小さな恋の終着点
長姫神社で行われた最後の結婚式は、無事に終了した。
斎主を務めた扇寿朗に感謝を告げ、色歌と栄一は長姫神社を後にする。
結婚披露宴は行わない為、社殿からの退場と共に解散となった。
この後は宮殿の中庭へと向かい、珠景姫の侍女五人で記念撮影をする予定だ。
二人は他愛も無い話をしながら、宮殿へと続く坂道を歩いていく。
すると、宮殿の前に一人の少年が立っていた。
見覚えのある少年に、色歌は声をかける。
「小汰郎?」
「おう」
名前を呼ばれ、小汰郎はどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。
以前会った時よりも背が伸びていて、顔も少しだけ大人びていた。
彩美家特有の茶髪と色白な肌だけは、あの頃と変わっていない。
「先行ってるね」
栄一は一言だけ残すと、宮殿の中へと入って行った。
二人で話す時間を作ってくれた栄一にお辞儀した小汰郎は、色歌に目を向ける。
「結婚おめでとう。色歌」
「ありがとうございます」
嬉しそうに微笑んだ色歌は、成長した小汰郎の顔を見る。
小汰郎の瞳は、どこか切なげに揺れていた。
「あっ。もしかして、寂しいですか?」
揶揄うように声をかけると、小汰郎は笑みを浮かべた。
そして、色歌を見つめて呟く。
「別に。好きだっただけだよ――」
春の穏やかな風が、色歌の髪を優しく靡かせる。
返す言葉が無い色歌を見て、小汰郎は視線を逸らしながら言葉を足す。
「お前が初めて屋敷に来た時……一目惚れしたんだよ」
小汰郎と初めて会ったのは、色歌が十五歳になったばかりの頃。十歳に満たない小汰郎は、少し生意気な子供だった。
あの時から好意を持たれていたとは思わず、色歌は目を丸くする。
「私、可愛いですもんね」
「自分で言うなよ」
微笑を浮かべる小汰郎に、色歌は意地悪な質問を投げかける。
「もし私が結婚していなかったら、告白してくれたんですか?」
「あ、当たり前だろっ。好きなんだから、そりゃ……おう」
「でも、私達は家柄的に付き合えませんよ?」
「いつの時代の話してんだよ」
「え?」
「長姫制度が無い今、御三家はただの名家になった。その家の当主が許せば、どんな家の奴とも結婚出来るだろ」
納得した表情で頷き、 色歌は穏やかな表情を浮かべる。
「産まれるのがもう少し早ければ、私と付き合えたかもしれませんね」
「産まれた時点で振られてたか」
「生まれ変わったら、また告白してください」
「勘弁してくれ。生まれ変わっても、お前を好きになるとは限らないからな」
一息ついた小汰郎は、遠くを見つめて告げる。
「いつか、お互いの子孫が結婚する日が来ればそれで良い。未来の恋に期待するよ」
思いを語り終えた小汰郎は、色歌に視線を戻す。
「じゃあな。幸せになれよ――」
最後に清々しい笑顔を見せた小汰郎は、どこかへ走り去ってしまった。
違う道に進む友の背中に手を振って、色歌は『またね』と呟く。
もしも、小汰郎の願いが叶うのなら。
珠景姫が夢見た世界で、凪いだ水面のように穏やかな恋愛をして、幸せな物語をつむいで欲しい。
未来の子供達に、色歌も希望を抱いてみた。
儚く散っても、桜はまた咲くから――




