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珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第5章 十七歳の目に映る景色
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最後の御三家会議

 

「では、最後の御三家会議を始めようと思います」


 成水(なるみず)の一言で場の空気が整った。


「まずは長姫制度(おさひめせいど)について話しましょうか。色歌(いろか)、あなたの考えを聞かせてください。神島家の代表として、姫様や侍女達の意見を教えてくれると助かります」


 呼吸を整えてから、色歌(いろか)は揺るがない思いを語り出した。


「私は、侍女達と共に『珠景姫(みかげひめ)が夢見た世界』を実現したいと考えています。長姫制度(おさひめせいど)を撤廃して、立場や性別で苦しむ時代を終わらせたい。誰もが夢を追える環境と、多様性が認められる社会の実現を目指したいです」


 成水(なるみず)政風(まさかぜ)は真剣な表情で、話を聞いてくれている。

 ここに神島家の元当主が居たら、話の途中で考えを否定されていたはずだ。

 でも、邪魔者はもう居ない。だから、自分らしく思いを伝えよう。


「姉さんは、誰よりも長姫制度(おさひめせいど)の無い世界を望んでいました。姫という立場に縛られず、自由に生きられる日々を夢見ていたんです。でも、十七歳で長姫(おさひめ)の昇格する事になって、淡い希望さえも打ち砕かれました」


 あの夏の記憶を辿りながら、珠景姫(みかげひめ)と過ごした時間を言葉に変えていく。


「生き地獄が続くくらいなら、自分の命を使って未来の子供達に自由を与えたい。そう思った姉さんは、私にだけ打ち明けてくれたんです。『私が長姫制度(おさひめせいど)を終わらせる』って」


 そして、八月八日を迎えた。

 十七歳の誕生日が命日となり、珠景姫(みかげひめ)の人生は終わってしまう。


「島が文化の転換期を迎えるきっかけを作る為に、姉さんは自ら命を絶ちました。結婚と妊娠を強要される前にこの世を去り、長姫(おさひめ)と次の姫が不在という状況を作り出す為です」


 珠景姫(みかげひめ)の思惑通り、次の姫は決まらなかった。

 ここまでは計算通りだったが、現実の壁にぶつかってしまう。


「御三家に対する不信感や、既存の文化に対する懐疑心を島民が抱けば、長姫制度(おさひめせいど)に対する問題意識が広がると思っていました。島民が動き出せば、文化の転換期もやって来る。そう信じていたのに、何も起こらなかったんです……私は三年の時間を無駄にしました」


 一呼吸を置いて、色歌(いろか)は顔を上げる。


「それでも前に進みたくて、島民の声を聞く旅に出たんです。そこで思い知りました…… 長姫制度(おさひめせいど)に縛られていたのは私達だけで、変わらなきゃいけないのも私達の方だと――」


 色歌(いろか)は旅で得た島民の意見を、成水(なるみず)政風(まさかぜ)に伝える。



『覚えていない』

『娘を失ったようで辛かった。珠景姫(みかげひめ)の思いを尊重したい』

『正直、どうでも良い。興味が無い』

『お前らの事を考えるだけ無駄』

『そんな事より、島民の暮らしを考えてちょうだい』

咲月姫(さつきひめ)の娘が時代を変えようとしたのなら、その思いくらいは尊重してやる』

『これから生まれる子供達が可哀想』

長姫制度(おさひめせいど)が無くても、多くの島民は変わらずに生活していける』

『お前らの地区だけだぞ。長姫制度(おさひめせいど)なんて、咲月姫(さつきひめ)の死と同時に終わったろ』

珠景姫(みかげひめ)って誰?』

『時代に取り残されたお前らが、今更何を変えるんだ』

長姫(おさひめ)になっただけで、珠景姫(みかげひめ)は何もしていないでしょ』

長姫制度(おさひめせいど)は必要ない。もう終わらせるべきだ』



 多種多様な意見を貰い、旅の途中で気づいてしまった。

 珠景姫(みかげひめ)が作ってくれたきっかけは、島民の心を動かす事が目的じゃない。

 時代の変革を恐れていた御三家に現実を突きつけ、前に進ませる為のものだと。


「御三家が長姫制度(おさひめせいど)の撤廃を宣言して、本州や海外の文化を積極的に受け入れる体制を整えれば、新しい時代を迎えられるんです。歴史に縛られて生きるのは、もう終わりにしませんか? 私達は『珠景姫(みかげひめ)が夢見た世界』で暮らしたいです」


 これは珠景姫(みかげひめ)と、五人の侍女の願いだ。

 素直な思いを語った色歌(いろか)は、成水(なるみず)政風(まさかぜ)の目を見てから深々と頭を下げた。


「ありがとう。色歌(いろか)

 成水(なるみず)に優しく声をかけられて、色歌(いろか)はゆっくりと顔を上げる。




長姫制度(おさひめせいど)は終わりにしましょう」




 世界から音が消えた。

 涙が溢れ、頬を伝っていく。


「良く頑張ったな」

 会議が始まってから一言も喋っていなかった政風(まさかぜ)が、ようやく口を開いた。

 労いの言葉が心に重く響き渡る。


「はい……ありがとう、ございますっ……」

 涙を拭い、色歌(いろか)は笑みを浮かべた。

 成水(なるみず)は穏やかな表情で色歌(いろか)を見つめ、優しい口調で語りかける。


珠景姫(みかげひめ)を失った日から、私達も現実と向き合い続けて来ました。長姫(おさひめ)と姫が不在の状況に頭を悩ませ、大扇(だいせん)殿の愚行に手を焼き、前に進めない日々に苦しみました。三年の時を無駄にしたのは私達も同じです」


 一拍置いて、成水(なるみず)は続ける。


色歌(いろか)の話を聞く前から、私達も長姫制度(おさひめせいど)の撤廃を考えていました。今の時代に合わない文化である上に、長姫(おさひめ)の父親だけが得をする汚い仕組みですからね。島民の事を考えても必要の無い制度である事は明白でしたし、ずっと変革を求めていました」


 でも。と言葉が繋がる。


「それを許さない暴君が居ましたからね。彼の存在に私達も苦労していたので、自ら島を出て行ってくれて助かりました。こうして本音を語り、色歌(いろか)の意見を尊重してあげられるのも、大扇(だいせん)殿が居ないからです。彼は悪の元凶そのものですから」


 現役の当主が『長姫制度(おさひめせいど)の撤廃』を受け入れた背景を、成水(なるみず)は丁寧に教えてくれた。

 大扇(だいせん)を嫌う者同士、仲良くなれるかもしれない。


「では、最後に。これからの事について話しましょうか」 

 成水(なるみず)の進行により、話題が切り替わる。


「まずは既に決まった事を、色歌(いろか)にも伝えようと思います。政風(まさかぜ)殿、お願いします」


「うむ……侍屋敷家は長姫制度(おさひめせいど)の撤廃に合わせてこの地を離れる。以上だ」

 政風(まさかぜ)の言葉を、すぐに理解出来なかった。

 困惑する色歌(いろか)に、成水(なるみず)は補足説明を行う。


「今住んでいる屋敷を出て、島の反対側に位置する夢岬(ゆめみさき)という土地へ移り住むそうです。風瑚(ふうこ)舞風(まいかぜ)も、共に暮らす決断をしたと聞きました」


「……そうなんですね」

 突然告げられた風瑚(ふうこ)舞風(まいかぜ)との別れ。

 珠景姫(みかげひめ)の侍女として共に過ごした日々は、かけがえのない宝物だ。


 幼少期の頃から続いて来た関係が、もうすぐ終わってしまう。

 そう思うと切なくて、胸が締め付けられる。


「同じ島の中に居るんだ。会いに来れば良い。歓迎する」

 色歌(いろか)の心境を見透かしたように、政風(まさかぜ)は声をかけてくれた。

「ありがとうございます。時間を見つけて遊びに行きますね」

 微笑む色歌(いろか)を見て、政風(まさかぜ)は満足げに頷いた。


「もう一つ。決定事項があります」

 成水(なるみず)色歌(いろか)に目を向ける。


長姫制度(おさひめせいど)の撤廃宣言後、この宮殿は色歌(いろか)が所有しなさい。土地も自由に使うと良い。咲月姫(さつきひめ)珠景姫(みかげひめ)。二代に渡って神島家の姫がこの場所で生きて来たのです。文句を言う人は誰もいません」


 神島家の屋敷は大扇(だいせん)によって取り壊された為、色歌(いろか)の帰る場所はここしかない。

 長姫制度(おさひめせいど)が無くなった後、生活する場所が無くなる事を心配してくれたのだろう。


 御三家当主二人の優しさに感謝し、色歌(いろか)は深々と頭を下げる。

「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」


「決定事項は以上です。撤廃に向けた会議は、私と色歌(いろか)で適宜進めていきましょう」

「はい。よろしくお願いします」


 神島色歌(いろか)彩美(あやみ)成水(なるみず)侍屋敷(さむらいやしき)政風(まさかぜ)

 新しい代表による御三家会議が終わった。


 もうすぐ、長姫制度(おさひめせいど)の歴史が幕を閉じる。

 珠景姫(みかげひめ)が夢見た世界が、ようやく実現出来るのだ。


 十七歳の目に映る景色に、希望の光が差す。

 幸せな未来へ導くように――




《 読者の皆様へ 》

珠景色の春風鈴を読んで頂き、ありがとうございます❀.*゜

第5章の最終話、いかがでしたか?

ひとつの時代が終わり、物語も次なる章へ


物語はまだまだ続きますが、コメントや感想は大歓迎です! 気軽に送ってくださいね(*´꒳`*)

評価や良いねもお待ちしています!


第6章 もお楽しみに!

美珠夏/misyuka の宮本でした˙ᵕ˙ )ノ゛

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