婚礼の儀
新しい風が吹けば、咲き誇った時代も儚く散っていく。
長姫制度の撤廃に伴い、長姫神社も役割を失った。
いずれこの場所も、過去の遺産となるのだろう。
だから最後に、大切な思い出を残しておきたい。
そんな色歌の願いにより、結婚式は長姫神社で行われた。
長姫以外の女性がこの場所で結婚を誓うのは初めてで、長姫神社で婚礼の儀式が行われるのも咲月姫以来の事らしい。
祖父であり、宮司でもある扇寿朗が斎主を務め、修祓の儀や祝詞奏上が行われた。
そして、三献の儀へ。
夫婦の契りを交わす為に、同じ杯でお神酒を飲み交わす。
三々九度とも呼ばれる誓いの儀式であり、大中小の盃を順番に口にした。
「ついに、色歌も結婚するんじゃな……」
斎主として式の進行を務めていた扇寿朗が、祖父の顔を覗かせる。
お神酒を飲んだ色歌は、扇寿朗を見て優しく微笑んだ。
「ふぉっ……綺麗じゃ、本当に、綺麗じゃ……」
扇寿朗の目から涙が溢れ落ちる。
しわしわの手で顔を押さえ、扇寿朗は泣き出した。
「祖父爺」
契りを交わした色歌は扇寿朗へと歩み寄り、優しく抱きしめた。
島に残る唯一の血縁者であり、色歌が悩みを吐露出来る環境を作ってくれた恩人だ。
今日までの成長を見守ってくれた扇寿朗には、感謝しかない。
「泣かないでください。綺麗な花嫁姿が、ぼやけて見えなくなりますよ」
「そうじゃな。すまぬの」
色歌が離れると、扇寿朗は涙を拭って呼吸を整えた。
そして、新郎新婦と参列者に深々と頭を下げる。
後方に座る参列者に、色歌も目を向けた。
彩美小春。彩美小鈴。
侍屋敷風瑚。侍屋敷舞風。
彩美成水。彩美小汰郎。侍屋敷政風。
御三家の付き人。宮殿関係者。栄一の両親。
呉服屋の娘。お面職人。
あの夏以降、色歌を支えてくれた人達が集まっていた。
栄一の隣に戻った色歌は、そっと目を閉じる。
ここに、色歌を産んでくれた咲月姫は居ない。
大好きな珠景姫の姿も見当たらない。
同じ血が流れる大切な家族は、もうこの世界で生きていないのだ。
だから、神様を通じて、色歌の思いを届ける事にした。
母さん。姉さん。
今日、私は結婚します。
お相手は、昔から思いを寄せていた佐藤栄一さんです。
長姫制度の撤廃が決定した頃から三年程お付き合いさせて頂き、この度結婚する事となりました。これからは二人で、幸せな家庭を築いていこうと思います。
どうか、温かく見守っていてください。
二人にも私の花嫁姿を見て欲しかったな。
母さんみたいに可愛くて、姉さんみたいに綺麗な女性に育ったんですよ。
また改めて、結婚報告に行きますね。
菩提寺と御神体。それぞれの場所で待っていてください。
母さん。私を産んでくれてありがとう。
姉さん。幸せな未来を作ってくれてありがとう。
幸せになるね!
ゆっくりと目を開ける。
そして、隣に座る栄一の方を見た。
新しい家族と過ごす日々は、色歌の人生を豊かなものにしてくれるはずだ。
小さな幸せを大切にしながら、最期を迎える日まで思い出を描き足していきたい。
珠景姫が夢見た世界で、私は生きていく。
姉さんに誓った約束を叶える日まで――




