夏の夕陽を想う五色の花
夕陽の光を浴びる桜は、綺麗に輝いていた。
中庭の中心で咲く桜の前に並び、自然な笑顔を見せる五人の女性達。
神島色歌。
彩美小春。彩美小鈴。
侍屋敷風瑚。侍屋敷舞風。
珠景姫の侍女として生きた五人は、それぞれの道を歩み始める。
だから、最後に記念撮影をしておきたかった。
あの頃の姿を写真に残したくて、侍女だった時の服装で集合している。
「では、撮りますよ! 皆さん、笑顔でこっちを見てくださーい」
写真家に声をかけられ、侍女達はカメラの方に顔を向ける。
いつかの日常が、そこにはあった。
この光景は、もう二度と見られない。
桜と笑顔が咲く春に撮った一枚の写真。
特別な一瞬が過去になり、大切な思い出に姿を変える。
「はい! これで終わりになります」
カメラの横に立ち、写真家は一礼した。
感謝を込めて、色歌達も深く頭を下げる。
記念撮影が終わると、色歌に視線が集まった。
「改めて、結婚おめでとう」
最初に口を開いたのは、風瑚だった。
「今まで苦労した分、これからは幸せに生きて」
「ありがとうございます。風瑚さんも、自由に生きてくださいね」
「そうする。私は一人で生きる方が楽だから、今の暮らしを続けていくよ」
風瑚は清々しい表情で話した後、色歌を見て微笑む。
「またね。色歌」
「今までお世話になりました。どうか、これからもお元気で」
お別れの言葉を伝えると、風瑚は色歌の事を抱きしめてくれた。
初めて感じる風瑚の温もり。
離れてしまうのが惜しくて、色歌はぎゅっと抱きしめ返す。
「大丈夫。また会えるから」
色歌に優しく声をかけた風瑚は、ゆっくりと抱擁を解いた。
顔を隠すように背を向けると、風瑚は中庭の入口の方へ歩き出す。
「私はこれで終わり。先に行ってるね」
「うん。ゆっくり歩いてて」
遠のく風瑚の背中に、舞風が言葉を返す。
この流れも、どこか懐かしい。
舞風とゆっくり話す時間は、いつも風瑚が去った後に訪れる。
「色ちゃんも、ついに結婚かぁ」
感慨深そうに呟き、舞風は色歌をそっと抱きしめる。
母の温もりに似た安心感を与えてくれる舞風を、色歌もぎゅーっと抱きしめた。
「舞風さんは、お母さんみたい」
子供のように本音を吐露した色歌に、舞風は穏やかな声で告げる。
「ふふっ。実はね。もうすぐお母さんになるの」
「えっ!」
抱擁を解き、色歌は舞風に目を向ける。
舞風はお腹を優しくさすると、『本当だよ』と幸せそうに笑った。
まさかの報告に、近くで待機していた小春と小鈴も驚いている。
「あ、風ちゃんには内緒ね!」
「まだ伝えていないんですか?」
「いざ報告しようと思うと、なんか緊張しちゃってねぇ。いずれちゃんと伝えるつもりだけど、まだまだ出来なそう」
ふと思う。
長姫制度が撤廃されていなければ、舞風の子供が次の姫になっていたかもしれない。
その事実に気づいた瞬間、珠景姫の命が報われた気がして胸が熱くなった。
『――私はこの命で未来の子供に自由を与えたい』
姉さんの言葉が心に重く響き渡る。
あの頃はまだ分からなかった。
次の姫は、色歌達の世代の子供が対象となる。
珠景姫。風瑚。舞風。小春。小鈴。
五人の誰かが最初に産んだ女の子が、姫の宿命を背負う事になるのだ。
大切な人の子供が苦しむ未来は、私も見たくない。
全てが終わった今だからこそ、素直にそう思えた。
「いつか、この子を連れて遊びに来るね」
「また会える日を楽しみにしています。どうか、お元気で」
「堅いなぁ。色ちゃん、またねっ!」
笑顔で手を振る舞風に、色歌も手を振りかえす。
「栄一君と、末長くお幸せに!」
舞風は大きな声で思いを伝えると、風瑚を追いかけるように歩いて行った。
侍屋敷家の二人は、島の反対側にある夢岬という地区に住んでいる。
今日はの色歌結婚式に参加する為、わざわざ帰郷してくれたのだ。
これから政風と共に、帰路に着くだろう。
残された色歌は、順番を待っていた小春と小鈴に目を向ける。
すると、先に小春が駆け寄って来た。




