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珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第6章 新しい時代の幕開け
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婚礼の儀


 新しい風が吹けば、咲き誇った時代も儚く散っていく。

 長姫制度(おさひめせいど)の撤廃に伴い、長姫(おさひめ)神社も役割を失った。


 いずれこの場所も、過去の遺産となるのだろう。

 だから最後に、大切な思い出を残しておきたい。

 そんな色歌(いろか)の願いにより、結婚式は長姫(おさひめ)神社で行われた。


 長姫(おさひめ)以外の女性がこの場所で結婚を誓うのは初めてで、長姫(おさひめ)神社で婚礼の儀式が行われるのも咲月姫(さつきひめ)以来の事らしい。

 祖父であり、宮司でもある扇寿朗(せんじゅろう)が斎主を務め、修祓の儀や祝詞奏上が行われた。


 そして、三献の儀へ。

 夫婦の契りを交わす為に、同じ杯でお神酒を飲み交わす。

 三々九度とも呼ばれる誓いの儀式であり、大中小の盃を順番に口にした。


「ついに、色歌(いろか)も結婚するんじゃな……」

 斎主として式の進行を務めていた扇寿朗(せんじゅろう)が、祖父の顔を覗かせる。

 お神酒を飲んだ色歌(いろか)は、扇寿朗(せんじゅろう)を見て優しく微笑んだ。


「ふぉっ……綺麗じゃ、本当に、綺麗じゃ……」

 扇寿朗(せんじゅろう)の目から涙が溢れ落ちる。

 しわしわの手で顔を押さえ、扇寿朗(せんじゅろう)は泣き出した。


祖父爺(そふじい)

 契りを交わした色歌(いろか)扇寿朗(せんじゅろう)へと歩み寄り、優しく抱きしめた。


 島に残る唯一の血縁者であり、色歌(いろか)が悩みを吐露出来る環境を作ってくれた恩人だ。

 今日までの成長を見守ってくれた扇寿朗(せんじゅろう)には、感謝しかない。


「泣かないでください。綺麗な花嫁姿が、ぼやけて見えなくなりますよ」

「そうじゃな。すまぬの」

 色歌(いろか)が離れると、扇寿朗(せんじゅろう)は涙を拭って呼吸を整えた。

 そして、新郎新婦と参列者に深々と頭を下げる。

 後方に座る参列者に、色歌(いろか)も目を向けた。


 彩美小春(あやみ こはる)。彩美小鈴(こすず)

 侍屋敷(さむらいやしき)風瑚(ふうこ)。侍屋敷舞風(まいかぜ)

 彩美成水(なるみず)。彩美小汰郎(こたろう)。侍屋敷政風(まさかぜ)

 御三家の付き人。宮殿関係者。栄一(えいいち)の両親。

 呉服屋の娘。お面職人。


 あの夏以降、色歌(いろか)を支えてくれた人達が集まっていた。

 栄一(えいいち)の隣に戻った色歌(いろか)は、そっと目を閉じる。 


 ここに、色歌(いろか)を産んでくれた咲月姫(さつきひめ)は居ない。

 大好きな珠景姫(みかげひめ)の姿も見当たらない。


 同じ血が流れる大切な家族は、もうこの世界で生きていないのだ。

 だから、神様を通じて、色歌(いろか)の思いを届ける事にした。



 母さん。姉さん。

 今日、私は結婚します。

 お相手は、昔から思いを寄せていた佐藤栄一(えいいち)さんです。


 長姫制度(おさひめせいど)の撤廃が決定した頃から三年程お付き合いさせて頂き、この度結婚する事となりました。これからは二人で、幸せな家庭を築いていこうと思います。

 どうか、温かく見守っていてください。


 二人にも私の花嫁姿を見て欲しかったな。

 母さんみたいに可愛くて、姉さんみたいに綺麗な女性に育ったんですよ。

 また改めて、結婚報告に行きますね。

 菩提寺と御神体。それぞれの場所で待っていてください。


 母さん。私を産んでくれてありがとう。

 姉さん。幸せな未来を作ってくれてありがとう。

 幸せになるね!



 ゆっくりと目を開ける。

 そして、隣に座る栄一(えいいち)の方を見た。

 新しい家族と過ごす日々は、色歌(いろか)の人生を豊かなものにしてくれるはずだ。


 小さな幸せを大切にしながら、最期を迎える日まで思い出を描き足していきたい。

 珠景姫(みかげひめ)が夢見た世界で、私は生きていく。

 姉さんに誓った約束を叶える日まで――



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