最後の御三家会議
「では、最後の御三家会議を始めようと思います」
成水の一言で場の空気が整った。
「まずは長姫制度について話しましょうか。色歌、あなたの考えを聞かせてください。神島家の代表として、姫様や侍女達の意見を教えてくれると助かります」
呼吸を整えてから、色歌は揺るがない思いを語り出した。
「私は、侍女達と共に『珠景姫が夢見た世界』を実現したいと考えています。長姫制度を撤廃して、立場や性別で苦しむ時代を終わらせたい。誰もが夢を追える環境と、多様性が認められる社会の実現を目指したいです」
成水と政風は真剣な表情で、話を聞いてくれている。
ここに神島家の元当主が居たら、話の途中で考えを否定されていたはずだ。
でも、邪魔者はもう居ない。だから、自分らしく思いを伝えよう。
「姉さんは、誰よりも長姫制度の無い世界を望んでいました。姫という立場に縛られず、自由に生きられる日々を夢見ていたんです。でも、十七歳で長姫の昇格する事になって、淡い希望さえも打ち砕かれました」
あの夏の記憶を辿りながら、珠景姫と過ごした時間を言葉に変えていく。
「生き地獄が続くくらいなら、自分の命を使って未来の子供達に自由を与えたい。そう思った姉さんは、私にだけ打ち明けてくれたんです。『私が長姫制度を終わらせる』って」
そして、八月八日を迎えた。
十七歳の誕生日が命日となり、珠景姫の人生は終わってしまう。
「島が文化の転換期を迎えるきっかけを作る為に、姉さんは自ら命を絶ちました。結婚と妊娠を強要される前にこの世を去り、長姫と次の姫が不在という状況を作り出す為です」
珠景姫の思惑通り、次の姫は決まらなかった。
ここまでは計算通りだったが、現実の壁にぶつかってしまう。
「御三家に対する不信感や、既存の文化に対する懐疑心を島民が抱けば、長姫制度に対する問題意識が広がると思っていました。島民が動き出せば、文化の転換期もやって来る。そう信じていたのに、何も起こらなかったんです……私は三年の時間を無駄にしました」
一呼吸を置いて、色歌は顔を上げる。
「それでも前に進みたくて、島民の声を聞く旅に出たんです。そこで思い知りました…… 長姫制度に縛られていたのは私達だけで、変わらなきゃいけないのも私達の方だと――」
色歌は旅で得た島民の意見を、成水と政風に伝える。
『覚えていない』
『娘を失ったようで辛かった。珠景姫の思いを尊重したい』
『正直、どうでも良い。興味が無い』
『お前らの事を考えるだけ無駄』
『そんな事より、島民の暮らしを考えてちょうだい』
『咲月姫の娘が時代を変えようとしたのなら、その思いくらいは尊重してやる』
『これから生まれる子供達が可哀想』
『長姫制度が無くても、多くの島民は変わらずに生活していける』
『お前らの地区だけだぞ。長姫制度なんて、咲月姫の死と同時に終わったろ』
『珠景姫って誰?』
『時代に取り残されたお前らが、今更何を変えるんだ』
『長姫になっただけで、珠景姫は何もしていないでしょ』
『長姫制度は必要ない。もう終わらせるべきだ』
多種多様な意見を貰い、旅の途中で気づいてしまった。
珠景姫が作ってくれたきっかけは、島民の心を動かす事が目的じゃない。
時代の変革を恐れていた御三家に現実を突きつけ、前に進ませる為のものだと。
「御三家が長姫制度の撤廃を宣言して、本州や海外の文化を積極的に受け入れる体制を整えれば、新しい時代を迎えられるんです。歴史に縛られて生きるのは、もう終わりにしませんか? 私達は『珠景姫が夢見た世界』で暮らしたいです」
これは珠景姫と、五人の侍女の願いだ。
素直な思いを語った色歌は、成水と政風の目を見てから深々と頭を下げた。
「ありがとう。色歌」
成水に優しく声をかけられて、色歌はゆっくりと顔を上げる。
「長姫制度は終わりにしましょう」
世界から音が消えた。
涙が溢れ、頬を伝っていく。
「良く頑張ったな」
会議が始まってから一言も喋っていなかった政風が、ようやく口を開いた。
労いの言葉が心に重く響き渡る。
「はい……ありがとう、ございますっ……」
涙を拭い、色歌は笑みを浮かべた。
成水は穏やかな表情で色歌を見つめ、優しい口調で語りかける。
「珠景姫を失った日から、私達も現実と向き合い続けて来ました。長姫と姫が不在の状況に頭を悩ませ、大扇殿の愚行に手を焼き、前に進めない日々に苦しみました。三年の時を無駄にしたのは私達も同じです」
一拍置いて、成水は続ける。
「色歌の話を聞く前から、私達も長姫制度の撤廃を考えていました。今の時代に合わない文化である上に、長姫の父親だけが得をする汚い仕組みですからね。島民の事を考えても必要の無い制度である事は明白でしたし、ずっと変革を求めていました」
でも。と言葉が繋がる。
「それを許さない暴君が居ましたからね。彼の存在に私達も苦労していたので、自ら島を出て行ってくれて助かりました。こうして本音を語り、色歌の意見を尊重してあげられるのも、大扇殿が居ないからです。彼は悪の元凶そのものですから」
現役の当主が『長姫制度の撤廃』を受け入れた背景を、成水は丁寧に教えてくれた。
大扇を嫌う者同士、仲良くなれるかもしれない。
「では、最後に。これからの事について話しましょうか」
成水の進行により、話題が切り替わる。
「まずは既に決まった事を、色歌にも伝えようと思います。政風殿、お願いします」
「うむ……侍屋敷家は長姫制度の撤廃に合わせてこの地を離れる。以上だ」
政風の言葉を、すぐに理解出来なかった。
困惑する色歌に、成水は補足説明を行う。
「今住んでいる屋敷を出て、島の反対側に位置する夢岬という土地へ移り住むそうです。風瑚と舞風も、共に暮らす決断をしたと聞きました」
「……そうなんですね」
突然告げられた風瑚と舞風との別れ。
珠景姫の侍女として共に過ごした日々は、かけがえのない宝物だ。
幼少期の頃から続いて来た関係が、もうすぐ終わってしまう。
そう思うと切なくて、胸が締め付けられる。
「同じ島の中に居るんだ。会いに来れば良い。歓迎する」
色歌の心境を見透かしたように、政風は声をかけてくれた。
「ありがとうございます。時間を見つけて遊びに行きますね」
微笑む色歌を見て、政風は満足げに頷いた。
「もう一つ。決定事項があります」
成水は色歌に目を向ける。
「長姫制度の撤廃宣言後、この宮殿は色歌が所有しなさい。土地も自由に使うと良い。咲月姫と珠景姫。二代に渡って神島家の姫がこの場所で生きて来たのです。文句を言う人は誰もいません」
神島家の屋敷は大扇によって取り壊された為、色歌の帰る場所はここしかない。
長姫制度が無くなった後、生活する場所が無くなる事を心配してくれたのだろう。
御三家当主二人の優しさに感謝し、色歌は深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
「決定事項は以上です。撤廃に向けた会議は、私と色歌で適宜進めていきましょう」
「はい。よろしくお願いします」
神島色歌、彩美成水、侍屋敷政風。
新しい代表による御三家会議が終わった。
もうすぐ、長姫制度の歴史が幕を閉じる。
珠景姫が夢見た世界が、ようやく実現出来るのだ。
十七歳の目に映る景色に、希望の光が差す。
幸せな未来へ導くように――
《 読者の皆様へ 》
珠景色の春風鈴を読んで頂き、ありがとうございます❀.*゜
第5章の最終話、いかがでしたか?
ひとつの時代が終わり、物語も次なる章へ
物語はまだまだ続きますが、コメントや感想は大歓迎です! 気軽に送ってくださいね(*´꒳`*)
評価や良いねもお待ちしています!
第6章 もお楽しみに!
美珠夏/misyuka の宮本でした˙ᵕ˙ )ノ゛




