表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第7章 祖母と孫
PR
54/64

祖父母と孫の日常


 明日香(あすか)は典型的な現代っ子だ。

 世間の流行に敏感で、家にいる時はテレビや雑誌ばかり見て過ごしている。


 絵に描いたような反抗期の最中で、家族のなかで普通に会話出来るのは色歌(いろか)だけだ。 

 小さい頃から良く懐いていた事もあり、今でも色歌(いろか)の話はしっかりと聞いてくれる。単に、怖くて口答え出来ないだけかもしれない。


「おばあちゃん。お待たせ」

 風呂上がりの明日香(あすか)は、上機嫌な表情で厨房に戻って来た。

 冷蔵庫から取り出した麦茶をコップに注ぎ、夕食が並ぶダイニングテーブルへと歩いていく。そして、テレビと向き合うようにして座った。

 明日香(あすか)の正面には、先に来ていた栄一(えいいち)が座っている。


 爽やかな青年だった栄一(えいいち)も、すっかり普通のおじいちゃんだ。

 優しい所は変わっていないが、身体機能はかなり衰えてしまった。

 腰と膝を悪くして以降、歩行の際は杖を使っている。


「おじいちゃん。テレビ見えないから、ちょっと避けて」

 今では孫の指示に従うご老体だが、色歌(いろか)を幸せにしてくれた人だ。

 シワだらけになっても愛している。


「では、食べましょうか」

 明日香(あすか)の隣に座り、色歌(いろか)は手を合わせる。

「「「いただきます」」」

 色歌(いろか)栄一(えいいち)明日香(あすか)

 夕食はいつも三人で食べている。


 弥栄(やえ)は夫が帰って来てから食べるので、この時間に食べることは無い。

 明日香(あすか)が一緒に食事をする事を拒んでいるのも、時間をずらしている理由の一つだ。


「ねねっ、未来と過去。行けるならどっちに行く?」

「何ですか。急に」


「タイムトラベルを題材にした小説を友達に借りたんだけど、それが凄く面白かったの! だから、おばあちゃん達にも話そうと思って」


明日香(あすか)。私の事はおばあちゃんでは無く、祖母婆(そぼばあ)と呼びなさい」 

「急に何!? 呼びづらいから嫌だ。拒否です」

「そうですか……」


「悲しそうにしないで。それで、話の続きだけど、二人はどっちに行きたい?」

 明日香(あすか)の問いかけに、栄一(えいいち)が先に答える。


「過去かな。もう一度、色歌(いろか)の花嫁姿をこの目に焼き付けたい」

「へぇ。おばあちゃんは?」


「この歳だから、未来に行ったらお墓の中です。なので私も過去ですね」

 それに。と言葉を繋げる。


「過去に戻れば、姉さんに会えますから」


 色歌(いろか)はどこか切なそうに微笑む。

 深く頷いてくれた栄一(えいいち)の向こうで、テレビの音声が流れている。

 耳がその音を拾い始める前に、明日香(あすか)の声が届いた。


珠景姫(みかげひめ)は、どんな人だったの?」


 姉さんが最後の姫であることは、時々話をして来た。

 八月八日のお祈りにも毎年連れて行っているが、どんな人物だったかを語った事はあまり無かったかもしれない。

 思い出よりも、長姫制度(おさひめせいど)撤廃までの歴史について教えることが多かった。


「語り始めたら長くなりますよ?」

「それでも聞きたい! 後でゆっくり聞かせてよ。写真とかも見てみたい」

「困りましたね。夜更かし確定じゃないですか」

 色歌(いろか)が笑みを浮かべると、明日香(あすか)も『やった』と笑顔を弾けさせた。

 そんな二人を見て、栄一(えいいち)は表情を緩めて味噌汁を飲む。


「ご飯を食べ終えたら、私の部屋に行きましょう」

「はーい」

 明日香(あすか)が呑気な声を漏らすと、テレビの音声も遠くから聞こえて来た。

 会話が止まった厨房に、箸が奏でる音だけが響く。

 これもまた、日常のひとときだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ