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珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第5章 十七歳の目に映る景色
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旅の終わり


 夏空を制する入道雲。

 坂道を下る牛車。別れを告げる分岐点。


 静かな港町。光を照り返す水面。綺麗な白い砂浜。

 山から降り注ぐ蝉時雨。稲を揺らして遊ぶ青田風。

 木々に覆われた一本道。生まれ育った土地。

 歴史を感じる小さな宮殿――


 見慣れた景色を見つめ、色歌(いろか)は安堵したように息を吐く。


「無事に帰って来れましたね」

 小さな旅を終えて、色歌(いろか)小春(こはる)は宮殿に帰って来た。

 玄関の戸を開けると、掃除をしていた小鈴(こすず)と目が合った。


「おかえりなさい!」

 無邪気な笑顔に迎えられ、色歌(いろか)小春(こはる)も笑みを浮かべる。

「「ただいま」」

 宮殿の中に入った二人は、それぞれ自室へと向かう。


 旅の荷物を部屋に置き、色歌(いろか)は畳に寝転んだ。

 疲労が蓄積した足を解放し、身体をぐーっと伸ばす。深く息を吐いて、慣れ親しんだ天井を見上げた。


 濃い影が伸びる畳は、ひんやりとしていて心地良い。

 夏の午後。静かに時間が過ぎていく。


色歌(いろか)さん!」

 廊下の方から名前を呼ばれ、色歌(いろか)はゆっくりと身体を起こす。

 声の主に目を向けると、小鈴(こすず)が部屋の前に立っていた。


「父様と、侍屋敷家(さむらいやしき け)の当主様が、姫様の部屋でお待ちです」


「御三家当主のお二人が……? どうして宮殿にいらしているんです?」


「父様と長姫制度(おさひめせいど)について話した時にお願いされたんです。『御三家会議を開きたいから、色歌(いろか)が帰ってきたら教えて欲しい』って」


 侍女を集めた日。

 風瑚(ふうこ)小鈴(こすず)は、両家の当主に『長姫制度(おさひめせいど)の撤廃』を訴えてくれたのだろう。

 自らの意思で動いてくれた二人には、本当に感謝したい。


「なので、色歌(いろか)さんと小春(こはる)の帰りをずっと待ってたんです。でも、宮殿で待っているのも飽きちゃって、田んぼの方まで偵察しに行ったんですよ。そしたら、二人の姿が見えて、慌てて帰って来ました。その時に、父様達を呼んで来たんです。だから宮殿に居ます」


 御三家の当主を宮殿に呼ぶまでの経緯を、小鈴(こすず)は楽しそうに語ってくれた。

 状況を把握した色歌(いろか)は、軽く身だしなみを整える。


「今行きますね」

 小鈴(こすず)は一礼すると、珠景姫(みかげひめ)の部屋の方へ行ってしまった。

 御三家の当主を待たせる訳にもいかず、色歌(いろか)も立ち上がって部屋を出る。

 そして、主を失った広い和室へと向かった。


「失礼します」

 珠景姫(みかげひめ)の部屋に入ると、二人の男性が待っていた。


 長髪が特徴的な彩美家(あやみ け)の当主・成水(なるみず)

 勇ましい顔が印象的な侍屋敷家(さむらいやしき け)の当主・政風(まさかぜ)

 姫奥島(ひめおくしま)の権力者である二人を前にして、色歌(いろか)は姿勢を正して座った。


「お疲れのところ、申し訳ない。少しだけ時間を貰えるかな?」

「はい。問題ありません」


「畏まる必要はないよ。色歌(いろか)。君は神島家の代表なんだから」

 神島家の血を引く者は、もう色歌(いろか)しか居ない。

 当主の大扇(だいせん)は島を出て行き、長姫(おさひめ)の母と姉は永遠の眠りについてしまった。 

  一人残された色歌(いろか)が代表となるのは、自然な流れなのだろう。


「では、最後の御三家会議を始めようと思います」


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