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珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第6章 新しい時代の幕開け
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小さな恋の終着点


 長姫(おさひめ)神社で行われた最後の結婚式は、無事に終了した。

 斎主を務めた扇寿朗(せんじゅろう)に感謝を告げ、色歌(いろか)栄一(えいいち)長姫(おさひめ)神社を後にする。


 結婚披露宴は行わない為、社殿からの退場と共に解散となった。

 この後は宮殿の中庭へと向かい、珠景姫(みかげひめ)の侍女五人で記念撮影をする予定だ。

 二人は他愛も無い話をしながら、宮殿へと続く坂道を歩いていく。


 すると、宮殿の前に一人の少年が立っていた。

 見覚えのある少年に、色歌(いろか)は声をかける。

小汰郎(こたろう)?」

「おう」

 名前を呼ばれ、小汰郎(こたろう)はどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。


 以前会った時よりも背が伸びていて、顔も少しだけ大人びていた。

 彩美家(あやみ け)特有の茶髪と色白な肌だけは、あの頃と変わっていない。


「先行ってるね」

 栄一(えいいち)は一言だけ残すと、宮殿の中へと入って行った。

 二人で話す時間を作ってくれた栄一(えいいち)にお辞儀した小汰郎(こたろう)は、色歌(いろか)に目を向ける。


「結婚おめでとう。色歌(いろか)

「ありがとうございます」

 嬉しそうに微笑んだ色歌(いろか)は、成長した小汰郎(こたろう)の顔を見る。

 小汰郎(こたろう)の瞳は、どこか切なげに揺れていた。

「あっ。もしかして、寂しいですか?」

 揶揄うように声をかけると、小汰郎(こたろう)は笑みを浮かべた。

 そして、色歌(いろか)を見つめて呟く。


「別に。好きだっただけだよ――」


 春の穏やかな風が、色歌(いろか)の髪を優しく靡かせる。

 返す言葉が無い色歌(いろか)を見て、小汰郎(こたろう)は視線を逸らしながら言葉を足す。


「お前が初めて屋敷に来た時……一目惚れしたんだよ」

 小汰郎(こたろう)と初めて会ったのは、色歌(いろか)が十五歳になったばかりの頃。十歳に満たない小汰郎(こたろう)は、少し生意気な子供だった。

 あの時から好意を持たれていたとは思わず、色歌(いろか)は目を丸くする。


「私、可愛いですもんね」

「自分で言うなよ」

 微笑を浮かべる小汰郎(こたろう)に、色歌(いろか)は意地悪な質問を投げかける。

「もし私が結婚していなかったら、告白してくれたんですか?」

「あ、当たり前だろっ。好きなんだから、そりゃ……おう」

「でも、私達は家柄的に付き合えませんよ?」

「いつの時代の話してんだよ」

「え?」


長姫制度(おさひめせいど)が無い今、御三家はただの名家になった。その家の当主が許せば、どんな家の奴とも結婚出来るだろ」


 納得した表情で頷き、 色歌(いろか)は穏やかな表情を浮かべる。

「産まれるのがもう少し早ければ、私と付き合えたかもしれませんね」


「産まれた時点で振られてたか」

「生まれ変わったら、また告白してください」

「勘弁してくれ。生まれ変わっても、お前を好きになるとは限らないからな」

 一息ついた小汰郎(こたろう)は、遠くを見つめて告げる。


「いつか、お互いの子孫が結婚する日が来ればそれで良い。未来の恋に期待するよ」

 思いを語り終えた小汰郎(こたろう)は、色歌(いろか)に視線を戻す。


「じゃあな。幸せになれよ――」

 最後に清々しい笑顔を見せた小汰郎(こたろう)は、どこかへ走り去ってしまった。

 違う道に進む友の背中に手を振って、色歌(いろか)は『またね』と呟く。


 もしも、小汰郎(こたろう)の願いが叶うのなら。

 珠景姫(みかげひめ)が夢見た世界で、凪いだ水面のように穏やかな恋愛をして、幸せな物語をつむいで欲しい。


 未来の子供達に、色歌(いろか)も希望を抱いてみた。

 儚く散っても、桜はまた咲くから――


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