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珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第1章 十四歳の春、日常の景色
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彩美家の双子姉妹

 

 今度は彩美家(あやみ け)の双子姉妹の元へ。

 きっと、夕食を済ませ、二人で仲良く遊んでいる頃だろう。

 双子姉妹の部屋の前に立ち、障子越しに声をかける。


小春(こはる)小鈴(こすず)。入っても良いですか?」

 畳を歩く小さな足音が近づいてくると、勢い良く障子が開いた。

 そして、お揃いの髪飾りをした二人の女の子が姿を現す。


色歌(いろか)さん」「色歌(いろか)さん!」


  落ち着いた声と、明るく元気な声が重なった。

「二人に話したいことがあるので、一旦座りましょうか」

 色歌(いろか)の言葉に頷いた二人は、すぐに姿勢を正して座った。

 向き合うようにして、色歌(いろか)も腰を下ろす。

 どこか緊張した表情で座る彩美家(あやみ け)の双子姉妹は、まだ十歳の侍女見習いだ。

 宮殿に住みながら、立派な侍女になる為の勉強を続けて来た。

 その努力の成果を発揮する日が、ようやく二人に訪れる。

小春(こはる)小鈴(こすず)

「「はい」」


「明日から二人には、姉さんの主たる侍女になってもらいます」


 ついに告げられた侍女への昇格。

 驚きと困惑が入り混じる表情で、二人は本音を吐露する。

「明日からですか……?」

「き、緊張します」

 不安の色が滲む瞳が、色歌(いろか)を見つめている。


「明日の朝、侍女昇格の挨拶に行くので、自己紹介の練習をしておきましょう。私が珠景姫(みかげひめ)だと思って、改めて自己紹介してみてください」


 小春(こはる)小鈴(こすず)の順に色歌(いろか)は視線を動かす。

 それぞれが小さく頷いた事を確認した色歌(いろか)は、珠景姫(みかげひめ)を意識して姿勢を正す。

「良いですか? では、始めます」

 色歌(いろか)は口を閉ざし、手で二人に合図を送る。

 すると、小春(こはる)が先に声を出した。


「姉の彩美小春(あやみ こはる)と申します。よろしくお願いします」

 小春(こはる)は編み込んだ茶髪を一つ結びにしていて、肩の前に流している。

 茜色の着物に、丈の短い緑の袴風スカートを合わせ、黒のタイツを履いている。

 綺麗な顔立ちと、落ち着いた表情は大人っぽい印象を与えてくれるが、まだ十歳の子供だ。大人になる頃には、珠景姫(みかげひめ)のように容姿端麗な美しい女性になるだろう。

 小春(こはる)が一礼したのを確認して、小鈴(こすず)も口を開いた。


彩美小鈴(あやみ こすず)、十歳です。よろしくお願いします!」

 頭を下げたことで、三つ編みにした茶髪のおさげが揺れた。

 小春(こはる)と同様に丈の短い袴スカートを着ているが、タイツではなく黒のハイソックスを履いている。小春(こはる)と真逆で、緑の着物に茜色の袴風スカートという着合わせだ。

 大人っぽい小春(こはる)とは対照的に、小鈴(こすず)は幼い顔立ちをしている。

 お揃いの椿の髪飾りを付ける姿も魅力的で可愛らしい。

 自己紹介を終えた二人を見て、色歌(いろか)は微笑む。


「良い感じですね。では、明日からよろしくお願いします」

 部屋を去ろうとする色歌(いろか)に、小春(こはる)小鈴(こすず)は慌てて駆け寄った。

 そして、今にも泣きそうな表情で訴えかける。

「あの、色歌(いろか)さん。本当に明日からですか?」

「無理ですよ! 絶対怒られます」

「まだ……私達には……」

「……二人じゃ、出来ないですよ……」

 不安な思いを吐露する二人は、言葉の途中で泣き出してしまった。

 静かに泣く小春(こはる)と、声を出して泣く小鈴(こすず)

 小さな二人を抱きしめて、優しい声で告げる。


「大丈夫です。私も一緒ですから」

 腕の中から安堵の吐息が聞こえた。

 小春(こはる)小鈴(こすず)の背中をさすりながら、今度は元気に声をかける。

「三人で成長していこっ!」

 普段意識している丁寧な話し方ではなく、本来の素直な喋り方で伝えた想い。

 二人の心に少しでも届いて欲しくて、色歌(いろか)は強く抱きしめる。


 珠景姫(みかげひめ)の為に押し進めた配置転換。

 侍女達にとって人生の岐路になる事を、私は見落としていたのかもしれない。

 大切な人を思い過ぎて、大切な事に気づけなかった。

 進んでしまった以上、後戻りは出来ない。

 改革を企てた者として、背負うべき責任を果たそう。

 それが今の色歌(いろか)に出来る唯一の償いだから。

 二人の心が落ち着くまで、色歌(いろか)は双子姉妹の背中をさすり続けた。

 ごめんね。と囁きながら。




 桜色に染まる世界を、太陽が明るく照らし出す。

 侍女昇格の日を迎えた宮殿は、朝の静けさに包まれていた。

 双子姉妹を連れて、色歌(いろか)珠景姫(みかげひめ)の部屋へと向かう。

「おはようございます。色歌(いろか)です。入ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「失礼します」

 姫と侍女の立場で会話する姿を見て、小春(こはる)小鈴(こすず)の表情にも緊張が走る。

 部屋の中に入ると、身なりを整えた珠景姫(みかげひめ)が凛々しい表情で座っていた。

 一歩前に出て色歌(いろか)が正座すると、後ろで双子姉妹も同じように座った。


「本日より、彩美家(あやみ け)の双子姉妹がお仕えいたします。何なりとお申し付けください」


 珠景姫(みかげひめ)に一礼した色歌(いろか)は、場所を入れ替えるように双子姉妹の後ろへと移動する。

 そして、少し前に出た二人の小さな背中を見つめる。

「姉の彩美小春(あやみ こはる)と申します。よろしくお願いします」

彩美小鈴(あやみ こすず)、十歳です。よ、よろしくお願いします!」

 昨日の練習通り、二人は改めて自己紹介を済ませた。それぞれが一礼した後、今度は珠景姫(みかげひめ)が口を開く。


「まだまだ未熟な姫ですが、どうぞよろしくお願いします」


 珠景姫(みかげひめ)が深々と頭を下げると、小春(こはる)小鈴(こすず)も慌てて頭を下げた。

「それと」

「「……?」」

 次の言葉を待つ二人に、珠景姫(みかげひめ)は優しく微笑んで告げる。


「堅苦しい関係は嫌だからさ、もっと気軽に接して欲しいな。一緒に食事したり、立場を忘れて遊んだり。お互いに楽しい時間を忘れて遊んだり。お互いに、楽しい時間を過ごせたら嬉しいなって」


 珠景姫(みかげひめ)の提案に、二人は顔を見合わせてから、ホッとしたように笑みを浮かべた。

「「はい!」」

「私も仲間に入れて欲しいんですけど……」

 色歌(いろか)は寂しそうな声を作って、三人の方へ手を伸ばす。

 緊張感の無い色歌(いろか)の行動に、珠景姫(みかげひめ)もふふっと笑った。

 和やかな空気が部屋に広がっていく。

 いつになく穏やかな表情の珠景姫(みかげひめ)を見て、色歌(いろか)は安堵の笑みを浮かべた。 


このエピソードを、

珠景姫 視点で楽しみたい方はこちら↓

『 珠景姫 Mikage hime 』:侍女の配置転換

https://ncode.syosetu.com/n2627jv/25/


珠景姫Mikagehime ⇔ 珠景色の春風鈴

✼••┈┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈┈••✼

どちらから読んでも楽しめる物語


❀ 春風鈴→珠景姫(時系列順)

❀ 珠景姫→春風鈴(神島家の姉妹を深く知る)

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