桜色の世界で貴方と
珠景姫の夢が現実になる。
長姫制度の撤廃が宣言された。
千年以上続いた文化に終止符が打たれ、姫奥島の歴史が幕を閉じる。
撤廃宣言に伴い、姫奥島は『夢奥島』と名称が変更された。
夢を追って自分らしく生きられる島へ。
夢奥島という名前には、そんな願いが込められている。
元号も『大正』から『昭和』へと変わり、国全体が新しい時代を迎えていた。
二十歳で迎えた春。
珠景姫が夢見た世界を、色歌は生きていた。
桜色の花びらが青空を舞う。
人生の門出を祝うように、中庭の桜は満開に咲き誇っていた。
写真家が構えるカメラの前に立ち、色歌は幸せそうに微笑む。
「撮りますよぉ! …… 栄一殿。もっと笑ってください」
写真家の人に声をかけられて、色歌は隣に立つ爽やかな青年に目を向ける。
黒五つ紋付羽織袴を着た栄一は、緊張した表情で固まっていた。
「栄一さん。私を見てください」
栄一の視線が自分に向いた瞬間、色歌は無邪気な笑顔で問いかけた。
「今日の私、可愛いですか?」
白無垢を身に纏った色歌の姿を見た後、栄一は困ったように目を逸らした。
そして、誰も居ない場所を見て告げる。
「うん。可愛いよ」
「そっちに可愛い人は居ませんよ」
「……あはは。そうだよね」
栄一は色歌に視線を戻すと、どこか照れた表情で言い直す。
「綺麗だよ。色歌」
真っ直ぐな目で見つめられ、今度は色歌が目を逸らす。
「あ、ありがとうございますっ」
頬を桜色に染め、色歌は照れ笑いを浮かべる。
二人の間は少しだけ空いていて、もどかしい距離が生まれていた。
色歌は笑みを浮かべると、照れたまま固まる栄一を引き寄せて腕を組んだ。
距離を縮めた色歌は、写真家に声をかける。
「お願いします!」
「では撮りますよ。笑顔でこっちを見てくださーい」
二十歳の色歌と、二十三歳の栄一。
今日から二人は夫婦になる。
幸せな一瞬を切り取るように、写真家はカメラのシャッターを切った。
桜色に染まる景色の中で撮った記念写真。
自然な表情で笑う二人の姿は、絵になるくらい綺麗だった。
淡い桜の花びらが、春の優しい風と戯れる。
母と姉。大切な家族と過ごした日のように――




