優しい所は変わっていないが、身体機能はかなり衰えてしまった。
腰と膝を悪くして以降、歩行の際は杖を使っている。
「おじいちゃん。テレビ見えないから、ちょっと避けて」
今では孫の指示に従うご老体だが、色歌を幸せにしてくれた人だ。
シワだらけになっても愛している。
「では、食べましょうか」
明日香の隣に座り、色歌は手を合わせる。
「「「いただきます」」」
色歌、栄一、明日香。
夕食はいつも三人で食べている。
弥栄は夫が帰って来てから食べるので、この時間に食べることは無い。
明日香が一緒に食事をする事を拒んでいるのも、時間をずらしている理由の一つだ。
「ねねっ、未来と過去。行けるならどっちに行く?」
「何ですか。急に」
「タイムトラベルを題材にした小説を友達に借りたんだけど、それが凄く面白かったの! だから、おばあちゃん達にも話そうと思って」
「明日香。私の事はおばあちゃんでは無く、祖母婆と呼びなさい」
「急に何!? 呼びづらいから嫌だ。拒否です」
「そうですか……」
「悲しそうにしないで。それで、話の続きだけど、二人はどっちに行きたい?」
明日香の問いかけに、栄一が先に答える。
「過去かな。もう一度、色歌の花嫁姿をこの目に焼き付けたい」
「へぇ。おばあちゃんは?」
「この歳だから、未来に行ったらお墓の中です。なので私も過去ですね」
それに。と言葉を繋げる。
「過去に戻れば、姉さんに会えますから」
色歌はどこか切なそうに微笑む。
深く頷いてくれた栄一の向こうで、テレビの音声が流れている。
耳がその音を拾い始める前に、明日香の声が届いた。
「珠景姫は、どんな人だったの?」
姉さんが最後の姫であることは、時々話をして来た。
八月八日のお祈りにも毎年連れて行っているが、どんな人物だったかを語った事はあまり無かったかもしれない。
思い出よりも、長姫制度撤廃までの歴史について教えることが多かった。
「語り始めたら長くなりますよ?」
「それでも聞きたい! 後でゆっくり聞かせてよ。写真とかも見てみたい」
「困りましたね。夜更かし確定じゃないですか」
色歌が笑みを浮かべると、明日香も『やった』と笑顔を弾けさせた。
そんな二人を見て、栄一は表情を緩めて味噌汁を飲む。
「ご飯を食べ終えたら、私の部屋に行きましょう」
「はーい」
明日香が呑気な声を漏らすと、テレビの音声も遠くから聞こえて来た。
会話が止まった厨房に、箸が奏でる音だけが響く。
これもまた、日常のひとときだ。




