旅の終わり
夏空を制する入道雲。
坂道を下る牛車。別れを告げる分岐点。
静かな港町。光を照り返す水面。綺麗な白い砂浜。
山から降り注ぐ蝉時雨。稲を揺らして遊ぶ青田風。
木々に覆われた一本道。生まれ育った土地。
歴史を感じる小さな宮殿――
見慣れた景色を見つめ、色歌は安堵したように息を吐く。
「無事に帰って来れましたね」
小さな旅を終えて、色歌と小春は宮殿に帰って来た。
玄関の戸を開けると、掃除をしていた小鈴と目が合った。
「おかえりなさい!」
無邪気な笑顔に迎えられ、色歌と小春も笑みを浮かべる。
「「ただいま」」
宮殿の中に入った二人は、それぞれ自室へと向かう。
旅の荷物を部屋に置き、色歌は畳に寝転んだ。
疲労が蓄積した足を解放し、身体をぐーっと伸ばす。深く息を吐いて、慣れ親しんだ天井を見上げた。
濃い影が伸びる畳は、ひんやりとしていて心地良い。
夏の午後。静かに時間が過ぎていく。
「色歌さん!」
廊下の方から名前を呼ばれ、色歌はゆっくりと身体を起こす。
声の主に目を向けると、小鈴が部屋の前に立っていた。
「父様と、侍屋敷家の当主様が、姫様の部屋でお待ちです」
「御三家当主のお二人が……? どうして宮殿にいらしているんです?」
「父様と長姫制度について話した時にお願いされたんです。『御三家会議を開きたいから、色歌が帰ってきたら教えて欲しい』って」
侍女を集めた日。
風瑚と小鈴は、両家の当主に『長姫制度の撤廃』を訴えてくれたのだろう。
自らの意思で動いてくれた二人には、本当に感謝したい。
「なので、色歌さんと小春の帰りをずっと待ってたんです。でも、宮殿で待っているのも飽きちゃって、田んぼの方まで偵察しに行ったんですよ。そしたら、二人の姿が見えて、慌てて帰って来ました。その時に、父様達を呼んで来たんです。だから宮殿に居ます」
御三家の当主を宮殿に呼ぶまでの経緯を、小鈴は楽しそうに語ってくれた。
状況を把握した色歌は、軽く身だしなみを整える。
「今行きますね」
小鈴は一礼すると、珠景姫の部屋の方へ行ってしまった。
御三家の当主を待たせる訳にもいかず、色歌も立ち上がって部屋を出る。
そして、主を失った広い和室へと向かった。
「失礼します」
珠景姫の部屋に入ると、二人の男性が待っていた。
長髪が特徴的な彩美家の当主・成水。
勇ましい顔が印象的な侍屋敷家の当主・政風。
姫奥島の権力者である二人を前にして、色歌は姿勢を正して座った。
「お疲れのところ、申し訳ない。少しだけ時間を貰えるかな?」
「はい。問題ありません」
「畏まる必要はないよ。色歌。君は神島家の代表なんだから」
神島家の血を引く者は、もう色歌しか居ない。
当主の大扇は島を出て行き、長姫の母と姉は永遠の眠りについてしまった。
一人残された色歌が代表となるのは、自然な流れなのだろう。
「では、最後の御三家会議を始めようと思います」




